9話 おりひめとひこぼし

「……は?」
「間抜けな返答をするなって言った傍から間抜けな返答する?」
「いや、だって突発過ぎだろ、佑志」
「そうだよ、聖だってあっちの学校で用事あるかもしれないし…」

 音楽準備室という名のStells会議室。佑志からお昼に集合をかけられ、弁当持参で来たら、行き成り七夕祭でゲリラライブをしよう、という話を持ちかけられた。
 そもそも七夕祭でそんなこと校長が許すのか判らない、と千早が危惧しながら言うと、既に一時的な許可は得たと返答が帰ってきて、また間抜けな返答をしてしまう。

 唯でさえ有名なStellsが、文化祭より前に行われる「七夕祭」という文化祭と同じようなイベントでライブをするなんて、と当の本人たちのほうが慌てていた。そんなことをしていいのか、と。
 この「七夕祭」は、一般入場も可能になっているイベントなのだ。

「…本っ当、思いつくことがハデだよなー佑志は」
「だね、学校でゲリラライブなんて」
「まぁ、軽部とか吹部が終わったあとにサプライズプレゼンツってーわけでやってみようかと思ったわけですよ、えぇ」

 軽音部、吹奏楽部が学校の中庭に設置される特設ステージで演奏するなんてのは、当たり前になってきている。それらの発表が終わってから乱闘するらしい。
 これは当日は混雑が予想される、のレベルではない、と苦笑気味に千早が言う。だけれど、それはライブが始まったらだ、と沙那が付け足した。

「で、当日だけの曲とかあるのか?」
「それはねー…実は…」

 その事実にいろいろな意味で驚く生徒が2人、お昼ご飯を中途半端にして午後の授業を受けることになる。

+++

「…なぁ、沙那」
「何、千早」

 桔槻家、千早の部屋。その窓を開けて千早と沙那は会話中だ。

「…あの案、通ると思うか?」
「七夕祭ゲリラライブ?」
「いや、それはそうなんだけど」

 それではなくて別の話だ、と口にしなくても、沙那は気付いたようで、ああ、あの案ねと半分呆れたように言った。

「そもそもそれを聖が承諾するかどうかってーのも…」
「それは本人に聞くしかないよねぇ…」

 メールで聞いても構わないのだが、やはりこういう話は会って話をしたほうがいい。そう千早は思っていて、その場合は聖の在籍している学校に乗り込むのが手っ取り早いというのも判っていた。
 乗り込むか、と口にすると、沙那に千早だけでいってらっしゃい、と返される。それがあまりにもにこやかな笑いで、千早の顔は一瞬引きつった。

 その後、両者共に笑い出して、自然に笑いが収まってから、それからおやすみ、と一言だけ言って窓を閉める。

 千早はベッドに寝そべりながら考える。聖にこの話をしたら、彼はどんな反応をするんだろうか、と。千早にとってそれが楽しみでもあり、申し訳なくもあった。
 この案を承認するのは聖次第だ。彼は認めてくれるのだろうか、という不安も少なからずあった。

 そんなことを考えながらふ、と目を閉じて、暗闇が広がる。そうして、千早は夢の世界へと召されたのだった。

2006/12/09,2010/01/02