7話 Cherry Smile

 ある日の桔槻家。一軒家改造スタジオ。Stellsの高校生メンバーは、学校を休んでまでレコーディングをしていた。それで授業は大丈夫なのか、と誰も心配しない。少なからず、今までこの生活をしていて出席も大丈夫な範囲で、試験に支障も出ていないからだ。

「…しっかしまぁ、サウンドコンポーザーがいないよ」
「ドラマーともいえるよね〜」
「仕方ないでしょ、まず『学校の教師』だし。午後は授業無いから有休とってこっちくるって」
「へー、メールでも来たのか?」
「あぁ、うん」
「…仮にもStellsのリーダー俺なんだけど…」

 何故リーダーである千早に連絡をしないのか、と千早は憤慨する。呟きながら、千早は机の上にアップルパイを置いた。
 世話になっている近所の八百屋に野菜を買いに行ったのだが、ついでだとリンゴをもらったのだ。一人で食べきれるとは思わなかったので、折角だからとアップルパイにした。

「香りからして美味しそう〜…」
「もう私お腹ぺこぺこだよー…」
「そりゃボーカルだからね…、歌っていればお腹空くさ」

 そう沙那に言いながら、千早はアップルパイに包丁を落としてゆく。綺麗に8等分をして、小皿に分けて沙那と聖に手渡す。
 そのアップルパイを食べながら、沙那は思い出したように呟いた。

「…そういえば、今回のシングルの2曲目って聖と千早のデュエットでしょ?」
「あ、そういえばそうだったね〜」
「詩の方は?どっちが書くの?」
「とりあえず従来どおり俺が作詞。作曲は佑志って事になる。が、ちょっとピアノ入れて欲しいんだけど、大丈夫か?」
「あぁ、このレコが終われば大丈夫だけど?」

 その沙那の言葉に千早はにっと笑った。予定通りに曲が出来そうだ、という笑みなのは誰にでも判った。
 だけれど、と聖が追加する。その曲は和風ロックで、ジャズやオーケストラなどのピアノのレベルではないのだ。もちろん、ピアノの曲自体に早弾きを必要とされるものもある。その曲を沙那が弾けたかどうかは、判らなかったのだ。
 だが、沙那はぐっ、と拳を握り締めてから、受けて立とうじゃない!と意気揚々に口にした。久し振りにピアノ担当だね、なんて話にもなった。
 沙那はアップルパイを口に放り込むとマイクの前にまた立って、発声を始める。それを遠目に、聖と千早はデュエット曲の話を続けていた。

「今回の、随分長いの作ったよね〜、千早」
「…勢い任せに書いてたら長くなった」
「かといってあれを削ってしまうと物語性がなくなる、か〜…」

古びた館 生えた蔦
その館に住まう者
悪魔のごとき赤き瞳を持つ少女

いつからその館があったのかなんて
誰も知らなくて
気付いたらあった館だった

満月の夜 古びた館
人の悲鳴が聞こえるという
それは悪魔のごとき少女のせいか

夜な夜な聞こえる叫び声に
人々は恐れた
気付いたらこの町に人は居なくなった

悪魔のごとき赤き瞳を持つ少女
ある日少女が館から出た
そのとき既にその町は
もぬけの殻
人一人 住んでなどなかった

 紙に書き殴られた歌詞を一通り見て、聖はこれだけでも十分な気がする、と一言。流石にこれでは短い、と千早は返すが、その後に閃いたようで、指を3本立てると、「いっそ3部作で」と聖に言う。それもいいかもね、という話になって、話が終わったと思いきや、何処からか、千早にスリッパが直撃する。

「今更それを言うな!!!」

 千早は飛んできた方面を見やる。そこには当たり前だが沙那がいて、沙那の呆れ顔に聖も千早も呆れ笑いをしたのだった。

2006/11/21,2010/01/02