6話 春フェス 1Days 2

 ああ面倒だ、なんでピアノソロなんだ、と未だに愚痴りながらステージを舞台袖から見る佑志に、千早が一つの疑問を問うた。

「さっきから聞きたかったんだが、皐月さんの前だと喋り方や声音が違うのは何でだ?」
「…こっちが本性って事だ」
「成る程。」
「まぁ、それは『皐月』の前でが主にだけどね〜」
「……うん、そうみたいだな」

 あははーと明るく笑って見せる佑志は、千早も沙那も聖もがずっと見てきた佑志だ。その佑志と、ほしざきさつきに対しての声音が明らかに口調が違う。二重人格かこいつはなんて思いながら、千早はステージを見た。

 響き渡るギターやドラム、ピアノ、ヴァイオリンの音。それに調和するボーカルの声。そうやって舞台から聞こえる音に千早は耳を傾けて、ふ、と思った。いつまでこうして、芸能人として活動していけるのだろうか、と。
 物思いに耽っていると、佑志を呼ぶ声がして、その声に千早も振り返った。

「あぁ、次はお前だな、『皐月』」
「ピアノのほう、大丈夫…?」
「あぁ、問題は無い。多少失敗しても誤魔化すから安心しろ」
「うん、宜しくね」

 そうさつきが言って微笑むと、佑志はコートを羽織った。どうして着るのかと皐月に問われて、佑志はStellsではないということを改めて強調した。そうだった、と皐月が笑うと、普段千早たちが見るようなふざけた微笑みではなく、落ち着いた微笑みを露わにした。
 それに千早が驚いたままでいると、佑志に皐月の3番後にStellsだと言われた。それから追加するように心構えだけはしておけと言われて、苦笑交じりに判っている、と告げる。判っている。それにくすくすと皆が笑う。
 その笑いを背に、さつきと佑志はステージへと出て行った。

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『皆ー!元気にしてるー!? 今日は新曲を含めて4曲、歌わせてもらうよ!』

 わ―――…、と人の声が重なって歓声が響く。その状況を、千早は安易に想像できた。想像して、自分たちがデビューしたときを思い出していた。

「…凄いね、新人の勢い」

 そう沙那はぽつりと呟く。その声に聖も千早も頷いた。自分達も、1年ちょっと前はこんなだった、と思い出しながら。
 今は落ち着いて、こうやって周りをゆっくりと観察できるようになった。デビューしたての頃はどうすればいいのか判らないことも多くて、多少無茶をしていたこともある。今となってはそれほどの無茶をしていることはないはずだ。

「…いや、無茶して無いとは言い切れないな…」
「何よ、いきなり?」
「いや、昔を。デビュー当時を思い出したんだ」

 懐かしいとも思うし、辛かったとも思う。今となってはもう嫌な程に有名になって。昔とは全く違う日常を送っている。

 そうやって千早が考えていると、皐月が緊張治まり切らぬ顔で戻ってきた。その後ろには佑志がいた。

「っはー…やっぱり凄い緊張する〜…」

 そういって皐月が座り込むのを、佑志は黙っては居なかった。皐月は佑志にそこにいると邪魔になる、と言われて判ってるんだけど、と困った顔をしながら言った。

「えと、足に力が入らなくて…」

 そう言われて、佑志は皐月の足を見やる。ぱっと見ただけでも判るくらい、震えていた。余程緊張していたのだろう。佑志は短く溜息を吐き出して、皐月を抱き上げる。その際、皐月からぎゃああと悲鳴が聞こえて、佑志の顔が呆れる。

「歳も歳なんだからもう少しマシな声出せよ、お前ってやつは」

 色気の欠片もねぇよ、と佑志の口から出た言葉に、皐月は佑志の顎に軽く(とはいえ結構痛そうな)アッパーを入れた。その事実は、そこに居た関係者やアーティストしか知らない話だ。
 その光景が微笑ましいと思いながら見送っていると、自分たちの時間が近づいていることに気付く。

「一応休憩挟んでからだから、軽く練習する?」
「今は…ドラマーが消息不明になってるけど?」

 聖の声に沙那は慌てて辺りを見回す。佑志の姿は見当たらなかった。まだ戻ってきていないようだ。

「あれでも結構心配してるみたいだから、もう少ししたら戻るだろ」
「休憩中には戻ってくると思うよ、流石にさ」
「…そうね」

 そういった直後、溜息を漏らして佑志が姿を現して、思わず笑ってしまったのは沙那一人だった。

+++

「…ってとー、今回新曲メドレーばんざーいだな」
「佑志が言うと何か…嫌だな」
「嫌言うな千早くん」
「気持ち悪っ」

 言葉とともにずさっ、と一歩引くとなんだよ、と佑志が膨れっ面になる。27にもなってこれはないだろ、と そう心の中で思ったことは流石に口に出さないで置いた。

「…Stells出番でーす!!!」

 スタッフの声がかかって4人は軽く苦笑して、それからステージへと足を踏み出していった。

2006/09/16,2010/01/01