4話 Stellsの集合場所

 ひょいっ、ばたん!とでも表現できるような可愛らしい音(?)を立てて後部座席に投げ入れられたのは聖だった。投げ入れた本人は佑志で、相変わらず乱暴だよ、と聖が言葉にする。だが、佑志は語尾にハートマークでもつけそうな勢いで文句は言わなーい、と言って運転席に腰をかけた。

「打ち所悪いと芸能人として致命傷になると思うんだけど…」
「…あ、確かにそうだね」
「今更気付いたように言うな」

 千早は軽く舌打ちをしながら佑志を横からどついた。そのどつきでかえるの潰れたような声が聞こえたと思いきや、同時、車はいきなり発車した。

「いきなり発車したことに関しては千早を怒鳴り飛ばしてくださーい」
「相変わらずムカつく奴だなお前は…!!!」

 いきなりの急発進に心臓が飛び上がった一同は、その千早の声に苦笑した。

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「…まったく」

 千早は、勢い良く車の扉を閉めると目の前の家屋に向かっていった。その後姿を、沙那と聖は仕方が無さそうに笑いながら見る。
 扉の前で鍵をどこへやったかと探す千早に、沙那が、朝カバンの外側に投げ入れていたと指摘。そうだった、と苦笑しながら外側のポケットを漁り、そうして見つけた鍵を鍵穴に差し込んだ。

 ここは桔槻千早の家だ。だが、普通の家ではない。

「あー、そういえばこの間新しい機材が届いてましたよ佑志さーん」
「あー、あれかー」
「結構時間かかったね〜」
「そりゃもう普通には手に入らないものを無理に注文したからねぇ…」

 しみじみと佑志は言いながら、桔槻家の中に入って行く。その後を、沙那と聖も付いていく。

 千早が当たり前のように一つの扉を開けると、そこには収録に使われる機材がずらりと並んでいた。そしてもう一つ奥へ行くとそこにはドラム、ギター、ピアノといった楽器類。
 防音設備までしっかり整っており、まるでここはスタジオ、というようだった。千早の両親がわざわざ改築してスタジオにしてしまったのだ。

「来たの何ヶ月ぶりだろう〜」
「聖は2ヶ月ぶりぐらい…じゃないかなー。私は頻繁に来るけど」

 そんな沙那の言葉に、千早がつかさず一言、家が隣だからね、と言う。それからすたすたと別の扉を開けた。その扉から見える景色は廊下と中庭で、扉の先は通路になっていた。

「とりあえず、軽く何か食ってから音合わせてみねぇ?」
「そうだね、その方がいいか」
「あ、そうだ、聖に音聞かせないとならないんじゃなかったか?」
「曲出来たの?」

 え、と聖が驚いた顔をして佑志を見る。すると佑志はとりあえずな、とどこか不満そうに言った。それを見て千早が短く溜息を吐き出した。千早はその不満の原因を知っているようで、溜息の後に苦く笑って何か食事を作ってくる、と一言。

「作ってる間と食べてる間に流しっぱなしにしときゃいいんじゃね?」
「あぁ、そうするよ。あ、トマトだけは入れないでよ」
「相変わらずトマトが苦手なようで」

 トマトだけは入れるなと言った佑志に、くくく、と千早が笑うのに対し、佑志はむすっとしたまま機材の方へ向かっていった。
 千早が扉の向こうへ消えて、扉が閉まる。それと同時に新曲のインストが流れてくる。聖はそれを暫く何度も聞いて、何分経ったか、何回聞いたのか判らなくなってきたころに、当初の予定から結構変わったね、と一言呟いた。

「最初はゆっくりめのポップスの予定だったんだがなー。沙那が弄った歌詞見たら遅いのじゃ無理だーと思ってテンポを一気に速めてみた」
「でも随分と早いよね…沙那歌えるの…? これ結構文字数あるし」
「あー、まぁノリで?」
「アバウトだなぁ〜!!!」

 そう聖が笑うと同時、扉が開いて千早が現れた。その手には大きなお盆があって、そしてそのお盆の上にはスパゲッティが4皿。

「えーと、沙那がペペロンチーノで、佑志がたらこで聖がバジルソースでよかったんだよなー?」
「おっけーおっけーバリバリおっけー!!寧ろカモーン!!!」
「沙那凄いハイテンション…」
「…沙那はペペロンチーノが大好物なんだから仕方ないよねぇ。千早は料理上手いし」

 流石1人暮らし。うむうむ、と1人で納得している佑志の目の前にたらこスパゲッティが置かれる。

 千早は現在この家に1人で暮らしている。 一丁前の一軒家で、本当ならば両親もこの家に居るはずなのだ。だが、彼の両親は現在京都の父方の実家に居る。その理由を何故なのか、と聞くと千早は必ずこう言う。

『家を改造していきなり出て行ったから言われても返答に困る』

 この家をスタジオそのものに改造して(2階は個人が休めるように部屋が3つある)いきなり出て行ってしまった。彼の両親なり応援してくれているのだろうが、あまりにも突発過ぎて、千早はその当時、中々この生活に慣れなかった。

 沙那の家はお隣さんで、家族も全員居るため、この生活に慣れる前は良く葉塚家で夕飯を一緒に食べていた。千早と沙那はずっと前からの腐れ縁ともいえる幼馴染で、家ぐるみで仲が良い。

「食べたらとりあえず各々音拾って個人練習ねー」
『りょうかーい』

 佑志の声に、3人の声が重なったのだった。

2006/09/13,2008/04/22,2010/01/01