17話 光り輝くモノ

「遂に着ちゃった七夕祭★」
「うわーめっちゃ引くー…」

 妙にテンションが高い佑志から一歩、また一歩と引いていく千早。何故こんなハイテンションなのかは知っている。

「SACRIFICE名義の曲が終わらないからって徹夜するなよ。今日はす、て、る、す、で!ライブやるんだから」
「いやいやーそうなんですけどねーですけどねー。なんていうか気付いたら朝でしてね、あっはっは」

 いや、本当にコレ壊れてる。心の中でこっそり思うと、千早はあからさまに溜息を吐き出す。

「そろそろ打ちのクラスの出し物始まるから俺行くわ」
「おー、いってら。担任は音楽準備室でのたれます」
「皐月さん来るって言ってたぜー? それまでには生きてろよ」
「生きてろよ、なんて薄情な!千早の特製料理でどうにかしろ!」
「いやここ学校だから!無理!俺調理部じゃねぇし!」

 ってーわけで、じゃあな!そう言い残して千早は準備室を出て行った。

「ちっきしょ…本当眠いんだっつの…」

 うげ、と短く搾り出して、書類の散乱する机に突っ伏した。

+++

「佑志が完全にイってる。壊れてる。狂ってる」
「三拍子同じようなもんが揃ってる」

 そう突っ込んだのは伶都。芸能の世界ではZiONのキーボーディストを務めるこのクラスの学級長。

「だってよー、聞けよ伶都」
「命令かい」
「昨日、つーか今日の朝方まで俺まで巻き添え食らってベース弾いてたんだぞ」
「何、SACRIFICEのヘルプするの?」
「いや、ちゃうけど…。佑志がギターで俺ベース。夜中に掻き鳴らし捲くってました」
「うっわ近所迷惑」
「いや、防音室だから問題はないんだけど…。あれは凄かった、途中から佑志が本当に狂い始めたんだもんよ」
「…どんな風に?」
「………大人の世界に」
「………、よく耐えたな、お前…」

 よしよし、と伶都に頭をぽん、と叩かれた。子供扱いされているがそれを気にする余裕はない。

「佑志がそっち方面走り出すと本当に俺止められねぇもん…。あれは聞いてるほうが恥ずかしい、いや、本当マジに」
「ていうかお前も今日充分狂ってる。 物凄い早口でちょっと訛りながら捲くし立て上げてる」
「マジで?」
「マジでだ。間髪居れずに良く言葉が続くもんだと思うんだが」
「あっはっはっはっは。じゃあ佑志が夜中にあんな不健全な話をするからだ」
「その手の話はとことん弱いお前がそれで狂った、と…。何も起きないと良いけど」
「寧ろ佑志が何か起こしそうだと思うよ、俺は」

 あんな状態だと皐月が来たときに何か起きてしまいそうな。そんな気がしてやまない。
 千早はそう思いながら、教室の壁に立て掛けられている看板を手に取る。

「さてさて、外回り行って来まーす」
「いってらっしゃー」

 1時間位したら戻ってきて伶都にバトンパスしよう。そう思いながら教室を出た。

+++

『毎年恒例七夕祭のビッグイベントォオオオオ!!!』

 中庭から聞こえるそのアナウンスに、千早は思わずうんざりした。確かこれは毎年恒例で生徒会が主催しているビッグイベント…である。結構迷惑なイベントだと思っているが、人気があるらしい。
 溜息を吐き出して通り過ぎようとすると、千早を呼ぶ声がした。

「あれ、千早が珍しい所に」
「お、沙那。珍しいって何だよ、珍しいって」
「だってさ、ここ生徒会の『恋人作っちゃおう企画』会場じゃない」

 この学校では妙な行事ながら人気なこのふざけた企画が毎年開催され、このイベントにより恋人が出来ているのも事実だ。

「…いや、そうだけど…。俺客寄せに使われてるし」
「あらま」
「そういう沙那は何か絶叫したいことでも?」
「いや、友達が出る出るうるさいもんだからついでに来た」
「なーる。……沙那に告白するやつとか、いなきゃいいけどな」

 ぽそり、と沙那に聞こえないように沙那と真逆の方向を向いて言う。聞かれていたら溜まったもんじゃない。

「…何か?」
「いや、何も…」
「で、客寄せはいつまで?」
「1時間位したら伶都に回す予定」
「被害被られてるよねぇ、伶都君って」
「良んじゃん、別に」

 ぶっきらぼうにそう返すと、そのふざけた企画のステージを見る。見てる側としては結構面白いのだが、参加側や迷惑を吹っかけられる側になると非常に面倒なのだ。

『さてさて、始まりますよ!子羊ナンバー1番! 瀬戸一紀ちゃん!さて、誰への告白でしょう!』

 あぁ、もう。本当に楽しそうだな。
 そう心の隅では思う。けれど、逆に迷惑だな、と感じる時もある。

『子羊ナンバー3番! 2年A組、間藤和実!行きます!』

 あ、あの子だよ私の友達、と沙那が言うので、ステージに視線をやる。沙那とは違うクラスじゃないか。それでも友達がいたのか、と失礼ながら思う。
 沙那が友達というのだから相当のはずだ。一芸能人でもあるが故、それを目当てとして近付いてくる者も多いのだから。

『私は…ッ、2年E組の千早君が好きです…!!!』

 その言葉に、あーあ、と呆れる沙那の声がした。その答えに対する反応からして、沙那は判っていたらしい。そう思ったと同時、人込みが割れるように視線が刺さった。

「……………悪いけど、無理」

 自分に向けられていると判っていたので、少しばかり沈黙しながら答えた。気がないのだから仕方がない。諦めてもらうだけだ。

「俺、ずっと1人しか居ないんで」

 すきなひとは、ひとりしかいない。
 その言葉にも会場が揺れた。唯でさえあのStellsのリーダー兼ベーシストがこの場に居るということでざわついているのに。更にその千早の発言でざわめく。

「んで、宣伝がましいけど許せ。2年E組で縁日やってんでどうぞ」
『女の子振っといて宣伝すんなー!』

 聞き覚えのある声と共にペットボトルが顔面直撃。仮にも芸能人である俺に何をするんだ、なんて言いたかったけれど、そんなことを言うわけにもいかない。ペットボトルを投げてきたことに対して、声を荒げた。

「有香先輩も反則でしょ!それ!ペットボトル投げんな!」
『あたしは悩める乙女の見方なんだー!薄情なちーちゃんなんかどっか消えろー!』
「ちーちゃん呼ぶな!しかも消えろとか言うな!幼馴染の癖して!」
「有香ちゃん、やりすぎ…」

 沙那も呆れてマイクを手にしている生徒会の1人に言った。
 彼女は暁 有香。千早、沙那の幼馴染で1つ年上。確か、生徒会の副会長をしていたはずだ。

『ちーちゃんの薄情者ぉおおおおおおお!』

 その大絶叫はマイクを通していた為、マイクからキーンとか嫌な音がなって会場が一瞬騒然とした。その間にすたこらと千早は退散するのであった。

2007/06/10,2011/03/24