13話 一時の迷い

「………」

 結局、千早は伶都に聞けなかった。お前はZiONのキーボーディストなのか、と。その問いを投げかけられないまま、表情を曇らせて千早は、楽屋に居た。

「…結局、大津くんには聞けなかった…んだ?」
「あぁ…聞こうと思っても…怖くて聞けない」

(もしそうだったら俺はどうするんだろう。伶都を嫌いになるのか?)

 怜都は、嫌いになれるような人間じゃない。もしも怜都がZiONのキーボーディストでも、千早が怜都を友達だと思っているのは変わらないことだ。
 今更嫌いになるだなんて出来ない。

「…そういえば、佑志は?」
「皐月さんに呼び出され」
「あーそっか…今日、SACRIFICEのデビューシングルのお披露目もあったんだよね」
「StellsとSACRIFICEどっちも、なんて…良くやってられるよ」

 つい先日まで弱っていたはずの従兄弟は、いつも通りだった。ただ、沙那や聖に対しての幼い喋り方ではなく、皐月のみに対して出ていたぶっきらぼうな喋り方になっている。

「………千早」
「ん…なんだ?」
「…あんまり、気にしちゃ駄目だよ。大津くんのこと」
「まぁ、判ってはいる…つもりだけど」
「気にしすぎてヘマしたら叱責食らっても文句言えないからね」
「あーそっか、そうだよなー…」
「千早〜沙那〜」

 独特の延ばしが聞こえて、千早と沙那は顔だけその声の主へ向ける。

「あぁ、聖」
「ごめんね〜、遅くなって」
「いや、聖色々忙しいんだからあんまり無理しないでね」
「うん、判ってるよー沙那」

 インディーズ、というか水守の軽音部として活動するSparkle tearの活動もあり、ハードスケジュールの中の参加だ。身体の方が持たないのではないかと心配する者も居る。

「あれ、佑志は?」
「んー皐月さんに呼び出されてるけどそろそろ戻ってくるんじゃないかなー」
「呼ばれて飛び出てじゃじゃ…げふっ!!!」

 突如して現れた佑志が全てを言い終わる前、千早の鉄槌を喰らう。

「遅いんだよ。そのくせ能天気な登場するな」
「ううう、酷いじゃないか千早くん」
「気持ち悪いんだよ」
「ま、冗談はこのあたりにしておいて」
「佑志、最近切り替えが早くなったね…」
「…そりゃボケが続かなくなるって判ってきたしね」
「あはは…」

 大人気ない大人は、少し学習したらしい。調子が戻っただけでもいい。

「…あと10分で本番始まるからちょっと急ごうか、聖」
「あぁ、うん。急いで着替えてくるよ」

 新曲のチェリースマイル。昨日発売したばかりだというのに売り切れている店舗があるらしい。つくづく自分達が人気だと思わされる。

+++

「…本日も始まりましたミュージッククラフト! 司会はワタクシ、志良今利(しろういまり)でお送りいたします!」

 毎週ある音楽番組の一つ、ミュージッククラフト。この番組の視聴率といったら物凄いことこの上ない。

「本日のアーティストはぁあっ!」

 今利が声を張り上げると会場がざわめく。これも毎度のことで、テレビで見ていてもお馴染みのパフォーマンスだ。

「昨日新曲『チェリースマイル』を発表したStells!」

 この声がして、千早はChihayaとしてスタジオに足を踏み出した。煌びやかなステージのある、音楽界へ。

「…あれ、1人足りませんね…?」

 今利の声に思わず千早は苦笑いをした。今日は佑志ことYu-shiが、Stellsとしては登場しない。

「Yu-shiですか。後で判りますよ」
「…? 続いてほしざきさつき! 本日は新ユニットSACRIFICEとしての登場…ってStellsのYu-shiが…!?」
「相方ですよ、Yu-shiは」
「ななななーんとぉおお! StellsのドラマーであるYu-shiは今回SACRIFICEとしても登場!」

 スタジオのざわめきは最高潮。まだ始まったばかりなのに、こんなにも盛り上がる。
 そうやって次々と出てくるアーティストの数に思わず千早は口の中で転がすように多いな、と呟く。そして、そこには―――あのZiONも居た。

 見る限りでは伶都らしき姿は見えない。伶都だと判らないようにしているのだろうか。

+++

「先日発表されたチェリースマイルですが、今回の曲はChihayaさんとSanaさんで作詞をされたそうで」
「ChihayaがYu-shiに無理やり作らされた詩を私が改造して曲にしちゃいました」
「それは言わん約束だろー…」

 撃沈する佑志に千早が笑う。事実なのだから仕方がない。

「カップリング曲はChihayaさんとHiziriさんのデュエットということで、何故このようなことになったんでしょうか?」
「発端は…なんだったっけ」
「なんかやりたいね、っていう話をしてこんなことになったような気がしますけど」
「そしたらChihayaがとんでもないピアノパートを作り上げまして」
「それを爽快にSanaに弾いていただきました」
「いや、あれは爽快って言うより必死だった気がするのは俺だけですか、Chihaya」

 そう佑志が突っ込むも、準備が整ってしまったのでStellsはステージへ上がった。

 沙那がチェリースマイルを歌い終わる頃…。一方で、皐月は楽屋での出来事を思い出していたのだった。

2007/04/11,2011/03/24