12話 嘘か真か

 5月某日。今日は朝から騒がしい。 何でかって? そりゃ、あのStellsが新曲を出す日だからだ。本当、人気だよなー…Stells…。

 桔槻千早…。葉塚沙那…。木ノ宮聖…。伍川佑志…。
 どの名前も懐かしいって言うか。慣れ親しんだ名前なんだよな、俺にとって。けど、あいつらは気づかないだろうなぁ、って。俺が誰かも判らないと思うしさ―――。

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『本日はStellsの新曲チェリースマイルが―――…』

 朝のニュースからこれだ。朝食の準備をして、テレビをつけて、千早は動きを止めてしまった。

「…まぁ、今に始まったことじゃないんだけど…。学校休んでる奴が居ないことを祈るか」

 学校を休んでまで買いに行くとか言う人もいるという話。現に発売日に何人かクラスメイトが休みだったこともあった。

「…で、佑志」

 机の向かいの人物に声をかけた。

「んだよ」
「体調は復活したか?」
「まぁ、そこそこな。いつまでもうじうじしてられないしここはいっそ諦めるしかないかなーって」

 千早の予感は的中した。佑志が壊れてきている。諦めの悪い佑志が、諦めるだなんていうのがその証拠だ。

「明日のミュークラ出れるのか?」
「出るに決まってる。ドラマー居なくて何するって?」
「…そうだな」

 ことり、と佑志が茶碗を机に置いて箸を揃える。

「さってと、俺は先に行くよ。後片付け宜しくー」
「はいはい」

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「…ZiONのキーボーディスト?」

 学校に行って、佑志に言われた言葉に沙那が首をかしげた。ZiONというヴィジュアル系バンドのキーボーディストがこの学校にいるらしい、という噂を手に入れたらしい。

「何でもうちの学校に居るらしいぞー」
「うわ、マジかよ」
「そこでなんでドン引きするかお前は」
「いや、だって考えても見ろよ? ZiONだって結構知名度あるだろ? 加えてStells3人揃ってる事実がここに」

 そう千早が言うと沙那が多いね、と言葉を零す。1つの学校に、アーティスト育成学校ではないのに、アーティストが多いのだ。

「七夕祭は大変混雑が予想されると思われますがいかがでしょう、伍川先生」
「知るか」
「知るかは無いだろ、知るかは」
「まぁ、その時はその時で臨機応変だよ、千早。で、ZiONのキーボーディストの話だけど」
「この学校の何処に居るのか、って全く判らないんでしょ?」

 沙那の問いに、佑志は楽譜を揃えながら口を動かす。

「何となく、経歴だなんだで見当が付いてるのは居る。うちの高校の軽音部に属してるのと―――うちのクラスの大津だな」
「伶都が!?」

 佑志の口から出た名前が、意外な名前だった。そんな名前が出てくるだなんて。
 千早の…つまり佑志の持つクラスのルーム長…大津伶都がZiONのキーボーディストかもしれない。
そう思うと、妙な引っ掛かりを感じた。

「一番疑って掛かってるのは大津だ。幼少時から現在までピアノとキーボードを習ってる」

 佑志がその情報をどこから手に入れてきたのかは別件として。その事実に、千早は驚かされた。

「こっちが驚いたぐらいだぞ?ZiONって、Stellsに一方的に喧嘩売ってきてるグループだし…」
「けど、伶都はそんな感じは一切ないぜ…?」

 ZiONと言えばStellsに喧嘩を売ってくる。会う度にそうだ。それなのに、怜都は友人として仲がいい。喧嘩をしたことなんてないのだ。
 それを口にすると、佑志がびし、と千早を指さして声を荒げる。

「そう、それ!それが不可解なんだよそれが!」
「人を指差しながら言っちゃ行けません」
「ガキくさいこと言うな」

 伶都が…ZiONのキーボーディスト…? そればかり頭に浮かぶ。いつも仲良くしているあいつが喧嘩を売ってくるなんて、信じられない。
 考えていると、昼休み終了の予鈴が鳴った。

「っと、次英語なんだよね。じゃあねー!」

 沙那が慌てて去るのを見送って、それから佑志を見た。

「…嘘かどうかは、自分で確かめて見ると良いよ」
「…あぁ、聞いてみるよ」

 伶都が、本当にZiONのキーボーディストだったら。

(もしそうだったとしたらだったら…? 俺はどうするんだろう)

2007/03/31,2011/03/24