** 序章 始まりのクローシュ **

line

 人類が西暦を定めてから六〇〇〇年。人々は『魔具』という物を自分の体内の霊素と合わせる事によって『魔法』を使役することが出来るようになっていた。
 そしてこの世界ではギクシャクとしたロボットから人間とも変わらないアンドロイドまでいろいろな種族を作り上げた。もちろん宇宙船も存在しており、人々は宇宙へ飛び立てるようになった。

 それが当たり前になってきて、言語が統一できるような機械が作られて、今の社会に役立っている。

 六一一五年。サイプルス銀河内、惑星ミンディシア。
 今年で二十四歳を迎える成績優秀な青年が一人。名をセイジ=アルカワと言う。出身地は地球。太陽系の地球アカデミー時代は常に主席であり、まるで『完璧』がただ服を着て歩いているような感じだったという。トレードマークは眼鏡。視力はそれなりに悪いほうらしく、眼鏡を手放す事はない。

 そんな彼は史上最年少十六歳で宇宙船の搭乗員――しかも操作を行なう側――の資格を得、今現在までの八年間ずっと宇宙船と共に仕事をしてきた。仮にも彼のような操縦者を含め搭乗員は軍人扱いされ、階級もしっかりとある。
 セイジは年齢に合わず中佐の階級を得ていた。そして、戦闘艦ストレングスの艦長を務めたほどの実力を持つ。

 ―――が、現在は自主退職中で前線からは退いている、と公言している。

「はー…イスピエル星は内乱が激しいし、ティーリアス星は感染病が流行ってきてる…。そしてここミンディシアはシステム開発に大忙し、か…」

 机の上にはとんでもない量の資料が積み重なり、地震が来たら全て崩れるだろうぐらいまでぐらついている。手に持っていたファイルをそのあたりに無造作に投げ捨てると席を立つ。
 彼こそが史上最年少搭乗員の資格を得た事のあるセイジ=アルカワである。

「…仕事はやりたくないんだけどな」

 自主退職したというのに、退職させないつもりだろうか。毎日のように資料はどばどばと送られてくるし、片付けるのも面倒くさい。

『セイジ中佐』

 画面越しにインディゴ色の長髪を持つ女性の姿が映る。彼女は開発チームの筆頭であるリギュルス博士の娘であり、エリアス=リギュルスという。
 現在、彼女は両親の仕事を手伝うと言いながら、開発局最高権威である局長を務めてる二十二歳。頭の良さはセイジが認めるほどだ。

「…エリアスか」
『以前の最新データのほうなんですが、誤りがあったようで、現在修正中です。そのデータに関してなのですが、中佐のお力添えを戴きたいのです』
「…俺の…、か?」
『ええ。中佐ならば解読できるかと思うのですが…』
「ちょっと待て。解読とはどういう意味だ?」
『…エリオストル星で発掘された【ビリアルの種】に関する資料の事です。まだ読み取りも何もしていないデータは一度お送りしましたよね?』
「…ああ、そう言えばあったな」

 目を通してなどないが、というと画面越しでも何されるかわからないから言わない。セイジはとりあえず画面と並行にある手短なソファに腰をかける。

「…それで、期日は?」
『本日の1300を予定しております』
「…判った。そちらへ向かおう」

 席を立つと、黒いコートを手に取る。そのコートは特別製のものだそうで、多少の下級術なら全く効かないらしい。

『あ、あと』
「…何だ?」

 エリアスはふとため息をついて、画面越しに『一昨日の食事会、どうしてこなかったの!?』と叫んだ。先ほどの冷静な博士のような風貌は全くお構いなしだ。その表情は、年ごろの女性と変わらない。

「…。面倒だから」
『この…っ、面倒くさがり魔――――――っ!!』

 ディスプレイから大声が聞こえていても気にせずに、セイジは部屋を後にした。

〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓〓

「…中佐、これからお出かけですか?」
「まー、開発チームのやつらに呼ばれているんだ。それだけだよ」

 ビルを出て、溜息を吐きだすと、守衛に問われた。呆れた声で返すとオープンカーのドアを開ける。それと同時に、セイジを呼びとめる聞き慣れた声がして振り向くと、途端に尻餅をついて飛び込んできたそれを止める。

「…リノス…」
「あはは、いいじゃないですか。私も連れて行ってくださいよ!」

 リノス=ファイデルス。一応のところはセイジの部下である。そう、一応のところは。飛び込んできた女によってセイジの眼鏡は床に落ち、そして、その衝撃でガラスが割れた。
 ふと、セイジの顔が曇り、にこり、と笑って言葉を発す。

「…ユエスはどこだ?」
「ユエス? さぁ?」

 その言葉に、眼鏡未着用のセイジは火山噴火を起こす。実はセイジは眼鏡がないと本音を抑えることなく吐き出す。そのことを、部下であるリノスも知っているはずなのだ。

「お前が見張らないでどうする!アレはとんでもない…」
「お呼びでしょうか、中佐」

 『U-S(ユエス)』。人型アンドロイド。今現在は彼女を作った博士の元で整備を受けているはずだった。

「…ユエス…、整備は?」
「終わりました。何か御用でしょうか」
「あ、いや…。これから座標MD-CX2008の開発局に行くつもりだったんだが…」
「了解しました。お供いたします」
「それだと助かる。…リノス?」

 名を呼ばれてリノスは振り向き、可愛らしい笑顔をセイジに向けた。だが、セイジに媚びてもセイジ本人は全く気に留めることなく、その笑顔を絶やさなかった。

「…判っているな?」

 リノスの笑顔なんかお構いなく、恐ろしくにっこりと笑ってリノスを見る。リノスはセイジの眼鏡を壊してしまったのだから、もちろんのこと弁償だ。弁償。

「はーい…。今度はもっと壊れにくいのをオーダーしておきますー…」
「というわけだ。リノスは留守番、ユエスは同行!」
「「了解!」」

 ぴ、と足をそろえて背筋を伸ばし、手を額のところへと上げる。それを確認し、車のシステムをいじり出そうとするとまた別の声がした。

「オレもちぃっと用があるから同行させてな」

 その声がして、セイジは再度振り向いた。

「…アージェンか」

 茶髪の元気そうな身長百六十センチメートルほどの少年に見える青年が言う。仮にも二十七歳でセイジよりも三歳年上なのだ。

「データベースをいじらせてもらう日がたまたま今日なんだよ。ついでと思って俺を開発局まで連れてってくれ」
「判った。ただし…緊急事態発生時には、どうするかわかっているな?」
「承知の上だ。それじゃなきゃ…」

 何処からか銀色の拳銃が二丁、姿を現す。

「こうして、銃なんかもってねぇぜ?」

 その拳銃の姿に頷く。それなら問題はない、と。

「早く乗れ。時間に間に合わなくなるから」

 車に乗ると、それはオートで発進した。

line

≪前の話 | トップ | 次の話≫