「…、謝って済む問題じゃない、よな」

ぽつり、と呟いたシェイカの声に、舞夜が振り返る。

「……舞夜さん、ストップです。
 動かないで」

そう言って、取り出した魔石を―――空間に投げた。







拒絶 5








「……ッ、まずい…」

サタンの慌てた声に、意識がはっきりしてくる。
意識まで持っていかれそうになっていたのか。

「…サタン、どうした…?」
「…結界が解けた。
 …どうやって…」

悪魔が張る強靭な結界を一瞬にして消した。
その力とは何か。

判らない、どうして。

「…アーティスはロザには居ない。
 ならば、問題はない」
「いや、ある。
 リメレアが弱ってる所に来られると…」
「大丈夫だ私ぐらい…。
 抑えることは出来る」
「それじゃあ無理をしてるも同然だろ!?」

ぴしゃり、と飛んだ声に身を震わせてしまう。
こんなにも強く、彼に言われたことはなかった。

「…俺は…、お前が心配だ。
 居なくなられたら、困る」
「契約者だからな…この世界に存在できなくな…」
「違う!」

違うんだ、と彼は続ける。
契約者だからじゃないほかの理由?
そんなもの、判らない。

「…リメレアが心配で仕方がない。
 契約者だからじゃない…、俺が、お前を愛してるからだ」

そうでなければ、彼女が懇願した半魔になんて、しなかった。




「…結界、か」
「…良く気が付いたわね」

一面の森だったそこが、道へと変貌した。
―――いや、隠されていた道が現れたのだ。

「この先に、ロスアンジェがある可能性が高いわね」

隠していたぐらいの場所だ。
ある可能性は非常に高い。

「いきましょう、舞夜さん」

あの子を探すため。
あの子を戻すため。
あの子を、自分のものにするため。




「…普通、悪魔は好んで人を半魔にしたりしない」

其れは何故か。
問わなくても、判ってしまった。

それは罪だ。
人という存在を愛した、悪魔の罪だ。

人という存在を愛することは罪。
そう言われ始めたのは、悪魔・アルクサウスが人間を愛したから。

人間と悪魔は生きる時間が違いすぎる。
それを哀しんだアルクサウスは愛した女に提案をした。

『私の血を飲めば、お前はもっと永い時間を私と生きることが出来る』

そうして、女は半魔となった。
半魔となった女は自らのもとより所持していた力と新しく入って来た悪魔の力を制御するのに困った。

確かにアルクサウスと永い時間いられるのは判った。
でも、それでも、この苦痛は辛くて。

その痛みが身体を走る度、自分を悔やんだ。
どうして長生きしたいと願ったのか。

人は元より、こんなにも長生きする生物ではないのに。

そうして、彼女は―――。

「…自らの命を絶った…」

ロスアンジェには良く伝わっている話だ。
他の名家には知られて居ないかもしれないが、敵対という意味でも仲間という意味でも悪魔と関わりのあるロスアンジェは、知っていた。

「…その二の舞になるなんてことぐらい、判っていた」

こうしてリメレアが苦しそうにするのも、目に見えていたのに。
それでも、彼女に血を与えた。

彼女の強い願いと、自らの欲望に任せて。

「…契約を」

君とした契約を、君のために破棄しよう。
そして、君を守るから。

魔界に戻れないことなんて判ってる。
罪を犯した悪魔は、魔界に戻ってはいけない。

それが、決まりだから。

それならば。

「…俺は、リメレアを守る」

そう、決めたのだ。







2008/02/22