拒絶 3








「……なぁ」

ぽつり、とロザの町並みを見ながら歩いていた舞夜に、シェイカが洩らす一言。
その声は大衆の声でかき消されそうなくらいだったが、なんとか聞き取れて「どうしたの?」と返した。

「…舞夜さん、『無族』なんだよな」

何れは来るであろうと思っていたその質問に、ふ、と顔に影を落として笑った。

「そうよ。
 エルティーニと深い関わりのある『無族』よ」

その一族は一つしかない。
深い関わりがあるといえば、そう、あの王族。

「アキンドラ一族、か」
「えぇ」

さらりと導き出された言葉に、ただ頷くだけ。
この大衆の声に、二人の声はかき消されて聞こえない。
二人だけに聞こえる。

「…苗字は?」
「今は倉笈。
 昔は…アキンドラ」
「新しいんだな…」

そう、アキンドラ一族は時代によって苗字が変わる。
最近はずっとアキンドラだが、古くなると、ラキンドラ、アクラキンドラと遡るのだ。

「昔、っていつ頃なんだ…?」
「…さぁ、いつでしょうね」

ブレウスがまだ少年だった時代の話だ。
父親はかの人間国宝だが、母親は―――。

「…もうそろそろ街を抜けるわ。
 森に入るみたいだけど、どうする?」
「…行きます、街に彼女がいるはずがない。
 あいつは賑やかな所が好きそうにしながら、静かな所が好きだから」
「……そう、彼女のこと、よく判ってるのね」

そこまで観察しているのだから、余程好きなのではないか。
好きでなければそんなことまで気にしないだろう。

男女二人旅。
普通なら恋人同士がするであろう旅は、彼らにとってそうじゃなかった。

ただの、旅仲間。

でも、それがいつからか崩壊し始めた。
それは―――彼が、変わったから。

「…シェイカはアーティスのことが好きなんでしょう?」

閑散とした森へ足を踏み入れ、大衆から一歩ずつ離れる。
大きな大きな、沢山の声が、聞こえなくなってくる―――。

「………、好きですよ」

一瞬の躊躇いの後の言葉。
その声は、とても寂しそうだった。

ブレウスに聞いた話では四大名家は交流を持つことは許されるが婚姻関係になることは許されて居ないのだそうだ。
それは名家の崩落に繋がると理由で、大陸法律で決められている。

「…大変ね。
 リィアさんが望んでいる世界なら、それが可能でしょうけど」

そう、リィアが望む世界。
名家を潰すと言う、その世界。

「どうして貴方は名家を残したいの?」

聞いてみた。
どうしても気になる。

「…旅に出た当初は、どうでも良いと思ってました」

そう、どうでも良かった。
こんな家潰れてしまえば良い、なんて思っていた。

魔石の研究で這い上がった家なんて、嫌だったから。
だから、魔法使いとして実力有る一族として、再構築したかったというのが、本音。

でも、いつしか―――。
自分は今のオプリュストがないと生きていけないと思うようになった。

思えば天然魔石の使い方も、魔術の構築も、基本を習ったことがない。
いや、応用も習ったことが無いのだ。

教育係は居るものの、基本的に『独学』であったから、後取りを育成できる力が自分に無いと思った。
それはオプリュストにある力だったから。

「…オプリュストというその枠が無ければ、新しいものを構築できないと、判ってしまったんです」

なんて非力なんだろう。
どうしてその力を手に入れられなかったのだろう。

後悔ばかりが募る。
自然と、足取りは重たくなっていった。

そうして、止まって。
木々の隙間から見えるあるものに気付く。

「…墓…石……?」

そう、それらしきものが見えた。
思わず、木々を掻き分けて近寄る。

「…『Fiely Passtora』」

墓石に刻まれた名は、『フィエリ・パストラ』。
―――リメレア・ロスアンジェの愛した、男。




2008/01/26