もう、どうして良いのかわからない。
何を信じれば良いのか、わからない。






聖職者 5






「―――っ…」

ファシエがこの地に留まる原因のモノ。
それが、シェイカの…オプリュスト一族によって作られたものだった、なんて。

その魔石のせいで、ロスアンジェがどれだけ苦しめられたのかなんて…彼は知らない。
だが、シェイカもまた、その真実を知らないからどういいようも無いのかもしれない。

「…私の両親が実験台にされてこの世を去ったという事も…シェイカは…、知らないんだね…」

そう、きっと。
彼は、何も教えられなかったのだろう。

ロスアンジェの一族が滅んだ原因に、悪魔だけではない、オプリュスト一族が関わっていたという事に。

「アーティス」

ふっと現れたそれに、アーティスは向く事も無かった。

「…お前は…それを知っていても…」
「…わかってる…判ってるよ…リヴァ」

シェイカが知らないのに、彼にそれを言っても意味が無い。

アーティスの両親を殺したのは確かにオプリュストだ。
けれど、シェイカはそれに関わっては、いない。
彼にその責任を転嫁したところで、解決などできやしないのだ。

「…私のこの力も…人工魔石のせいだから…」

本来の力から曲げられたのも、オプリュストによるものだった。

「…おかしいよね…。
 聖職者が黒魔術を使い、悪魔と契約するなんて」
「…」
「けど…仕方ない事だった…。
 名家として生き残るために…、ロスアンジェはその事実を受け入れて…。
 黒魔術しか、扱えなくなったんだもんね…。
 人工魔石の力で…、黒魔術しか扱えない体になって…」

その分、強い力を手に入れることは、できたのだけれど。
代償が、大きすぎる。

「聖魔術が使えなかったら…聖職者の意味なんかないじゃない…!!!」

その仕事を誇りに思っていたのに。
体をいじられて、人工魔石を埋め込まれて。




「…だから、かもしれないわね…。
 特定の話になると途端に話さなくなるのは…」
「…」

自分の…一族が。
彼女の一族そのものを変えてしまった、なんて。

「一族の間で闘争が絶えないのは、それぞれがそれぞれの一族を潰そうとしているから。
 けど、ロスアンジェはオプリュストの想像以上に黒魔術を扱えるようになってしまった。
 滅ぼすために人工魔石を組み込んだというのに」
「…」

もう、返す言葉も無い。
シェイカはただ、黙ってリィアの話を聞いていた。

「今、アーティスはああやって振舞ってはいるけど…一度どん底に突き落とされてる。
 しかも、十にも満たないときに。
 だからこそ鮮明に覚えてるのよ…幼い時のことって言うのは、本当、覚えてるもんだから…」
「…、俺は…」

嫌われたのかな。
いや、嫌われてても当然だったのだろう。

席を立って、扉を開ける。

「何処に行くの?」
「…アーティスを、探してきます」
「拒絶される覚悟はできた?」
「…出来てますよ…」

自分が、実際に関わっていなくても。
憎しみというのは、その一族全体に対してなってしまうものだ。
それを、知っている。

以前エルティーニ一族を根から嫌っていた彼にはそれが判る。




「…アーティス…」

町を、走った。
だが、彼女の姿が無かった。

どこだ。
何処に居るんだ。

雨が、降り出す。
ざー…という雨の音が声すら、かき消す。

そして、彼が振り向いた直後、先ほどまで向いていた…後ろから、声が聞こえた。

「―――だからお前に渡すわけには行かないんだよ、シェイカ。」

その声は、もう聞きたくも無かった。

「―――オプリュストの一族の跡継ぎ」

皮肉な笑みを浮かべるその子供。
それは、言わなくてもわかった。

「…ファシエ…」

シェイカは、ゆっくりと向いた。
そして、それに驚いた。

蒼に近い銀髪の青年が、そこに居た。
黒き羽を携えて。









2005/10/30