「…そいや、兄貴は?」
「…リヴェイアに行っちゃったわ」
「…あんのバカ兄貴…」

そのときのブレウスは、怒っているというよりも呆れているようだった。






聖職者 4







「…それで、エルティーニが乗っ取られたというのは?」
「本当よ。
 だから…あの島に居るのは私たちではないの」

テラスで優雅にお茶を啜りながら現状整理が始まる。

「…その原因が、ファシエ…。
 ルシフェルね」
「…!
 リィアさんご存知なんですか…?!」

アーティスの反応に、にこりとリィアは笑う。
そして、ブレウスが言う。

「姉貴は調べんのは人一倍得意なんだって。
 俺がファシエのことだけ言っておいたらこの有様。
 ルシフェルだとは言ってないぞ」
「…お、恐るべし…」
「まぁ、それは良いとして…。
 それで、ティヴォスを偵察に行かせたんだけど」
「…あいつ、まだ悪魔側に居ると思われてるのか?」
「そうみたいね…。
 都合が良いからそれで調べてもらってるわ」

弟を良いように使う姉。
そしてその使われた弟の弟は呆れる。

「…まぁ…ティヴォスに聞けば…今後の世界がどうなるか簡単にわかっちゃうんだけどね…」
「それを、あいつは言わないのか?」
「なんでも、時の能力を封印しちゃったらしくて」
「…あいつらしいというか…」

溜息をついて紅茶を飲む。

「…そのファシエが…アーティスさん、貴方に絡んでるって事も、今のところ少しだけ判ってる。
 ティヴォスが調べた情報が大半なんだけどね…。
 貴方…黒魔術の中でも禁忌に当たる…」
「…スヴァルトアールトヘイムの黒妖精ですか」

さらっと答えたアーティスにシェイカがばっと向く。

「…黒魔術でもかなり高位であり、おっしゃるとおり、基本的にそれを使うのは禁じられています。
 でも…」
「…使わざるを、得なかった…?」
「…あのドラゴン相手に、通常の黒魔術では勝てませんし…。
 その後ろに、多数の下級悪魔が居ましたから」

そうすれば、一発で殲滅できるだろうと、そう思ったのだ。

「…それを、たまたまティヴォスが目撃したと」
「―――!?」
「…貴方の前に現れた銀髪紅眼の男は、ティヴォス=エルティーニ。
 私の弟でブレウスの兄、時の魔術師よ」
「…どおりで…最初アーティスと会ったときにティヴォスの魔力が感じられたってことか」

思い出したように口にするブレウスにアーティスはそのとき会った、ティヴォスの姿を思い出していた。

「…あの人…が、ですか?」
「…つり目で怖い感じはするけど実際はホント優しいのよ」
「舞夜…お前」
「何」
「この俺を差し置いて…!」
「…また始まった…」

溜息をつくと、舞夜はブレウスを引っ張って行って、席をはずした。

「…それは置いておいて……。
 …今後、私たちが目的としていることをお話しましょうか」

2人は、黙ってそれを聞いた。

ファシエを根本から消すこと。
世界に秩序を戻すこと。
そして、

「…私たち、名家の名を潰すこと」
「―――!!!」

アーティスはさほど驚かなかった。
シェイカが、何故だというように反応をしたのだ。

「どうして名家を…!?」
「名家があれば、格差が生まれてしまうでしょう?
 血筋で決めるんじゃなくて、自分で、自分の道をそれぞれが開いてゆく。
 そういう世界の方が、いいんじゃないか、って」
「けど…そうしたら、ただでさえ困ってるスラムの人間は…」
「…彼らには、私たちが出来るかぎり協力をして、それから関係を絶つ。
 それは、スラム長に話をしてあるわ」
「な…」
「…誰を好きになっても、何も文句を言われない。
 そんな世界が、一番素敵なの。
 好きなものを好きだと言い張れるその世界が」
「…お姉ちゃんが…望んでいた世界…」

悪魔だから。
名家だから。
魔法使いだから。
魔女だから。
スラムの人間だから。

そうやって差別をされて、その差別によって好きなものを好きだと、いえなくなった世界。
それが今、この世界。

「…それには…俺は、反対します」
「シェイカ!?」
「…言うだろうと思ったわ。
 貴方たちオプリュストは元は…スラムの人間だものね」
「―――?!」

淡々と進む会話に、アーティスが聞いたことの無かったことに驚く。
スラムといえば治安の悪い、貧乏人の暮らす町。
今、名家と呼ばれるオプリュストはそのスラムの出身である、と…。

「…本来、名家は3つだった。
 知ってるとおり…エルティーニ、ロスアンジェ、セルヴェードよ。
 そこに、スラムに突如生まれた魔法使いの一族が加わることになった。
 だから…4大名家、そう呼ばれているのだけど」
「ちょ、ちょっと待ってください…!
 それって…まさか!」

アーティスには、スラムに心当たりがあった。
何故ならば―――人工魔石という名の恐怖の産物を作り出した場所だから、だった。

「つまり…それはオプリュストが人工魔石を作ったと、そう言えるってことじゃないですか!?」

あの忌々しい人工魔石を…。
作ったのが、シェイカの一族であると。

「…アーティス…なんで人工魔石の事…」

驚くシェイカにアーティスは言う。

「人工魔石のせいで…ファシエはこの世界に留まると選択したんだから…!!!」

そう言うなり、アーティスはがたんと席を立って、走って行ってしまった。
シェイカの呼び止める声も、無視して。

「…ファシエ、が…?」
「…良かれと思ってオプリュストが作った人工魔石は…魔王の目に留まったのよ。
 全世界を滅ぼし、支配しようと目論む魔王、ファシエの目に」

シェイカの顔が、驚きに変わった。







2005/10/29