「ロスアンジェの名にかけて、ね」


ロスアンジェ一家。
聖職者一族。
だが使用する魔法系統は黒魔術。
神父、神官、聖女といった仕事を行うのが主。





行き先 6







「…ロスアンジェ…!?」

声を上げたのは、ブレウスだった。
だが、アーティスはその声を聞き入れることも無く、つかつかとシェイカに寄る。

「…黙っててごめんね」
「……バカかお前…」

そうならそうだと、どうして言わなかったのか。
と、彼はアーティスに問う。

「…ここに、あの噂が…あの話が伝わっていると、ロスアンジェの名を持つ私は…動くことなんて出来ないから」
「え…?」
「…思っていた以上に…皆知らないみたいで、これなら、大丈夫かなって…。
 そう思ってたんだけど…」

ブレウスと舞夜が現れて。
4大名家を探さなくてはならなくて。

…ロスアンジェは、すでに廃れていると、ブレウスは知っていて。

「…だからね、言わなかった。
 言えなかったの。
 言ったら、もうここには居られないんだろうなって…思ってたから」

だが、この状況…。
世界が支配されようとし、シェイカが記憶を失ってまで生きようとし。

それを見て、考えて。
こうするのが妥当だと、そう思った。

「でも…、私は、ロスアンジェの当主じゃない。
 当主は…お姉ちゃんだから」
「姉…?」
「うん、そう」

アーティスよりも遥かに強い、その人。

「…その話は、後でするから…。
 今は、シェイカを手伝うよ」
「手伝うって…」
「とりあえず、詠唱止めて?」
「…え…あ、あぁ…?」

魔方陣が消えるのを確認して、アーティスは言う。

「私が、シェイカの代わりに…。
 記憶を失うことなく、魔力だけを集めるから」
「そんなこと…」
「出来ないと思ってる?」

そう問うとうなづく。
ロスアンジェの能力は、世間一般…いや、魔術界でも知られていることがないのだろう。
ただでさえ廃れたといわれている一族。
情報は無いに等しい。

「…ロスアンジェは…確かに魔法や魔術を使う。
 けど、ほかの3家とは違って…黒魔術を使うの」
「黒魔術…だと?」

反応したのはシェイカではない。
ブレウス。
そして彼は言う。

「つまり…アーティス。
 お前は悪魔と契約してる、ということか?」
「―――!!!」

その言葉に、シェイカが驚いてアーティスを見る。

「…黒魔術師は…悪魔と契約して願いをかなえることが有名ですしね。
 あながち、外れではありません。
「…自分が死ぬ、ってことも覚悟の上か?」
「…!
 何だと?!」

「それも心得てます。
 いつ契約した悪魔に殺されるかもわからないし…。
 元は、自分の目的を得るために悪魔というものは行動をするんですから」

だからそのために。
媒介となる人間が必要になるのだ。

「うちの悪魔は…代償が私自身だから」
「な…?」

自分自身が代償?
それは命、ということだろうか?

そうなると、アーティスは既に生きていないのではないか…?

「………あの」

呆然としていた舞夜がもしやという顔で挙手し、言う。

「もしかしてそれって…嫁に来いって事?」
「「…はぁ?!」」

反応したのはシェイカとブレウス。
真面目に考えていた二人だからこそ、その舞夜の言葉にそんなことないだろとノリで突っ込む。

「いや、それが実はあったりして…」
「…お前真面目に言ってる…?」

ずごごごご…と黒いオーラを纏ってワールドマップを極限にまで丸めて持つシェイカ。

「…や…あの…ホントに真面目にそうなんです」
「…おい!その悪魔とやら!!!
 一遍出てきやがれ!!!」
「無理だって…」

門を開かないかぎり、その悪魔は現れません。

「…呼ぶの…?」
「…一度殴りたいんだが」
「逆に殺されるよ?」

さらりと。
そういうアーティスに「上等!」と返したシェイカ。
だが、アーティスは呼ぶつもりは無い…気がする。

「…あいつは…ファシエのときだけしか呼ばないよ…」

ただでさえ嫉妬深いヤツなんだから。

「…今は…シェイカの魔力を宝珠に集めることが優先だから、呼ばないよ?」
「…ちっ」

明らかに舌打ちをしたシェイカに苦笑する。
別に彼とは…恋人でも何でもないのだが。

「…呼ぶと…被害が尋常じゃないから呼ばないよ…あいつは…」

呼んだら…。
そう考えて、アーティスはぞっとした。

「…シェイカ、そこに立っててね」
「え、あぁ…」

アーティスが数歩離れると、ブレウスも舞夜も、それを見た。



ロスアンジェに伝わる、秘伝魔術の力を。








2005/10/26