行き先 2





「…シェイカ・オプリュスト」

赤髪の青年がそう、シェイカの名を呼んだ。

「魔術名家、オプリュスト家の跡取り息子。
 …俺と並ぶ、魔術名家ね」

平然と言ってのけるその姿に、アーティスは呆然としていた。
だが、シェイカは。

その男を、睨みつけていた。

「…お前…ブレウス=エルティーニかっ!?」

その言葉に、男は。

「ご名答」

ただ、そう一言答えただけだった。

「…本当に…か?」
「…お前がよーっく嫌ってるエルティーニの末息子だよ」
「…その口ぶり…本物だな…?」

そのやり取りにアーティスは言葉に出すことも無く、ただその状況を見ていた。
何処かで見覚えのあるような姿だと思ったのは、彼が四大名家のエルティーニ一族であったからか。

シェイカは己の杖を振り下ろすと、先端をブレウスと呼ばれたその男に向ける。

「…4年近く姿が消えていたのはどういうことだ」
「あら何、心配してたんだ?」
「誰が貴様なんかを!」
「…って、そんなことはどーでもいい。
 この惨事はなんだ?」
「俺の質問に答えろ!」
「…しゃあねぇな…。
 異世界に旅立ってました。はい終了」
「な、に…!?」
「証拠にこっちの…」

そういって指差すのは、黒髪の女性。
その姿を見て、この世界に元から存在する種族にこのような姿をもつ者は存在していないことがわかった。

「私は舞夜。
 この世界じゃ名前が先で苗字が後だけど、私はこの世界の出身じゃないから…。
 …まぁ、なんていうか…この…バカ魔術師の妻ってことになるわね」

よろしく、と微笑む舞夜に、シェイカは動きを止めた。
それから驚いたようにブレウスを見る。

「妻…って、お前、結婚して…」
「なんか文句あるか?」
「…いや、お前みたいなのが結婚するのかと驚いてる」
「…ほう?」

びしっ、と何かに亀裂が入る音がする。

「しかもこんな美人と」
「…一度ぶっ飛ばさないとならんようだな」

そしてぼきり、と拳を鳴らしてにこやかに笑むブレウスに同じく異様に爽やかに笑い返すシェイカ。
その笑いが黒い笑いへと変貌した直後、魔力の渦が巻き起こる。

それにようやく気付き慌てるアーティスと対照的にまたかというような呆れた表情になる舞夜。
そして、

「…ブレウス」

一言。
そう彼の名前を舞夜が呼ぶ。

「邪魔するな、舞夜。
 今回ばかりは無理だ。
 このガキをどうにかぶっ飛ばす。
 それまで待て」
「…あんたの性格だから売られた喧嘩を買うのが当たり前だってのは嫌なほどわかってる。
 だからといって止めないわけにも行かないのよねぇ?」
「無理だな」
「…あら、そう」

舞夜はふっと笑って指を鳴らす。
直後ブレウスの奇声が上がる。

「…私も魔術使えるってこと忘れてる?」
「…思いっきり忘れてた」

最近まったく使ってなかったからなすっかり忘れてたぜとブレウスが呟くのをよそに、舞夜はそのままシェイカに向き直る。

「ごめんなさいね、うちの夫が」
「あ、いや…別に…」
「おい、舞夜っ!
 そいつに媚び売るなー!!」
「誰がそんなことするかー!!」

ドンッと音がしてブレウスがよけたそれは…。

「ひょ、氷柱投げるなんて卑怯だ!」
「あんたがうるさいのよ!」
「ただ俺はお前が心配で…」
「あーもう何で私のことになるとうるさいのよ!!!」

…夫婦喧嘩?
そうアーティスがシェイカに問うと、
多分、そうだろ。
と答えが返ってくる。

「…ところで、ブレウス。
 テメェ一体いくつだよ今年」

呆れながらシェイカが問う。

「22」
「うわっ、ガキくせ」
「4歳年下に言われる覚えはない」
「それだけ年相応じゃないんでしょあんたが」
「舞夜ー頼むからこの蔓どうにかしてくれよ…!!」
「あんたが落ち着いたら解くわよ」
「落ち着くから」
「本当に?」
「本当に。
 本題の話もちゃんと言うから」
「じゃぁ解いてあげるわよ…まったく」

呆れた声とともに、ブレウスを捕らえていた蔓は解ける。

「…あ、あのー、なんだかよく理解できない…んですが」
「あぁ、ごめんなさい。
 用があってきたんだけど、こいつのせいで茶化されて…」
「俺かよ!?」
「お前だよ」

呆れてシェイカが尽かさず突っ込む。
それに沈むブレウスに舞夜が更に呆れる。

「…ほら、ブレウス。
 本題」

舞夜に促されてしぶしぶとブレウスは言う。

「…今回、俺がわざわざオパスに来たのには理由がある」
「それを最初に言えばいいものを…」

ぼやくシェイカにブレウスがむすっとして言う。

「シェイカが質問攻めにするから」
「わーったよ俺が悪い。
 えぇ俺が悪いです」

降参、といったように両手を挙げると、ブレウスが語りだす。

「…先ほども襲撃があったが、アレはエルティーニの術じゃない。
 まして、今エルティーニはあの島に誰一人と居ない。
 本国アクラキンドラにも誰も居ないぞ」
「なっ…?!」
「どういうことですか!?」

エルティーニ一族はアクラキンドラ本国の隣にある孤島に屋敷を構える四大名家。
驚くシェイカとアーティスにブレウスは説明するように自分の思考をまとめるように言い出した。

「…留守にしている間にのっとられた。
 ただそれだけだ。
 今エルティーニで生きているのは俺と、3人の兄姉だ」
「…エルティーニですら…?!」
「その口ぶりからして…オプリュストもやられたか」
「…っ…」

となると、残っているのはあと2つ。
四大名家の2つがつぶされただけあって、そこの人間であった2人はそれなりに消沈していた。

瞳を曇らせたブレウスがふと、口に出す。

「残る2家は…セルヴェードとロスアンジェか」
「…!」

そのブレウスの言葉に反応をしたのはシェイカではない。
…アーティスだった。

「…アーティス?」
「あ、いや…。
 ううん、なんでもない」
「そうか…」

(ごめんね…シェイカ…)

ずっと、黙っているその事を。
いつか言わなくてはならないのかもしれない。
だが、今すぐにいえるわけが無い。

ロスアンジェは、既に、堕ちた。
それを、言えるわけもなかった。

(…私と…姉さんだけが、ロスアンジェの残りなの…)

既に堕ちた一族の、最後の生き残り。
聖職者の異名をもつ、ロスアンジェの―――…。


いきのこり。





2005/08/18
2007/08/23 加筆修正