魔術都市の異名を取るオパス。
ここは、本当に魔法が使われていると思わせない雰囲気の都である。




魔術都市の騒乱 6






「ふ、ぁあ…っ」

寝ぼけ眼をこすりながらアーティスは体を起こした。

城の、一室でもとても広いこの部屋。
その部屋で寝ることが出来るなんて多分この先一度もないだろう。

「もう…朝になっちゃったんだ…」

いそいそと支度をして部屋から足を踏み出した。





「わー…凄い!」

感嘆となって出る声。
見慣れぬ町の散策に城下町へ降りてきたのである。

狭く心苦しいあの場所より、ここはアーティスにとってとても有意義な町とも言えた。
自分のやりたいと思うことがたくさん見つかって、欲しいと思うものがたくさん見つかって。
全て手に入ることがないとわかっていても、それ眺めるだけでとてもうれしくなって。

その行動は年頃の少女そのものだった。

「…て、あら?」

ふと気がつけば、そこは薄暗い路地。
いつの間にか迷い込んでいたようだ。

「うわー、どうしよ…」

帰り道が判らないよ。
そう口に出してとりあえず向いていた方向とは逆に進む。

そして、案の定というか。
野郎どもに襲われております。

「ちょ、ちょっとなんですか!」

聞く耳はないらしい。
まぁ、確かに迷い込んだのが原因であるため自分が悪いということは明確なのだが、まさかこうありがちな展開になるとは予想をしなかった。

「なぁ、俺らと遊ばねぇ?」
「頑・固お断りいたします。
 えぇ、それはもう丁重にお断りいたしますとも」
「ヒュー!若いねぇ」
「まだ反抗期終わってねぇんじゃねぇの?」
「ははっ、いえてる」

だからこういう族(やから)は嫌いなんだ、とアーティスは自分に言い聞かせる。

さらに、今日は愛用の剣を城に置いてきてしまっている為、切りつけることはできない。
だからといって素手で戦うという手段も選べるには選べるのだが、なにぶんこの人数相手に素手での戦闘は確かにきついものがある。
だが…そのまま連行されるのも癪に障る。

仕方なく素手で戦うことを選択して、今まさに目の前の1人へ殴りかかろうとした直後だった。

「おやおや、か弱い女の子1人によってたかって。
 それでも同じ男だとは情けないねぇ」

蒼い髪の青年ぐらいの男が、そういって姿を現した。

その言葉が路地裏に響いて、男たちがカッとしてその男に殴りかかった!
だが、それは―――…

「だから路地裏の男は嫌いなんだよねぇ」

という言葉を発した途端、一瞬でぼこぼこにされたのである。
そのすばやさにアーティスがぽかん、としているとその男はアーティスに手を差し伸べてきた。

「…何もされてない?」

問われて慌てて我を取り戻し答えた。

「ぁあ、はい何もされてないです。
 有難う御座いました」
「いやいや。
 助けるのは当たり前だと思うけどねぇ」
「…あの、ところで…」

城に帰るために「道に迷った」なんて情けないことを言わないわけにもいかなく。



路地裏から中心街へと移動して。
なんでも城まで送ってくれるとのこと。

「へぇー、あのシェイカのお仲間さんかー」
「あのシェイカ…?」

なぜかこの町の人々はシェイカの存在を知っているようだった。

「あぁ、君知らないの?
 あいつ町に出るたび女が寄ってくるからな。
 ま、いわゆるプレイボーイという類に当てはまるヤツだね。
 で、以前の某騒乱で、あいつがそれを解決したから『あのシェイカ』で大体は通じるんだよ」
「…そ、そうなんですか…」
「ところでさ、君って」
「な、なんですか…?」
「いやいやそこまで身構えなくても。
 何もしないから。
 …シェイカとなんかそーゆー関係?」
「そんなもの…っ、まったくありません!!」

思い切り、否定します!とアーティスが叫ぶと男は面白そうに笑う。

「じゃぁなんかされた?」
「それもありません!」

なんてことを聞くんですか!と再度叫ぶアーティスに笑い続ける男。

「珍しいなぁ…あいつが女に手出ししないなんて。
 こんなに可愛いのに」
「それはあなたが私をいじめてるからじゃぁないんですか1?」
「正当な意見だよ。
 からかいがいがあって可愛いんじゃなくて」
「な、なぁあ?!?!?」

真っ向向けて真面目に言われたためにアーティスはよろけたついでに5歩ぐらい男から離れた。

「あぁ、そうですねわかりました!
 ナンパしにきたんですか!
 わかりました、それなら自力で城まで帰ります!」

そういってアーティスは遠くに見える城を目指して早歩きを始める。
が、

「つれないねぇ。
 助けてあげたのに」

そういって普通の速さで追いつく男の姿があった。

結局。
彼は城まで付いてきたのだった。



「おー、アーティスお帰り…って、オイ」

一気に声のトーンが低くなるシェイカの姿。
じぃーっとアーティスの横にいる蒼髪の青年にシェイカは睨みつける。

「なんだよ、この男」
「いや…ちょっと、路地裏で野郎に絡まれてたところを助けてもらって…で、迷ってたから中心街まで、はつれてってもらったんだけど…それから、なんていうかですね、シェイカさん」
「はっきり物事を言わないのはこの口か?
 この口だな?」

そういってアーティスの頬を横に引っ張るシェイカ。
アーティスが「痛い」といっていてもそれはどうしても「いひゃい」としか聞こえず、それにさらにシェイカは笑う。
そして一気に熱が冷める。

「言え」
「にゃらへほはにゃひへ〜!!(なら手を離してー!!)」
「判った」

ぽっ、と放り出されるかのように頬から手が離れると、アーティスは言う。

「そうしたら勝手についてきた」
「成る。」

ぽん、と手を叩くと、シェイカはすぐさまその男に杖の切っ先を向けた。

「テメェ、まさかアーティスによからぬことのため助けたとか言い出すなよ?
 あぁ?」

どうにも何かあったらしく、怒髪天のようである。
言葉がおかしくなっているのはどうでも良いらしくスルー。

「まさか!
 そんなはずがありませんよ、シェイカさん。
 まぁ…その分のお礼は頂いてませんけどね」

にやり、と男は笑うと、アーティスを引き寄せて己のそれとアーティスのそれを重ねた。
そしてすぐに離すと、にこり、とやけにさわやかな笑い発して逃げるように走り出したのである。

「アクリアスエイジッ!!」

もちろん、言わずともがなシェイカの魔法が炸裂するのだが、男はそれをいとも簡単によけた。

「お礼はそれで十分だよ、アーティスちゃんv」

と言い残し城から消え去っていったのだった。

「…アーティス」

ものすごくドスの効いた声が背後から聞こえた。
もちろんそれはシェイカの声であることはわかっている。

「は、はいっ?!」
「…お前…、何、した…?」
「な、何にもしてないんですけど?!」
「じゃぁあの男の行動はなんだ…?」
「いや確かに助けてはもらったけどアレは私が望んだんじゃなく!
 あの人が勝手に!」
「ほーぅ」
「な、何ですかその言葉ぁああああああああ!!
 疑ってるでしょぉおお?!」
「あぁ、疑ってるとも! お前一体何したよ!
 あんなやつに媚売ったのか!?えぇ?!
 何とかいってみろ!!!!」
「なんかシェイカさん混乱というか暴走してませんか!?
 もしかしてどっかのマラソン大会脳内爆走中!?」
「誰もそんなこと言ってねぇ…!
 つか誰がマラソン大会なんかに出るかボケェ!!
 あぁそうだな、言うならお前反応鈍すぎ!」
「何ー!? 一体何の話よ?!」
「普通好きでもない男にキスされたら殴るかなんかするだろが!!」
「そんな余裕なかったです!
 ていうか何でそんなことごときで怒ってるのシェイカー!?」
「そんなことだとぉお!? お前、そうは言うけどな!!
 世の中のふしだらな野郎はお前みたいなのを狙っていつ奇襲かけてくるかわからねぇんだよ!
 現に野郎に襲われてたんだろうが!?」
「なんかすごい年寄りくさいセリフが…」
「もう一遍言ってみやがれアーティス!!
 魔法食らわしたろか?!」
「うぁああ!! シェイカが遂に狂ったぁああああ!!」
「ああそうかお前には言葉で言うよりも実際やってみる方が覚えが早いんだったな!
 よしわかった覚悟しとけ!」
「はいー!? て、ちょ、あのシェイカ…!!
 一体何を…て、ちょ、ま、待っ、んんっ!?」

アーティスの反論を完全無視の方向で、シェイカは彼女を己に引き寄せるとそのまま無理やり口付けた。
それから数十秒経って、シェイカが唇を離した途端、アーティスは城下町の方へと走っていった。

「…仕方ねぇだろ」

1人残されたシェイカはぽつり、とつぶやいた。

「…本気なんだから。
 嫉妬ぐらいするっつの…」

本当に、
本当に、
惚れてしまったのだから。

「…本気になると臆病だよ、俺は」

どうせ。
本気になると、臆病者に変貌するのだから。

嫌われたくない、と一心に思ってしまって。

「…ほかのヤツになんか、渡したくねぇんだよ…」

アーティス。
お前を。









2005/06/11
2007/08/23 加筆修正