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002 : 気づけなかった変化

 彼がいなくなった。
 彼に何かがあったのは分かっていたのに、なにか彼の気に触ることをしてしまったのかと思って動けなくなった。

「ポロン、どこにいるの」

 彼の姿が見えなくなってから、どれだけの時間が過ぎたのか分からない。あんなにも一緒にいて、喋って、笑っていた彼が急に姿を消してしまうなんて。なにか悪いことをしてしまったんだ、とばかり考えてしまう。

 全能の神であるあの方なら、何か知っているのかもしれない。
 彼がいなくて、すべての色が無彩色になっていく。重たい、彼がいないだけでこんなにもかき乱される。そんな重たくなった体を引きずるようにして、あの方の部屋の扉を叩く。するとすぐに扉は開いて、まるで待っていたと言わんばかりの迎え方。

「……来たか。君がそのうち、来るとは思っていたよ、アルテ」
「あの」
「君のことだ、ポロンのことでだろう」
「はい……あの、彼は、いまどこにいるか……わかりますか? あなたなら、知っているとおもって……」
「知っているよ」
「教えてください、彼は今どこにいるのですか!?」
「……どうして、彼の居場所を知りたいの」
「え……?」

 思ってもみない質問が来て、ぱちり、ぱちりと目を瞬かせてしまう。どうして知りたいか……? 彼がどうして離れていってしまったのか知りたい、何か悪いことを言ってしまったのかと不安だから、確認したい。その旨を伝えると、全能の神はくすくすと笑い始めた。
 なにかおかしいことをいっただろうか、と考えていると、全能の神はふっと影を落として言葉を紡ぐ。

「君らが惹かれあうのは、仕方のないことだと思うよ。対極の存在だからね」
「え……?」
「彼に言ったことをそのまま君にも言おう、隠し立てするのは苦手だから。君には双子の兄がいる。君の一番近い存在で、君が愛してやまない彼が、君の兄だよ」
「兄……? ポロンが、わたしの……兄?」
「ああ。君とポロンは血のつながった兄妹だ。ポロンはこの言葉を聞いて、人間の世界に降りていったよ」
「人間の世界に……? どうして……、わたしは、わたしは、ポロンを、心から愛しているのに……!」
「それは君の考えだろう。ポロンはどう思ったのだろうね。人間の世界に降りていったのは、君から離れるためなんじゃないかな。兄妹で愛し合っているなんて、と茶化す輩も、神々にいないわけではないのだし」

 だから彼は離れていったのではないのかな、それでも君は、彼のところにいくの? と無言でいわれているような鋭い目をする全能の神。その目から逃げるように、全能の神の部屋を、床を思い切り蹴って去った。

* * *

 息が切れてきて、苦しい、これ以上はつらい……と思って足をとめる。どこまで走ってきたのか、どこに行こうとしたのかなんて分からなくて、ただただ、走り続けていた。全能の神の視線から逃げるように。

 目を瞑って、浅い呼吸を繰り返す。しばらくして、深い呼吸に変えて、目を開けて、現在地を把握する。大きな池があって、小鳥たちがよく姿を見せてくれる。池の周りを囲うように、大きな広葉樹が並んでいる。

「……ここ、ポロンが、最初にいた場所……」

 眠そうにぼうっと、目の前にある池を眺めていた。

 やっぱり、あなたのことがどうしても頭から離れない。愛しくてたまらない。だからわたしは、あなたを、探しに行きます。

* * *

 人間の世界にいてもおかしくないように、すぅと溶けこませる。外見的に白い髪はきっと目立つだろうから、茶色くらいにしておこうか。服は、カーディガンでも羽織っていればいいかしら。
 問題ないだろう、とショーケースのガラスに映る自分の姿を見て、人ごみに入る。

 前に一度だけだけれど、人間の世界には来たことがある。人間の女の子がどういうものを好んでいるのかが気になって、調べに降りた。それが彼にばれてしまって、彼はものすごい剣幕で私のことを叱った。そんなに心配してくれるなんて思わなくて、一方通行じゃあない、愛して、愛されているんだと思ったものだ。

 ふっと視線を感じた気がして、人の流れの中で立ち止まる。立ち止まったせいでいらついた感情がいくつか感じ取れたけれど、そんな感情はすぐに流れていくのを知っている。
 立ち止まった後しばらくして、人の流れが分かれて、こちらへ、あちらへ。そんな中、一瞬感じた視線が誰のものか分からなくて、あたりを見回してみる。蝶が舞うような残り香が見えた。ああこれだ、とその線を辿るように視線の持ち主を追いかける。

 人の流れは止まらない。やっと視線の持ち主を見つけて、あれ、と驚く。その持ち主は女性で、さりげなく見える時計やアクセサリー、なにより、彼女自身から落ち着きのある輝きを感じ取った。そこそこに、成功しているタイプ。

 その女性が、何のためらいもなく、鮮やかなネオンの中へ消えてゆく。アルテは彼女を慌てて追いかけて、彼女が入っていった店を、遠くから見る。

「……、ここは、ああ、そうか、擬似恋愛を楽しむような場所」

 知っている香りがした気がした。紛れもない彼の香り、気配。つまり、この場所に彼はいる。

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text by OzoneAsterisk.