:: 22 coma 後編 ::

 奏の脳裏に、経験したことのないはずの情景が浮かぶ。経験などしたことがないはずなのに、浮かんでくる。
 これは、夢だろうか。

◆ ◇ ◆

「クズルー!!」
「なんだよ…朝から煩いな…」

 この人はクズル。自分を神様、と言っている。実は私もその『神様』に関係する人間。私の先祖様は神様と結婚をした人間なんだそうだ。
 それゆえか、私たち香野一族は不思議な力を持っている。直系の香野だけが持っている力、なのだけど…。
 それは神様が使う力の一端にしか過ぎないらしい。でも、それでも、人間としては恐ろしい領域にいる。

「相変わらず朝は弱いんだ?」
「弱いに決まってる…。頭が働かない」
「本当人間みたいだね…。お邪魔しまーす」
「入っていいとも言ってないぞ、こら…」

 クズルの言葉を無視して、クズルの部屋に入る。そんなの日常茶飯事で強く咎められたこともないから、当たり前になっていた。

「ご飯食べた?」
「まだ、だが」
「じゃあ作るよ。何がいい?」
「……パンナコッタ」
「それはお菓子!!」

 べしっ、と突っ込んで満足する。これが何時ものことで、この日常が続けば良いと思っていた。そう、思っていたんだ。ずぅっと…続くんだって、思っていたんだ―――。

◆ ◇ ◆

「ねぇ、クズル」
「何だ?」
「…クズルは、いつか…いつか、神の世界に戻ることになるの?」

 奏の疑問にクズルは儚く笑って見せた。

「判らない。俺の使命はこの世界を守り抜くことだから」

 敵の正体がはっきりしていないときに面白い質問をしてくるな、と思った。まだ、本当の敵が誰なのか判らないのに、帰るだの帰らないだの、話すことでもないだろうに。

「…私」

 とん、と奏が持たれかかって来る。そして、そのまま言葉を繋げた。

「クズルと一緒に居たいな…」

 ずっと。出来るなら、一生、というくらい。

「でも、無理だよね。私は…神の子ではあっても、神様じゃないから…」

 クズルと一緒にいられるはずが無いから。だから、悲観的になってしまうのだろう。今の時を楽しむしか、それしか、ないから―――。

◆ ◇ ◆

「…ッ…、ゆ、め…」

 ふ、と夜中に目が覚めた。苦しくて、目が覚めたんだ。

「…そんなこと、ないよね…クズル…?」

 誰も居ない部屋。私だけの家。そこで、ただ一人、呟く。この部屋で言っても、彼に届くことなんてないのに。

「…そんなの…やだよ…」

 一緒に居たい。異端な私を、しっかり、受け入れてくれた―――大切なひとだから、余計に。
 彼と一緒に居ると全てが新しいもののように見えた。いや、事実なのかもしれない。今まで、神の力―――普通の人からしてみればあからさま異常な力を抑えて人と付き合っていかなくてはいけなかったから。だから、その力のことを黙っていなくていい相手なんて、初めてで。そしてそれが、異性だったから、好きになったんだろう。

 でも、それでも、彼は…人間じゃないんだ。

「…神様…」

 神様に、なれたらいいのに。そうすれば、彼と一緒に居られるだろうに。でも、彼はそれを望まないだろう。
 戦いという危険から私を遠ざけようとしているぐらいだから、彼は喜ばない。神様になれば、戦いから離れることなど出来なくなってしまうから。何より―――。

「…お姉さんの、二の舞になる可能性もある、もんね…」

 彼の姉であるレヴェーラ…最高神。彼女を失ったときみたいに、なってしまうかもしれない。レヴェーラを失ったことで自責の念にかられているから。私ごときで、もっと大変にさせたくない。

 それなら離れてしまえばいいじゃないか。そう思いすらした。したけれど、出来ない。それほどに、『すき』なんだ、あの人のことが。

Back | Top | Next
2007/10/03,12/10,23
(2010/08/22 加筆修正)
Copyright © 2005-2010 OzoneAsterisk All Rights Reserved.
OzoneAsterisk