:: 19 古来の対立者 前編 ::

「やはりな、強化されているか」

 椅子に座り、セーフェは舌打ちをする。魔界への経路の警備が厚くなっているようで、そう簡単には魔界へ行けないらしい。

「それが普通だろ。しかし、テュエラスに『白』が目覚めて来てるっていうなら、救済しようと思うはずだが…」
「そうね…。その救済の方向が間違っていないのなら、クズルとは逆のことをやるでしょうね」
「ウィレール…」
「いつかはこうなるんじゃないかって思っていたわ。クズルは見ていて危なっかしかったから」

 本当にお前は母親みたいだな。そうフォーラが言うとウィレールはにこやかに苦笑した。

「奏ちゃんを神にしないのは…惜しいといえば惜しい。あの子はサーリャよりも力が強いから」
「…それは…」
「判ってる、それも。クズルはもう大切な人を失いたくないからだってことぐらい」

 周知の事実でしょう、それは。神々にそれを知らぬものは居ないでしょう。あの子の辛い記憶は、全て知られたものじゃないのだけれど。
 そのウィレールの言葉に、フォーラとセーフェは瞳を伏せた。

「…ラヴィリトとクズルが神外魔鏡(クァトロ・スクリープ)に向かったと聞いたが」
「あぁ、それは事実だよ。なにやら模索中みたいだからな」

 あんな作戦…、下手をすれば捨て身じゃないか。ぽつりと呟いたフォーラに、セーフェは顔を歪める。

「あいつは昔からそういう奴だ。お前もそれは知ってるだろう?」
「あぁ、知ってるよ…。けど、そんなことしたら、って何度も…」
「私も同じだよ。でも、それでもクズルはその一か八かに賭けてるんだ。そしてそれが成功すると信じてるんだ」

 絶対成功するのだと。間違うことなど無いのだと。そう、彼は信じて疑わない。その自信は一体どこから出てくるのか判らなかった。

「…どちらにせよ、定時になったら私たちは言われたとおり第38ルートから乗り込む。
そして引き寄せればいいんだ」
「38はそんなに強くない雑魚集団だろ。それなら簡単…だが」
「そう、『だが』、よ。ノーベの動向が掴めないからいきなり現れる可能性もあるし。逆にテュエラスが現れる場合もある」
「それが厄介なんだよな…。だから俺とセーフェとリアズを組ませたんだろうが…」
「あまり心配していてはダメよ。今のクズルは今までの私たちの知るクズルじゃない。力だけで言うならレーヴェルよりも上よ」

 だから、大丈夫。そう彼らに言い聞かせた。

◆ ◇ ◆

「…もう直ぐ夕暮れか…」
「人間界じゃ夜明けだね」
「あぁ、今日はそうだな」

 そう言って、クズルは今まで着ていたのとは違う服に着替えた。

「あれ、それで行くの?」
「こっちの方が色々と動きやすいからな。以前より動きやすいのは確かだ」

 彼が纏っている服は一目見れば中華風。確かに彼は剣以外の武術にも長けているから、この服装の方が動きやすそうだ。

「今までのはずっと着ていた分思い入れも強いが、昔のままで居るわけには行かないんだ。魔力の漏れも押えなきゃならないしな」

 彼がそう言って着替え終わる。それを見て、ラヴィリトはふと気付いた。先程までダダもれだった魔力が感じられない。つまり、今までの服では今の魔力を抑えきれないということか。

「そのために、か…。まぁ、似合ってるからいいんじゃない?」
「似合う似合わんの問題ではないだろう」

 軽くそう返すと、クズルは剣を腰に携える。それからラヴィリトに声をかけ、部屋を出た。

◆ ◇ ◆

「侵入者だ!」
「天使が攻めてきたぞ!」

 魔界では、悪魔の声が響き渡る。予想していたことだろうに、慌ただしく動きまわるの見て、フォーラが呆れた。だが、予定よりも早く気付かれた。

「思ったより早く気付かれたな…」
「仕方が無いだろう、コレだけの魔力の塊だぞ。流石に気づかない方がおかしいと思うが」

 クズルの隣にはカヴェノ。水神コンビは暢気に言っていた。だが、クズルの服装がここを出てくる前の新しい物でなく古い服装であるのがおかしい。魔力が漏れるのを抑え込むために新調したはずだ。

「…んで、なんで僕はクズルをやらなきゃならないんだろうね」
「戯言を言っている暇はない。お前がそうしているから気を引いていられるんだ」

 何故服装が元のままかというと、ラヴィリトがクズルに化けているからなのである。

「確かにそれはそうだけれども」
「口調も直しておけ」
「あぁ、判った。全く、面倒だな」

 溜息を吐き出して細身の剣を手に取る。

「命令どおり、根こそぎ倒しに掛かるか」

◆ ◇ ◆

 単独で行動する彼は誰にも気付かれていない。新調した服が魔力の漏れを抑えるため強い力が判別できないのである。後ろで結った髪が風に靡く。ふと視線を上げると、大きな黒い扉の前に、テュエラスの姿があった。
 その人物を見つけて、彼は地に降り立った。

「…来るだろうとは、思った。けど、全く気配が感じられなかったよ」
「新調した服のお陰だろう。ここまで何事も無く来れた事が自分でも凄いと思ったぐらいだ」

 『白』の目覚めたテュエラス。『黒』の目覚めたクズル。そして、互いに対を成す存在。いつの時も間逆になる。

「…『白』が目覚めた感想は?」
「…こうして戦っていることが無駄に思えた。だが、俺は全てが『白』じゃない。君に対しての憎しみもまだ、残ってる」
「それは俺も同じだ。お前に対しての使命感と破壊衝動の間で葛藤中だ」
「それでも、クズルは奏を助けることは忘れない」
「あぁ、それはそうだ。彼女は俺の『大切なヒト』だから、だ」
「なら、レヴェーラよりも…?」

 テュエラスの問いにクズルは一瞬ばかし動きを止めた。レヴェーラよりも奏の方が大切なのか、と問われて、比べたことはなかったと気付く。

「…だと思う。レヴェーラとは全くの別物の感情が動く。ただ大切なんじゃない。失いたくない、ずっと俺が守っていたい」

 レヴェーラのときは、そんなこと思いもしなかった。単に一緒に居られればいい。それだけだったのだ。

「所詮『キョウダイ』だったんだろう、俺とレヴェーラの関係は」
「…やはり、そうか」
「それを否定する必要は無いと思う」
「…そして、クズル」
「…」
「君は、前世が人間であったことは既知だ」
「あぁ、それはな」
「人間の前世も」
「既知だ。魔界の王者・クヴェンディ、破壊と知識を司る悪魔」
「そう、それこそが今の君の本来の姿…って訳だ」

 元から持つ彼の血。それは人間でも神でもない。悪魔だったのだ。

「しかし、俺は最古まで上れば初代水神に当たる」
「あぁ、そこまで既に知っていたのか」
「あぁ、どこぞの『時の神』が見せてくれたよ」
「…『彼女』が、ね…。君が初代水神だったそのときはまだ、良かったんだ。対立なんてしなかった」

 テュエラスは対立をしていなかった理由を知っているのだろうか。それはクズルにはない知識で、想像のつかないところだった。

「俺が知らないもの全てを、お前は知っているな…?」
「いや、全てというわけではない。君が知らないところを補完するような形で俺は知っているだけだから」

 つまり、クズルが知っているところの一部は、テュエラスが知らないものなのだ。クズルに説明をするようにテュエラスの口は動いた。

「初代水神はキウェロという。彼は確かに水の神だった。地球に水を作ったのは彼だ」
「それが、いつから曲がった…?」
「…定かではないけれど、15代あたりからだとは推測できる」
「同時、黒神も異変を起こし始めた」
「あぁ、そうなる」

 何故水神と黒神が、と思う。水神なら火神、黒神なら白神が対になるはずではないのかと。
 それは属性的な問題で、実際対立を起こすように『設定』したのは全ての母『マラーナ』と呼ばれる神の創造主。彼女の意図は誰にも判らぬまま迷宮入りしている。

「15代…それぐらいと推測される水と闇の神は天上界全域、星雲界…つまり、天使をも巻き込む騒動を起こした。その騒動が元で水と闇の神は魔界へと最高神の手によって突き落とされた。神格を剥奪され、姿すら、記憶も失われ」

 既に水と闇の者は対立をするように『母』に『プログラム』されていた。だから姿が変わろうとも、記憶が失われようとも、対立は勃発した。
 その対立にどちらかが勝って、世界が悪化しないように、『母』は更なる仕組みを作っていた。どちらかが存在が死に至ればもう片方が死ぬという、災いを打ち消し、ゼロにする『プログラム』。
 それが何度も行われて出来上がっていった世界がこの世界。

「…そうして、君の前々世、クヴェンディが登場する」

 クヴェンディ。破壊と知識を司る悪魔であり、魔王の1人とも呼ばれている。五大悪魔の中に名を連ねることはなかったようだが、歴史に残る程度に有名であった。

「外見はクズルとは全く持って違う。けれど、俺と対立するのは一緒だった」

 そしてテュエラスの前々世も今のテュエラス、そしてユウィエルとは外見が全く異なっていたという。しかし、彼らの姿は男性体のみだった。
 1度も女性体になったことは無い。

「そして本来なら、今回俺は黒神に即位しているはずだった」
「何か、起きたというんだな?」

  本来、対を成す存在は同じ世界に同じような境遇で存在することが判っている。
だからこそ、今回が異例だった。

「ノーベ…、そう呼ぶ『悪魔』が神になってしまった」
「…アイツは、やはり悪魔か?」
「『悪魔』であって『悪魔』ではない。最も厄介な存在だ」

 その言葉に、クズルは心当たりが全くなかった。そんな種族、居たのだろうか?

「リタンダ、という種族を知っているか」
「聞いた事は無い」
「…古代語で『魔王と神の子』と言うそうだ」
「…それをそのまま受け取れば、ノーベは『悪魔』と『神』の混血だと? 今までに、そんな神は居たか?」
「居る。神の血を色濃く継いでいた存在が、2人程」

 まさか、とクズルが呟いて、テュエラスが言う。

「そう、今まさにここで会話をしている、水の神と、闇の神の力を古来より継ぐ者」

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2006/10/27,28
(2010/08/22 加筆修正)
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