:: 18 White or Black 後編 ::

「あの『混沌たち』は…、それぞれが逆の存在になる可能性を秘めていたんだ」

 カヴェノが呟く。それを聞いているのはクズルとノーベを除く上位神たち。夜の晩餐の後、緊急の会議会だった。

「つまり…、クズルが破滅の存在になる、ということか?」
「あぁ…、そして逆にテュエラスが救済の存在になることも考えられる。だが―――、それは不確定過ぎるんだ」
「そう、確実なものじゃない。下手をすれば両者が破滅の存在になる。上手く行けば両者が救済の存在になる」

 カヴェノに付け足すようにフォーラは言い、一旦紅茶を口にしてから話を続けた。

「それが、確実なものじゃない不安定なものだから、この先の展開が全く判らない。クズルは必ず奏を助けに行く、それは俺にも安易に予測できる。けど、その後どうなるかが全く判らないんだ」
「今、クズルは『黒』―――『破滅』が目覚めた状態にある。そしてそれに連動してテュエラスは『救済』が目覚めたんだ」
「…まったくややこしい話ね」

 ウィレールが呆れたように言うとレーヴェルが苦笑したが、カヴェノの言葉に付け足すように、レーヴェルは口を開く。

「…だが、それはクズルの封印の開放の一段階―――そう、記載されているぞ」
「記載されてるって…どこにだよレーヴェル!?」
「―――ここに」

 そう言ってレーヴェルの手に現れたのは一冊の本―――否、ノート。それを広げて、全員で見る。

「…私もこれに気付いたのはつい最近。結構前に複製しておいたんだがなかなか小さく書くもんだから気付くのが遅れた」

 この本は写本ではない。本当にそのまま複製されたものだ。全く同じものを魔法によって作っただけの話。

「…強制的に封印を開放する方法の一つとしてここに書かれている。それはクズルが行わなくてもテュエラスが覚醒すれば勝手になってしまうから時間の問題だとも書かれているのだけれど」
「その時間の問題だったものが起きた―――、ってことか。なら、多少予測は可能だな…。カヴェノ様、やっぱり貴方に『彼女』は正確なものを教えなかったんだ」

 フォーラの言葉に、カヴェノは口を噤んだ。そんな彼女を横目にラヴィリトが言う。

「フォーラ、『彼女』っていうのは―――まさか」
「…そのまさか。『時の神』さ」

 その言葉にやっぱりね、と呟いてラヴィリトは何か考え始めた。それと入れ替わりにセーフェが問う。

「…フォーラ、お前は『時の神』に干渉できるのか…?」
「一応のところは、な。俺も完全な干渉を許されてる訳じゃないから真実を教えてもらえることなんてないけど」
「やはり『彼女』は…誰にも真実を教えることはないのか…」
「本当の未来を教えてしまったら『彼女』は『神』として生きられなくなる。それぐらいは誰でも知ってる伝説だろ?」

 『彼女』。『時の神』。そう呼ばれている女性は最高神の上に存在する神だ。
 『彼女』に干渉できる者は限られている。完全な干渉が出来た人物は今までに存在しないと言われている。だから、『彼女』は実在するのかどうかすら怪しいと言われている存在だ。
 そのため、神々や天使は『彼女』のことを、『伝説の神』だと言い伝えた。

「フォーラは、『時の神』の姿を見たことがあるのか?」
「…あぁ。一応火神は代々『時の神』と関わりを持つからな。不確かでもいい、より多くの情報を得るために」

◆ ◇ ◆

「で、結局。お前は『黒』が覚醒しても人格が変わるとか、そういうのはないわけ?」

 フォーラはクズルの横を歩きながら、クズルに問いを投げかける。それに対して、中身まで変わったらどうする、とクズルは言った。
 確かにそうだ。中身まで変わってしまったら困る。

「多少、人格に揺らぎは出る。だが、根源から変わることは無い」
「まぁ、確かにお前の喋りが結構冷めてる気がするのはそういうことだろーな」

 彼は、クズルを嘲笑った。それにむっとすることもなくクズルは扉の取っ手に手をかける。その扉を開けると、そこには神々が集結していた。

「…わざわざお集まり頂き、有難う御座います」

 そう言って、クズルは一礼した。それが珍しくて、違和感があって、神々は少なからず顔を歪めた。

「…今回お集まり頂いたのは」

 既にそれは決まっていた。そうなることなど、決まっていた。

「奏を、助ける為です」

◆ ◇ ◆

「…んで、それでもお前は彼女を神にはしたくないと?」
「あぁ。当たり前だろう」

 招集の後、既にベレンディールは夜を迎えていた。食事の席で、フォーラに問われてワインを飲んでいた手を止めて、クズルはそう言葉を返したのである。

「当然のこと、だろう」
「セーフェまで」
「そういうものなのよ、フォーラ」
「ウィレールに言われると納得せざるを得ないなー…」

 そうぽつり、と呟いたと同時、フォーラの頬を光が掠った。

「…そうか…、私の意見は無視か…」
「うわっ、セーフェがキレてる!!!」
『原因はお前だろ』

 誰もが声を揃えてフォーラを哀れむ。その数分後食事どころではない状態にされたフォーラは召使いによって失神したまま部屋へと運ばれていった。
 それを見ながら、クズルは食事を終わらせ、席を立った。誰かが呼び止めていた声が聞こえていたような気がしたが、それを聞かなかったことにした。

 奏、 必ず、必ず助けに行くから、だから、待っていて。

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2006/08/31,10/01
(2010/08/22 加筆修正)
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