:: 17 好奇心と自己否定 後編 ::

 のろのろとベレンディールへ向けて歩いているクズルの顔はつい、歪む。あの時どうして封印術をかけてしまったのだろう、と。

「…俺がそれを実行しなければ…あそこまで迷惑を被ることなんてなかったのに…」

 その封印の方法は、『スペーキアの鐘』と『封依杖』という杖を使うというものだった。それで、古代の最高神は力を封じることが出来たのだ。だから、やった。それで封印できるなら、と。しかし、クズルは失敗した。

 それは不完全だった。カヴェノがその書物を弄ったわけじゃない。その書物が古過ぎて、ページが欠如していたのだ。それにも気付かずに行使したがゆえに、失敗してしまった。

 そして、封じようとした魔力が逆に漏れ出し、ベレンディールを覆った。それはクズルが望んだことじゃない。ある意味の、魔力の暴走だった。

「そして、現在に至る、だね」
「―――!」

 誰だ、と思って見回す。すとん、とそれは木々の上から降りてきた。

「…ラヴィリト…」
「その失敗によって、セーフェやシェールといった神々の魔力制御が上手く行かなくなったのも事実だったね」

 だから今の神々は魔力制御具を必ず持っている。そう付け足して、ラヴィリトは塵を払いクズルを見た。

「…知って、たのか…」
「一応、僕もその被害者ではあったから…」

 その言葉に、そうか、と短く呟いて足を進ませる。ラヴィリトの横を過ぎる時、彼は「すまなかった」と一言口にする。すると、ラヴィリトは怒るでもなく、嫌悪するでもなく、ただ淡々と過去のことだ、誰も根には持っていないだろう、と尚も歩み続ける彼を追うように、ラヴィリトは後ろから声をかけた。そして、クズルの後を追う。

「…ノーベは、根に持っているかも知れん」
「…って、ノーベも被害者だったの…? 普通から考えればそれはありえないはずだけど…」
「そうだ、普通から考えれば…そうなるはずなんてないのに。彼女は被害を受けたと言っている―――」
「それ、もしかしたらセーフェを仲間に引き入れる為に作った口実だったのかもしれないよ? そうすれば、セーフェの性格からすると同情して仲間になってくれる可能性が高いし」

 何か、ラヴィリトが言うと妙な説得力がある。それはセーフェのことだからなのだろう。セーフェのことは、彼が一番知っているのだ。

「…確かに、そう考えるのが妥当、か」
「だと思うよ。あの時の神々しか、被害にあっていないはずだから」

 クズルは、失敗したからこそ、封印された魔力の解除方法が判らないでいる。そしてそれをいいことに、彼は誰かが自分の封印を解こうとするのを拒む。封印を解きたくない。また同じ事を起こしてしまいそうで。
 何より―――『彼女』に、嫌われてしまうのではないかと恐れて。

◆ ◇ ◆

 クズルとラヴィリト、そしてレーヴェル。3人とも無言で、周りに何も喋らせない雰囲気を持ちながらベレンディールの廊下を歩く。レーヴェルとは城の入口で落ち合った。

「…ラヴィリト」
「…なんでしょう、レーヴェル?」
「…後で話がある」
「…判りました」

 ぽつりぽつりと発される言葉。それがいやな感じだった。そんな中で、レーヴェルがクズルを呼ぶ声がして、何だと返す。

「………もう、誰もお前があれを失敗したことなんて、気にしてない…。お前は…知ってるんだろう…? お前自身の―――」
「じゃあ、俺はここで」
「っ、クズル…!!!」

 真実を語られまいとするためか、すたすたとレーヴェルとラヴィリトを突き放すようにクズルは歩いていった。

 判ってる。そんなこと既に判ってる。何のために俺は封依杖をもう一度手にし、スペーキアの鐘へ向かったのか。それは、被害を元通りにするためでもある。だけど、完全に封印を解除することが出来なかったのだ。

◆ ◇ ◆

「…レーヴェル、何かあったんですか…?」

 ラヴィリトの声。溜息を長く吐き出しながら、レーヴェルは言う。

「奏を、助けに行かねばならん」
「まぁ、それはそうですね。魔界に渡ったままだと後々困りそうですし」
「あぁ…だから、助けに行くのは確定。決定事項なんだ。だけど、クズルが今の状態では無理だと思う…」
「…、それは…」

 ベレンディールの誰もが薄々と感づいていた。彼は、『あの』解除方法を知っている、と。レーヴェルの手にすぅっと一冊の本が現れた。

「それは…」
「あいつが書いた研究書の複製だ」
「…複製…」
「中身は、封印術の解除方法」
「―――!!!!」
「あいつは、もう判ってるんだ。解除の方法を―――…」

 けれど、彼は自ら封印術を解除しようとはしないのだ。

◆ ◇ ◆

「スペーキアの封印は解除されている。それは…判ってる。でもそれだけじゃ封印は解けないのも知ってる」

 その解き方も知っている。研究しないわけがない。けれど、不安がある。

「…俺は、封印をといた時…、『俺』でいられるのか…?」

 自分という存在が変わってしまいそうで、怖いんだ。

Back | Top | Next
2006/08/14,28
(2010/08/22 加筆修正)
Copyright © 2005-2010 OzoneAsterisk All Rights Reserved.
OzoneAsterisk