:: 15 metamorphose 後編 ::

「…ヴィリト…!」
「今はラヴィリトです、レーヴェル様」

 廊下ですれ違い、レーヴェルに名前を呼ばれる。だが、使い魔としての名前を呼ばれたために、ラヴィリトは名前の訂正をする。それに対して、そうだったなとレーヴェルが焦りながら返す。

「そう緊張なさらないで下さい」
「だ、だが…姉さまが神と認めた方…。まさか神であったとは思いもせず…」

 『姉さま』。そう彼女が言うとき、誰を指すのか、それは誰でも知っている。レヴェーラのことである。
 レーヴェルの師匠、前最高神レヴェーラは彼女から『師匠』ではなく『姉さま』という敬称で呼ばれてはいたものの師弟関係にあった。

「今は、神ではありません。水神様―――クズル様の使い魔ですから」
「…そして、カヴェノ様から…。私の権限を持って貴方をもう一度神にすると…。なら今は神ではなくても尚更」
「神になったら僕は貴方の配下になりますよ、レーヴェル様」

 最も、そうなるとクズルと対等になりますがね。そうラヴィリトが言って、それから視線を鋭くする。

「僕自身からも御願いします。セーフェが負ってしまった僕が負うべき罪を、僕が全て負う為、僕をもう一度神にしていただきたい」
「………」
「間違っても、クズルを殺すようなことはしませんから」
「いや、私はそれを心配しているわけじゃないが…」
「御願いします、レーヴェル様」

 どうか、僕にもう一度神格を与えてください。

◆ ◇ ◆

「…お前だけが知らないと言っても、過言じゃないな―――」
「いきなり人の部屋に入ってきてなんだよ、セーフェ」

 クズルの部屋。書物に埋もれてクズルは読書真っ只中だった。
 クズルにセーフェの姿は見えていない。というか、書物の中にクズルが埋もれている為、書物が死角になって見えないのだ。

「お前とレーヴェル、とも言えるか」
「だからなんだってんだ」
「お前の…使い魔のことだ」
「…あぁ、ヴィリトか。俺より一世代前の神、ラヴィリト・リデスルスだろ」
「…! 知っていたのか!?」

 セーフェが驚いて返すと、クズルは暫く黙った。

「…さっき見つけた書物に書いてあったんだ」
「そんな偶然もあるものなのか…」
「あるもんだろう」

 そう返して、クズルはセーフェに一冊の本を投げる。見えないはずなのにそれはまっすぐにセーフェへ向かう。それをセーフェが受け取ると丁度開かれたページにそれは書いてあった。

「俺は、セーフェが神を殺したと、書物で読んだから、そうなんだろうって思ってた。だからお前は神格を剥奪されたんだと。けど…本当は、違った」
「…、ここまで記してある資料が何故今更…。私もラヴィリトもカヴェノも何も言っていないはずだ…」

 確かに、『言ってはいない』だろう。そう、クズルは言い、書物の中から顔を出す。

「その書物を書いたのが誰だか、判るか?」
「…判らん」
「…一番最後、左端だ」

 言われたとおりにセーフェはページを捲り、それを見た。本文と同じように癖のある筆記体―――それは、よく目を凝らしてみれば、とても見慣れていた筆跡だった。その筆跡で書かれていたのは、『Kaveno Rardaly』。

「な…!」
「そう、うちの師匠だ。その本を書いたのは、カヴェノ様なんだよ」

 彼女も、その真実を知っている。数少ない存在だ。

「『言ってはいない』。けれど、『書いてはいる』」
「カヴェノ…」
「それが何故、今更になって見つかったか。見つかったんじゃない、師匠はわざと俺の部屋に置いていった」

 俺に、その真実を教えるために。

◆ ◇ ◆

 セーフェが部屋を出て行って暫くの後、ラヴィリトの姿が見えた。どうやら尋ねて来たようで、そのまま部屋に通すとラヴィリトにもソファへ腰をかけるように促した。

「で、正式に神格が戻るのはいつになった?」
「明日決行との事で」
「早くてよかったじゃないか」

 なおも会話は続いている。だが、クズルはラヴィリトがこの部屋に入ってきてから一度もラヴィリトを見ていない。

「そろそろ、厄介なことが起きてきそうだな」
「…そうですね、流石にこんな長い間天上界で何もないのもおかしいですから」
「天上界で、ならいろいろあっただろう。師匠が来たとか、お前が神になるとか。厳密には神に戻る、か」
「あぁ、そうでしたね」
「―――それ以外に、何か起こりそうな気がする」

 嫌な予感がする―――。そう言うと、ぱたん、と本を閉じ、初めてラヴィリトを見る。

「流石『変神』。服装もまるでピエロだな」
「やっぱりクズル様もそう思います? これ昔神だったときの服なんですけどやっぱりしっくりくるものでして」
「その敬語もやめたらどうだ?元はといえば先に神になったのはお前だし」
「そう―――だね。僕のほうが一応は先に神になった。カヴェノもセーフェも古い知り合いだし」
「―――対等のほうが、こっち楽だよ…」

 彼が神だったと知っているからだ。
 また別の本を手にとってクズルは読み始める。そして呟いた。

「最後の舞台は、人間界か、天上界か、はたまた魔界か」

 人間界だけは、やめてほしい―――。そう思いながら、ページを捲った。それと同時に、部屋に慌てて入ってくる客人がいた。
 朱に近いの髪の色を持つ神、火神・フォーラだ。

「なんだよ、人が読書中だってのに」
「それよりも大事なことだ!ってラヴィリト!?」

 ぎょっ、と後ずさるとクズルが視線を上げて言う。

「明日正式に神格が戻るそうだ。そういえば、神格は何位だ?」
「神格、か…。以前のままであるなら8位だったんだけど」
「そうなる可能性が一番高いな。―――で、何だフォーラ」

 話を戻して慌てて入ってきたフォーラへ視線を向ける。

「…ウィレールがもう戦うことは出来ないそうだ」

 その言葉に、やはりか、とクズルが返すと。気付いていたのかと返ってくる。

「人間界に居た時に彼女から聞いた。もう戦うことは出来ないと。援護だったら辛うじてできる、と言っていたが」
「…それで、後任が―――」
「…サーリャ―――だったらわざわざお前はここには来ないな」

 お見通しかよ! そう言うフォーラにふっとクズルは笑う。

「一つだけ、想像が付いている。でも、俺はそれは認めない」
「…お前が想像が付いてるのは、カヴェノ様が言ったのと同じだと思う」

 本を閉じて、クズルは言う。

「彼女を、神になんてさせない。彼女がまた関わったら、本当に彼女は死んでしまうかもしれない」

 既に大切な人を失った彼は、二度と同じことが起きて欲しくないとそう願う。それがトラウマになっていて、大切な人を危険な道に歩ませたくないのだ―――。

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2006/06/25,27
(2010/06/05 加筆修正)
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