:: 12 始まりを知らす鐘 中編 ::

 クズルは荒れ果てた、もう、道とは呼べない道をかき分けるようにして歩いていた。歩くことすらままならない茨の道なのに、彼は歩き続けていた。

「…もう来ることも無いと思いたかったよ…。でも、始末しなきゃ、いけないんだ…」

 過去の自分の過ちを。

◆ ◇ ◆

「…何だって…?」

 セーフェは飲んでいたハーブティーから口を離して言う。だーもう!と言うフォーラは頭の中が混乱を起こしているようで、説明がままならないでいた。

「だから…っ、『あの場所』から消えてたんだよ…!!!封依杖(ふうえじょう)が!」
「…持ち出す奴と言えば…あの男…っ!!!!」

 途端、セーフェは走り出していた。彼が何をするかわかってしまったから。
 同じく、フォーラも判っていた。だからこそセーフェに言った。そして、フォーラは走り出したセーフェの後を追った。

◆ ◇ ◆

 茨の道を掻き分けて、クズルは一つの鐘の下にいた。

「…こんな所に放置されてて…壊れても居ないんだな…スペーキア」

 スペーキア。神々が古代から使っている言葉で、「封印」を意味する鐘である。茨の道の先、茨の森の中に生きているその鐘は、傷1つ見られなかった。

「…生きてるか、本体」

 呼びかけても、応答は無い。

「当たり前か…」

 約1万年、放置している。あの事件以来、彼は人間界に逃げた。そのときから、会っていない。

「……封依杖も反応しない、か…」

 もう、ダメなのか? ならば何故、被害が続く? 俺が原因ではないのか?
 クズルの疑問は、言葉になってスペーキアに降りかかっていた。だが、全く反応がない。

 仕方がない、とクズルが踵を返そうとした途端、鐘が鳴り始めた。帰ろうとしていたクズルのその足が、突然鳴り出したスペーキアに向く。
 それと同時に、茨を掻き分けてきた2人の神にがっちり固められる。

「…っは…クズル!!!」
「何してやがんだクズル!!!」
「え、ちょ、2人して何!?俺まだ何もして無いんだけど!?」

 駆けつけたセーフェとフォーラに、ものすごい形相で問い詰められ、クズルは必死に抵抗した。
 何もしていない、とクズルが口にしたため、フォーラとセーフェの視線はクズルが手にしていた杖に向いた。

「…あ、ホントだ…」
「…封依杖が開放されて無い…」

 それを確認すると、セーフェとフォーラはぱっと手を離した。その反動で、クズルはよろける。
 それから、急に鳴り始めた鐘に、触れた。

「…鳴って…る…」

 スペーキア。俺を、呼んでいるのか?許して、くれるというのか?
 そう思念を送ると、答えはクズルへの頭痛となって返ってきた。頭が割れそうになる程の頭痛に、クズルは頭を抱え込みその場に座り込んだ。
 その行動をしたクズルに、セーフェとフォーラが慌てて駆け寄る。

「…め…っ…やめ、ろ…っ」
「クズルっ!?」
「何だ何が…!!!」

 スペーキアが、起因するのか? フォーラは鳴り続けるスペーキアを凝視する。
 クズルが触れてほんの数秒、その数秒でクズルが座り込んだ。ならば、このクズルの行動はスペーキアに問題があるのだ。

「…う、ぁああ…っ…!!!」
「クズル…!!!」

 痛い―――…!! 頭が割れる…!
 視界がぐらつく。痛みが全てを支配して、嘔吐感をも催した。

 そして、一際頭痛が増したその瞬間、クズルの脳裏に映る映像があった。見覚えの無い映像。けれど…とても懐かしい映像。
 ―――あれは…誰、だ…?

「………ねえ、さ…っ…」
「…クズル…!?」

 セーフェが呼ぶ声も、聞こえなくなった。

◆ ◇ ◆

―――…れ…

 声が、聞こえる。

―――…た…は………だ……?

 …懐かしい? 何故だろう、そう思う。

―――…貴方は、誰…?

「―――!!!」

 ふと、目が覚めて起き上がる。目の前に広がった世界は、天上界ではなかった。かといって人間界でもない。

「さっき聞こえたのは、誰なんだ…? 懐かしい…声…だった。てーかそれよりも何処だよここ」

 まるで水の中のようにゆらゆらと揺らめく世界だった。そして、クズルは自分の姿を見てふと気付く。服が違った。簡易神服を着ていた筈だ。それが、何故か違う服。

「…貴方が、『始まり』」
「―――!!!」

 揺らめく中、少女の姿が後方にあった。

「貴方の名前は知らない。ただ私が判るのは貴方が『始まり』を意味するということ」
「…お前は…誰、だ…? スペーキア…か?」

 そうクズルが問うと少女は首を横に振る。スペーキアに宿る人格ではないらしい。

「私は化身。最高神の化身」
「レーヴェルの…か?」

 少女はまたも首を振った。

「違う。そんな名前聞いたことも無い」
「…レヴェーラ?」
「それも違う。貴方が知っているのは、私の生まれた時代より遥か先みたい。以前、『始まり』がここに来たときからそれだけの年月が経っているということね。それまで平和、だったのね…」

 よかった。そういうように少女の顔が安堵に変わる。だが、それも一瞬で険しくなる。

「でも、貴方が来たということは、平和ではないということ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ…! 良く判らないんだが…!?」

 判らないのが当たり前よ。少女はそういうとクズルを手招きした。

「貴方に、初めて『始まり』が生まれたときのことを教えてあげるわ。本当、あの人そっくりね…」
「え…?」
「ううん、こっちの話。着いてきて」

 少女が言うとおり、クズルはは少女に着いていった。

◆ ◇ ◆

「…ところで、ここは何処なんだ?」
「世界の始まり…本当の混沌の状態。神という存在が、生まれたばかりの時代。貴方にとって、数え切れない数昔の話よ」
「…そうか…」

 少女は突然止まり、クズルを向く。

「…先に言っておくわ。これから先この世界で起こること、それは貴方にとって驚きの連続かもしれない。けど、それが現実起こったこと。混沌が生まれたとき、多少のずれはあっても殆ど同じ道を進む。だけど、それを変えることは誰だって可能。過去に起こったことを全て見てしまった後、それに囚われていては、いけない」
「―――その意味は今は判らん。…けど、俺は、俺の道を行くだけだ」

 その言葉に、少女は微笑んだ。

「有難う」
「何故礼を言われなくてはならんのだ」
「…貴方の前の『始まり』が囚われたままになってしまったから。変えることが出来なかったから」

 そのとおりに、それは物語を進めたのだ。少女に言われたことを、そのまま真に受け止めてしまった。

 少女はふいに、光の前で止まった。

「…これは…?」
「…貴方にとっては、とても昔の過去よ。神が世界を護った、初めての過去。混沌が生まれた、初めての過去。貴方が、見るべきもの」
「―――…」

 光に手をかざす。暖かい光、だった。

「…行ってらっしゃい」

 少女に言われて、クズルは光の中へ手を入れる。

「…行ってきます」

 少女に釣られてそう返す。意識が離れる直前、彼女は笑っていた―――。

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2006/02/19
(2010/05/08 加筆修正)
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