:: 10 神の決断 後編 ::



「…まだ、起きてたんだ」
「…お前も、な」

 いつものように不法侵入をした家で、水神の後姿に、彼女はそう問いかけた。

「しかもまた侵入試みて見事入ってきてるし」
「仕方ないじゃない。怪盗の癖よ」
「…癖で侵入されると、困るんだがな…」

 溜息をついて、手を休める。それをひょこっと横から顔を出して奏が見る。

「何作ってるの?」
「わっ、こら…!!!!」
「…宝石…?」

 見せたくないものだったのか、隠そうとするクズル。だが、彼の反応は遅く、奏はそれを手に取り、凝視していた。
 見えたのは、サファイアかと思った。だが、それよりも濃い色をしていて、透明感があった。不思議な宝石だ、と思い、奏は見たことのない色だとクズルに言った。
 それに対して、クズルはそれはそうだ、と言いながら仕方なさそうに溜息を吐き出し、仕方ないと言うように説明を始めた。

「魔石という石だ。この世界には存在などしない。神が創る石だからな」
「だから見たことも無い透明感のある宝石なのね。…そういえば、この石…何のために作ってるの?」

 問われて、クズルは言うべきか、言わざるべきか、と視線を泳がせた。
 クズルは無言でもう一度席に着き、奏からそれを奪い取るとまた作業に没頭する。

「答えてくれてもいいじゃない…」
「出来てからのお楽しみ、ってヤツだ」

 そう言うと、奏はぷくり、と頬を膨らませる。それを見て、クズルはくすっと笑った。

 奏は、作業を始めるクズルの姿を、じっと見て、それから手短の椅子に座る。それから、ぼーっとそれを眺めて、 「…熱中してますねぇ…」とぽつりと呟いた。

◆ ◇ ◆

 暫くして、奏の短い欠伸が聞こえてきた。どうやら彼女は眠いらしい。

「眠いなら家に戻れよ」
「やだ」
「…強情な…」

 溜息を付いて、クズルは椅子から立った。

「あれ、終わったの…?」
「まぁ、一応、という所かな…。私はもう寝るぞ」
「んー…、じゃぁ私はここで…」
「寝るなよ」
「むぅ…」

 家に帰るのが面倒だ、と奏は言う。それならば元より来なければ良いだろう、とクズルが言うと視線をそらす。

「…ここで寝られても困る…」
「じゃあ私にお布団ください」
「余分は無い」

 べしっと奏の頭を叩く。小さな呻きが聞こえたがお構い無しだ。

「じゃあ一緒に寝るー」
「…お前、自分で何を言っているか判ってるのか?」

 寝ぼけてるのか。それとも本気なのか。前者だろう、と思いたい。

「ちゃんと私起きてるよぅ…」
「寝てるな。寝ぼけてるな」
「むぅうー…」

 ガキじゃ有るまいし一緒に寝るなんてするわけもないだろ。そう言って、もう一度拳骨を落とす。

「本気だよぅ」
「一遍黙れがきんちょ」

 確かにクズルにとって奏は子供に見えるだろう。明らかに年齢が違うから。

「…襲うぞ」
「それは嫌だ」
「だったら自宅へ戻れ」

 玄関を指差すクズル。そういうよりも先、奏の意識は途切れていた。

「―――…結局はここで寝るわけか…。今何時…4時半、か…」

 人間がこの時間まで起きていれば眠気くらい襲ってきてもおかしくは無い。『浩司』は私欠で短期ながらも休校中だが、奏は明日…いや、もう今日というべき日、学校に行くはずなのに。

「…まったく…仕方ないな」

 その呟きは、笑みと共にこぼれた。

◆ ◇ ◆

 翌朝、クズルは盛大な溜息を吐き出していた。その溜息は、目の前の少女が原因である。声をかけても、ゆすっても起きないのだ。

「奏、朝だ。起きろと言っているのが聞こえないのか? …―――…寝てやがる…」

 深く溜息を吐いて、思案する。近所迷惑なことをして起こすのも嫌だし、後片付けが面倒になる起こし方も嫌だし。どうやって起こせというのか。

「…じゃあ、クズル様」
「うわっ」

 いきなり姿を現したヴィリトに驚く。呼んでは居ないはずだが…、と疑問になるのはもう少し先のこと。

「こういう場合は法則に則って…げふっ!?」
「言いそうなことが見当付いた。だから殴った」
「…ううう…だってラブコメのセオリーですよ」
「お前が何故そんなことを言う」
「ほら、だからセオリーですから」
「るっさい、黙っとれ」

 もう一発殴ると、ヴィリトは痛さの余りに悶え転がったのだった。

◆ ◇ ◆

「…んー…」
「…ようやく起きたか」

 結局、彼は何もしなかった。寝たいだけ寝かせてやった、というわけだ。

「…おはよ…」
「おそよう」
「今…何時ぃ…?」
「12時」

 ぱらりぱらりと本をめくりながら寝ぼけ眼の奏に言う。

「そう、12時ですか…ってぇええ?!」
「お決まりごとのように反応するのはお前のお得意か」

 はあ、と短い溜息を吐くと、クズルは奏をぱこっと本で軽く叩いた。すると奏は「何で起こしてくれなかったの!!!」と大音量でクズルに尋ねた。

「それもお決まり…そして私が言うこともそう決まり文句。何度も起こそうとしたが起きなかったから放置したまでだ」
「放置って有りですか!」
「有りです。大有りですとも」

 飛んできた奏の鉄拳を本で簡単にガードすると何事も無かったかのように本を机に置く。そして、ふと奏は机の上にあるものに気付く。

「…あれ、ご飯?」
「正午だ。昼飯の時間だろ」

 そして無言になって、奏がその料理を見る。奏が浩司と同じマンションに住んでいると判ってから、殆ど作りに来ていたから、彼が料理したものを食べたことなどなかったのだ。

「…意外に人並み以上の料理できるのね…」
「じゃなきゃ生きてけないだろう」

 食べるなら座れ。そう目だけで訴えると、奏はすとんと椅子に腰を下ろして合掌した。

「じゃ、いっただきまーす!」
「さっきまでの剣幕は何処に…」

 クズルは、箸を銜えたまま呆れたのだった。

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2005/12/01
(2010/05/08 加筆修正)
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