:: 10 神の決断 前編 ::

 クズルが目覚めて周りを見渡すと、見知った神の姿と、少女の姿が1人あった。確かにここは自分の部屋だ、とクズルの脳内で理解が出来て、体を起こすと同時に疑問を口にした。

「フォーラ…様はともかく…、どうして、みなさん居るんですか」
「いやそりゃ誰でも心配するだろ。て言うか様付けるなんて今更だなお前」

  気を失って倒れたクズルを、ややこしい事になる前に、と浩司の住まいに連れてきたのはフォーラである。

「まったく…また本気を出していなかったのか」
「あらあら…昔より強くなってると思うんだけど…」
「…若造があの時殺して置かぬからこうなったのだ」

 ぶっすりと膨れて気を失っているクズルに延々と文句を吐き続けるセーフェ。のんきににこにこ笑いながら、クズルの敗因を探るウィレール。昔のことの文句を言い続けるリアズ。無言で呆れるレーヴェル。
 それぞれの反応をする神々に、クズルは溜息を吐きだしながら「心配してるのか何なのか全く見当が付かん」とレーヴェルに言葉を零した。

「彼らはいつものことだ。気にすることではない。それが、彼らなりのクズルに対する愛情というヤツだろうが」
『誰が誰への愛情だ!!!』

 レーヴェルの言葉に即答したのはセーフェとリアズ。その言葉にもレーヴェルは笑っているだけだった。
 奏が不安そうな顔をして、レーヴェルをつつく。なんだとレーヴェルが返すと、奏は口ごもりながら、言葉を発した。

「…そういえば…、あの…人間に、姿がバレると神格剥奪どころじゃ済まない…んですよね?」
「あぁ…普通は、な。今回はもうどうしようも無い。テュエラスがあそこで直接仕掛けてくるとは思いもしなかったものだから」
「…そう、ですか…。あの…実は…」
「何だ、まだ何かあるのか?」
「…うちのクラス…喫茶店をやってたんですが、その時に丁度襲われて…。それで、学園内が大騒ぎになってしまったじゃないですか」
「うむ」
「…ある人に無理やり調べさせたんですが…、浩司がクズルであると…名前は知らないようですが、それを見た人間が沢山…。あの場所から離れようとしていたとき出来ていた人ごみがそれです」

 そういうと、レーヴェルの顔が焦りに変わる。それと同時に、クズルの顔が青ざめる。
 奏が「ある人」と言ったのはもしかしなくとも、真澄なのではないか、と思ったからだ。女性が苦手な彼に何をしたんだ、と口に出しそうになったが、それをやめて溜息だけ吐き出した。

「…しまったな、思い切り魔法も使っていたし…。今更言い訳のし様もない…」
「…それで…、うちのクラスの大半が浩司の元の姿が新聞や週刊誌に話題として載っていたあの人物だと…」
「判ってしまった、か…。クズルの名前は判っていないんだな?」
「みたいですけど…」
「…いや、バレてると思うぜ」

 水を差すようですまない、といい、フォーラは続けた。何故だと皆が視線を向けると、フォーラは腕を組んで、視線を落としながら答えた。

「外に居た俺らに、レーヴェルの声が聞こえてきた。そこまでレーヴェルは大きい声で喋っちゃねぇだろ?」
「あ、あぁ…」
「つまり、ノーベは最初から、テュエラスにクズルを封印させるために訪れたわけじゃなく、クズル…水未浩司が水神・クズルだとバラす為に来たんじゃねぇか、と」
「…な、なんだと…っ?!」

 反応したのはレーヴェルではなく、セーフェだった。その声に、フォーラを向いていた視線が、一斉にセーフェを向いた。

「どうしてそんなことをする必要があるんだ!」
「落ち着かぬか、セーフェ!」
「これが落ち着いていられるか!あいつは…ノーベは最初からそれが目的で私やフォーラ、リアズ殿まで操って…!さらにはクズルの正体を人間にバラしに来ただと!?」
「…あぁ、そう憶測すんのが妥当だからな。でなきゃ、レーヴェルの声が外にまで聞こえてこないだろ」

 落ち着いた声音で言うフォーラの言葉に、レーヴェルが放心状態のまま、よろけた。それを見て、セーフェが慌ててレーヴェルを支えようとするが、近くにいたフォーラが支えた。
 それから、フォーラは放心状態になっているレーヴェルに、子供をあやすような声音で声をかけた。

「ま、心配しなさんな。お前はまだ若いんだからよ」
「わ…たし、は…」
「お前の前の…あいつだって、そんなに上手く統治できたわけじゃねぇ。神だから完全に完璧だとか、そんなこと言っても実際完全完璧になんてなれやしねぇんだよ」
「若いがなんだ!年齢なんか関係などない!私が…私の力が及ばないから…!!!」

 今にも泣きそうな顔をして言うレーヴェルの頭を、フォーラはごん、とそれなりに力を入れて小突いた。
 その痛みに身悶えするレーヴェルに、先程とは正反対に冷めた声音で言葉を紡ぐ。それを見て、まるで飴と鞭だ、と奏が呆気にとられながら呟いた。

「能力に頼りすぎんな。今までのお前は何処に行ったんだよ、暴れん坊将軍」
「誰が暴れん坊だ!」

 仕返しにとレーヴェルがフォーラを殴る。殴られたところをさするフォーラの顔は、致そうと言うよりも嬉しそうな顔をしていた。
 それを見てマゾだ、とセーフェがぽつりと呟いた言葉に、聞き逃さなかった奏が勢いよく反応した。だが、彼女は何事もなかったかのような顔をしているものだから、突っ込むことが出来なかった。

「気にすることじゃねぇだろ。クズルのヤツも、それを覚悟してたらしいし。怖いと、嫌だとそういわれるのなら、それでいい。俺らは、あいつの…レヴェーラの造ったこの世界を護らなくちゃならないんだから。レヴェーラの言ったこと、覚えてっか?」
「…あ………」

 レヴェーラの、という言葉に、クズルの表情が険しくなる。奏は、それを見逃さなかった。

「『少しずつでも、解決していきなさい』―――そう、レヴェーラは言っていたわね」

 ウィレールが、目を伏せて思い出しながら言葉にする。レヴェーラは、命を絶つ前にそう言った。
 ―――テュエラスに殺されたそのときに。

「考えても見ろよ。クズルは、あのときの真実を知らないってのに、ずっとこうやって生き続けて来ただろ? 知らない方がいい事だってもちろんある。けど、クズルはレヴェーラの事になるといつも…必死で…。前にアイツ言ってたんだぜ。『あの時、何故レヴェーラは私を逃がしたのか』って。ずっと、ずっとそう言ってる。今、クズルはどうだよ?頑張って生きてるだろ?」

 あの時?と奏がクズルに問う。だが、彼は一言も答えなかった。フォーラは、あの時の真実を知らない、と本人がいる前で言っている。恐らく彼らはその真実を知っているはずだ。それを、クズルに言おうとしていない。
 そして、その本人は、言わないことを決して責めない。逆を言えば、知ろうとしていないだけなのかもしれない。

「…そう…だ、な…。クズルは…、レヴェーラのこと、まだ吹っ切れて無いはずなのに…」

 視線を向けられて、クズルは苦く笑うことしかできなかった。吹っ切れていない、と断言されてしまっては、返しようもなかったのだ。吹っ切れていないと答えるわけにもいかないし、吹っ切れていると答えるわけにもいかなかった。

 奏は、レーヴェルが言葉にしたとき、セーフェの顔が本当に一瞬ばかし歪んだのを、見逃さなかった。
 だが、クズルの顔が今にも泣きそうになっていたのは、誰も気付かなかった。

◆ ◇ ◆

 朝、目が覚めて、昨日は騒々しかったな、と思いを馳せながら視線を巡らせてみると普段なら居るはずのない姿が幾つもあって、クズルは呆気にとられた。
 4人の神々が床で様々な格好をして寝ている。ベッドの横では奏が規則的な寝息を吐き出して寝ていた。どうしてこうなったのか理解が出来ずに、とりあえず全員を起こすことにした。

 クズルは、起こした神々と少女を正座させ、その前に仁王立ちする。
 どうしているのか問うと、レーヴェルが視線を落として、今後のことを、と呟いた。その言葉に、クズルは短く溜息を吐きだしながら、視線を落とした。

「今後テュエラスがどう絡んでくるか、だな。ノーベが主催側…いや、あいつは完全な主催なのかもしれんが…。テュエラスすらも手玉にしてる可能性があってどういいようもないんだが」
「あいつが出てきたとなると、クズルが本気で戦わなきゃならないでしょうが…」

 ぼそりとセーフェの言ったことを、クズルは聞き取っていたらしく、にやりと邪悪な笑みを見せた。だが、それも一瞬で、直ぐに話を戻す。

「ウィレールも力が制限されているし…」
「コレはもう直せないですもの…」

 ウィレールは、自分の腕に刻まれている文字の羅列をふっと見ながら、呟いた。それを見て、レーヴェルの顔が歪む。

「セーフェは神格剥奪のままだし」
「う、うるさいっ!!!」
「…レーヴェル、こいつの神格戻せ」

 ぐりぐりと無表情にセーフェの頭を押さえるクズル。無表情でやっているのが逆に怖い。

「そのためにお前の部屋の扉打ち壊しに行ったんだが…」
「俺…じゃなくて私の部屋のあの扉壊したのか…」
「壊した。戻せといえば直ぐに戻すことは可能だ」
「なら問題は無いな」

 ぱっと手を離すと、セーフェが涙目になりながらクズルを睨みつけるが、それを思い切り無視して話を進める。

「…そういえば、人間のときの記憶は」
「…あの時…、レヴェーラに聞いたもの以外は、思い出せない」

 生きていたとき、暗殺の仕事に関わっていたということ。その仕事のときに、レヴェーラの前世と出会ったこと。
 クズルには、それしか判らないでいた。その暗殺の仕事をしていた施設も何も、思い出せないままだった。

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2005/11/10,11
(2010/05/08 加筆修正)
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