:: 09 old memories 後編 ::


「…昔より強くなってるみたいだねぇ…」
「当たり前だ。たった5000年でも、かなり変わる」

 両者、口元だけが笑っていた。

「もう少しは頭を働かせたらどうだ」
「ん、何のことだい?」

 スッ…と、テュエラスは弧を描いていないその鎌を構える。

「奏を狙うとか、レーヴェルを殺そうとするとか。お前は相変わらずバカだな」
「君も十分に馬鹿なんじゃないか?」
「…そうだな…」

 馬鹿だ。確かに馬鹿だ、とクズルは自嘲した。『大切な何か』を作るなと、数多くの存在に忠告されてきたのだ。後で、それに後悔するのは自分だと判っているのに、それを作ってしまった。

「―――判ってるさ。判ってる…けど、それが無理だから私はバカなんだ」

 今度ばかりは、同じことを繰り返さないようにしていた。『大切な何か』を作らずに、守ろうとしていた。だが、『大切な何か』があるからといって、彼に諦めるつもりなど、毛頭ない。

◆ ◇ ◆

「…ファージネス・パール!」

 すっと現れた球体が、一瞬のうちにはじけ飛ぶ。その光が、悪魔を襲う。

「…これで…72匹…」

 セーフェは数え、後ろを振り向く。そこにはまだ多くの悪魔の姿があって、彼女は一瞬うなだれた。後ろに現れた悪魔を一瞥して、短く溜息を吐く。

「雑魚が」

 そういった途端、彼女は唱える。そして、唱え始めた途端、赤い風が舞った。

「…参式乱舞」

 ぽつり、と呟いて刀を振るう。黒き血が舞って、ふっとセーフェが溜息をつく。その存在が誰なのか、直ぐに判ったからだ。

「…いきなり来るんじゃないよ…フォーラ」
「あっちが片付いたんだよ」

 懐かしい名を紡いで彼女は笑った。それにつられて笑いながら、フォーラは刀を鞘に戻す。

「あの新人に操られてたとはな、気付きもしなかった」
「だからお前は猪突猛進バカ呼ばわりされるんだろう?」
「ひっでぇなー。コレでもオレはクズルより頭いいんだぜ?」
「冷静な部分が増えれば、クズルより頭はいいだろうね。冷静さではクズルの方が上だからな」

 そう、クズルと比較されて、フォーラはぶーっと膨れる。クズルよりも頭が良い、と彼が口にしていても、こういった小さなところで冷静ではないために、頭が悪いと思われてしまう。

「…なんだよ…クズルばっかり」
「…能力的には現最高神よりも上を行くのだからしかたないだろう?」

 そう言いながら、セーフェは笑みをこぼした。そして、その表情をきりっと変えると、魔法陣を描く準備をした。

「…どうやら、また来たみたいだよ」
「おっしゃ、喧嘩上等!」
「…だからクズルと比べられるんだ…自分で気づけ…」

 溜息を吐き出して、それからセーフェは術を唱えた。

◆ ◇ ◆

「…怪我は、ないかしら?」
「菖蒲先生…!」

 突然現れた保健医に、奏も驚く。何故彼女がここにいるのだ、と誰もが不思議に思った。保健医、春南 菖蒲。彼女はこの場に関係あるかと聞かれると、ない、のだ。

「なんだ…こんな所に居たのか、ウィレール」
「ごめんなさいね、レーヴェル。魔法一切使えないんだもの」

 保健医のレーヴェルとのやり取りに、奏すらも動きを止めた。

「あぁ、言い忘れてたわね、ウィレール・レヴェー。風神よ」

 にこ、と笑って自己紹介をする。風神よ、とあまりにもさらりと口にしてしまうものだから、それを理解するのに3秒くらいかかって。奏もわずかながら、思考回路が停止した。

「あ、菖蒲先生が神様の1人!?」
「あら、クズルから聞いてなかったの?」

 言われてこくこくと首を縦に振る。一度も聞いたことなどない。

「まったく…重要なことを黙るのはお得意なんだから、あの子」
「あの子…って…」
「クズルのことよ。私よりも年下でねー。クズルの前の水神・カヴェノの弟子だし、良く知ってるのよー。一応、力が強いから形式上敬うけど。…じゃなくて、怪我人は直ぐこちらに来てください。応急手当をしますー」

 そういうなりぱたぱたと別の場所へ消えてゆく。そんな彼女を見て、少女たちは空いた口が塞がらなかった。

「…また訳わかんなくなってきた…」
「風神・ウィレールは、クズルの前の水神・カヴェノの親友でな。カヴェノもカヴェノでクズルを可愛がりまくってたんだが、ウィレールも同様に本当の息子のように可愛がってたんだ」
「…お母さん的存在…ってこと、なんですか?」
「そうなるな。そして、奏。彼女はお前の先祖、ラーダスの次に風神になったヤツだよ」

 属性的には奏の母親になる、とレーヴェルが言葉にしないながら理解をし、そうか、と頷いた。

 そんな奏をよそに、レーヴェルは何かに気付いてはっとし、後方を見た。

「来る…!」
「え…?」
「奏、魔力残量は?!」
「え、ぇえと…あと3分の2くらい…です」
「それなら十分だな!」

 そういうなり、レーヴェルはばっと構えた。そして、それと同時、後方から悪魔が現れた。

◆ ◇ ◆

 上空で戦いながら、ふと、悪魔の気配に気付きレーヴェルの方を見る。そんなクズルを見て、その悪魔について、テュエラスがご丁寧に説明をしてくれた。

「一応、ノーベが手配してるみたいだよ、悪魔たち」
「な、に…?!」
「ノーベがさー、奏とかいうラーダスの子孫と、レーヴェルが気に食わないってずっと言っててね。そんで、今度こそ殺してやりたいっていってたんだよ」
「…っ…!!!!」
「僕に怒りを向けたって、どうにもなら無いんだけどね。操ってるの、ノーベだから」

 彼はとても涼やかに、微笑んだ。
 クズルは奏や生徒に対して危機を感じ、地に降り立とうとする。だが、それをテュエラスが許すわけもない。

「…っ、かな… …くっ!!!」
「ほら、余所見は禁物だよ?」

 この男は、何処まで本気で何処まで嘘なのか。それが判らない。

(…スペリングの時間は…足りないか…? いや、時間はある。剣戟を加えながら気付かれぬように…唱えるしかできないか…)

 それでも、それを完全にできるのなら、これで全てが終わる。本当なら、テュエラスという、その存在を殺してしまいたい、とクズルは思っていた。

 どうしてなのか、封じるというよりも殺すという思いばかりが先走るのだ。それは、クズルが『水未 浩司』として生を受けていた時代にまで遡る。彼は物心ついたときから暗殺者として育てられたのだ。だから、殺すという思いが先走るのかもしれない、と考えていた。

(…だが…これを殺すとなると…、私の存在も、消える…か)

 始まりの混沌と終わりの混沌は本質が同一の存在であるため、どちらかが命を失えば、死ぬ。今まで起こってきた破滅で、全てそうなっていたのだ。
 繋がっている者の片方が怪我をしたら、繋がっているもう片方もその怪我をする、というのは良く聞くことだ。
 だが、彼らではそれは違う。彼らにかけられた制約は、『相手が死す時己も死す』という道連れ制約なのだ。

 ぽう、とテュエラスが光を浮かべる。

「Hail is the whitest in grain. It is disturbed from the sky by the guest of the dance, getting off, and the wind around. After that, it transmogrifies it for water.」

 先手は、そちらか。
 クズルが舌打ちして距離を置くと、地面が割れる。そして、クズルが避けた途端それが水へと、まるで幻覚であったかのように変わった。直後クズルが唱える。

「Ice is extremely cold and is very slippery. It is the glass, is exactly transparent like the jewel, and glitters. It is beautiful to see because it frosts ..it... the formed floor.」

 停止を意味するその術。途端氷柱が立ち並び、今度はテュエラスが舌打ちをした。氷柱が立ったと同時、またクズルは詠唱を初めた。

「The earth is ominous, and when corpse and dead' remains become cold without anti-food, and the people who have the life choose the earth as the companion, : to all the people.」
「―――!!!」

 テュエラスがそれに気付き、周りの炎を使ってしてもなかなか溶けない氷を必死で壊そうとする。

「Fruits are lost, pleasure vanishes,and the promise that the person did is brok.....」

 クズルの詠唱の途中だった。丁度、そのとき、闇の球体が、クズルの予想外の所、者から放たれたのである。

「詠唱を…切らせませんわ」
「…ッ…ノーベ!!!」

 クズルも、彼女がこの場に現れるとは考えていなかったのだろう。普通だったらその攻撃など無効化していたはずなのに、今回に限って直撃したのだ。そして、集中が途切れたことでテュエラスの周りの氷柱は砕けていた。

「broken. それで終わることは判っていますから」
「…ちっ…」

 こうなれば、ノーベを殺してでもと、ふと、脳裏に過ぎった。だが、彼女は、撤退宣言をしたのだ。
 黒い風がノーベと、そしてテュエラスや悪魔の軍制を巻き込み、消えていった。ノーベは、微笑を湛えながら消えた。

 その空間をじっと眺めながら、ぐっと手を握って、クズルは空を仰ぐ。

「…また…、また、逃がしてしまうなんて。…今度こそ…封印できそうだったのに、な…」

 これから、先、彼と対峙する事は少なからずある。だが、今回と同じ状況になれるかと聞かれると、答えは、ノーだ。同じことなんて、起こりやしない。詠唱をする前に、殺されることもある。
 殺す、ということはテュエラスの存在も消える、ということだ。彼が…それを判っているのであれば、クズルを―――封印するのだろう。

「…厄介だよ…本当に…」

 脱力し、予定外の力を受けてしまったクズルはそのまま、意識を手放した。

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2005/10/15, 2005/11/08
(2010/04/06 加筆修正)
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