:: 07 恐怖と驚愕の間 中編 ::

 シンプルでカジュアルな服。透き通るような水色の髪。それらを持つ青年は鏡の前で首をかしげた。普段この姿でこんな格好をすることなんて無い。だからこそ、違和感を感じる。

「…どうするか…これ」

 これ、と呟いてその髪飾りに触れる。その髪飾りは魔法を制御する代物。持ってないといざというとき制御が利かなくなる。だからといっていつもと同じようにつけているわけにもいかない。うーむ、と思案した後、彼はその髪飾りを解き、自身の腕に巻きつける。
 持ってればそれだけで効力がある、ということに感謝をして、最後にもう一度鏡で確認して、家を出た。

◆ ◇ ◆

 教室で今日の為の手伝いをしつつ、奏は溜息を漏らす。朝から皆張り切ってるなぁと感嘆しているその姿は、まるで年老いた女。
 奏は朝から女子に「浩司くんは?」と聞かれてばかりで、それによって疲労が溜まっている。『浩司』は今日は学校に姿を見せることは無い。だから、何度聞かれても「休みだよ」と答えるしか出来ない。
 本当に来るのかな、とぽつんと呟いてまた仕事に戻る。

 それから暫くして、一般入場が始まる。奏はクラスの皆に適当に理由をつけて校門へと急いでいた。確か、彼は東の校門で待っていると言っていた。
 この学校に校門は3つ。私立でありながら公立並みの授業料であるここは敷地が異常なほどに広い。
 東校門に着いて、奏は辺りを見回す。それらしき人物は発見できない。何処にいるんだ、とぶつぶつ文句を言いながらまた辺りを見回す。そしてやっぱり姿が無くて、溜息をつく。
 そこで自分が溜息を吐きだしていることにはっとして焦る。溜息をつく理由となると、居ないことに対してだろう。ふと、女子の人だかりが出来ているのを発見し、奏は何事だろうと見に行った。

「いや…だからあのですね、人を待ってるんですけど」
「でもさっきから誰も来ないじゃないー」
「ね、だから私たちと一緒に回らない?」
「だから遠慮しますって」

 青年ははぁ、と溜息をついて視線を泳がせる。すると途端彼は走り出すついでに逃げた。「あ、逃げた!」という声がそんな声もお構いなく、目当てを見つけるなりそれごと掻っ攫うように消えていった。

「…っ、は…」
「…お、お疲れ様」

 掻っ攫われた張本人―――奏は疲れ果てている顔のクズルに声をかけた。

「でもいきなり掻っ攫うのはやめて…。かなりビックリしたんだけど」
「すまん…一刻も早く逃げたかったんだ」

 この学校に女子が多いのもまた彼の悩みだ。浩司の時はこうでもなかったのだが、一般入場がある文化祭では学外の入場者が多い。それのせいでもあるのだろう。

「神様がそんなで大丈夫なの?」
「神だって苦手なものはあるんだ。で、どうした、回るんじゃないのか?」
「あ、そだね。でも、仕事の方は?」
「回ってるときに気配を探っておくから気にするな。思う存分にはしゃげ」
「…なんかけなされてるような…。ま、いっか」

 奏がにっこりと笑って、クズルが怖気を感じた途端、2人は人ごみの中へ姿を消した。

「…―――…。クズル・レイェン…」

 シルクハットに和服。そして鎌を手に持つ少女は学校の屋上から呟いた名の姿を眺め、呟いた。

◆ ◇ ◆

「ちょ、ちょ、ちょ…っか、奏っ!!!!」

 半連行されているクズルは、とにかく一度止まりたくて奏を呼び止める。

「ん、何?」
「―――…今、殺気が」
「やっぱ狙われてる…、の?」
「多分な…」

 微かに地の力を感じた。それが本当に『あのリアズ』かどうかはわからない、とクズルの中で答えが出てきていた。

「もとより人間を殲滅しようと考えてるならこのあたり一帯をぶち壊すだろうし…。だが、この惑星を作ったのは私たちだ…土地を荒廃させようとは考えないはず。やはり結界魔法がどこかにあると考えるのが妥当だな…」
「あの、そっちも大切なんですけどね。文化祭なんですけど」
「あ、あぁ…そうだったな…」

 じゃあどうしようか、と考えるクズル。そのクズルを見て、奏がふと気付いたことを口にした。

「あれ、髪飾りは?」
「解いた。ないと随分変わるだろ?」

 くすっとクズルが笑う。確かに言われて見れば水神・クズルのイメージは思いっきり吹っ飛んでいて、そこいらに居そうな感じだ。

「確かにそうね…」
「けど、アレが私の魔力制御具でな。持っていないとオーバーロードしたときに対処のしようが無くなる」
「オーバーロードって?」
「いわゆる魔力暴走。私なんかは特に暴走しやすい類でな、制御具がないと広範囲魔法を使えないんだ」
「神様なのに頼りないなぁ…」
「それは神が『完全な存在』ではないことを示してる。誰でも完全になることなど出来ないからな」

 完全なんて誰も居ない。誰にだって弱点がある。神と言う絶対的な存在と言われる者にも、弱点はあるのだ。

「…お前は遊びたいんだろ、文化祭」
「むっ。私は遊びたいというよりも… っ、なんでもないわよ!!!」

 何を考えたのだか判らず、いきなり怒る奏にクズルはどう対応してよいものなのか判らなくなった。彼らの近くを通る人々はそれを見て、「喧嘩してるわ」などと呟きながら去っていく人もいた。
 奏はむっとしてまたクズルの手を引っ張り、その行動にクズルはまったく、と笑いを零した。

◆ ◇ ◆

「落ち着け、偽物だから」
「にっ、偽物だとしてもダメぇええええええええ!!!!!!」

 クズルは、その光景を見ながら何故だろうと疑問に思った。お化け屋敷に行きたがっていたのは彼女のはずだ。逆に絞め殺されそうな気がする。

「ちょっ…ま、私が死ぬ!!!!」

 だから首を絞めるな!そう叫ぶと奏がだって、と口にする。だっても何もない。入りたいと言ったのは彼女である。

「入りたい宣言したのはお前だろ!」
「けどこんな怖いなんて思ってなかったのー!!!」
「だからって私にくっつくか…?」

 疑問を口に出すと、「怖いから」と即答される。それに対して、クズルは少しからかってやろう、という気分になり「何されても知らんぞ」とにやりと言う効果音が合う笑みをこぼした。
 その言葉に奏は何を想像したのか顔を真っ赤にして「な゛っ」と飛び退く。それが面白くて、もう少しからかおうかと思ったが、からかいすぎるのも悪い、と思って「冗談だ」とそこで終わらせておくことにした。
 くすっと笑いながら言うと、奏が更にかっと赤くなってクズルにグーパンチを繰り出す。そんなことを繰り返しながら、お化け屋敷の出口にたどり着き、眩しい光の下に出た。出た直後、ふらふら千鳥足で近場の椅子に座る奏。それをみて、クズルは呆れてしまった。自業自得だ。

「…まぁ、待ってろ。なんか買ってくるから」
「え、あ…」

 有無を言わせぬ素早さに奏は呆然とその場に残る形となった。奏は、さっきのことを頭の中でスロー再生してみた。怖さの余りに抱きついた。首を絞めた、というのも事実だ。
 それを思い出して顔が赤くなる。クズルが普段と違うのが悪いのだ、と彼のせいにしてみたりどうして抱きついたのか考えてみたりして、何がなんだかわからなくなってきて、地団駄を踏んでいると呆れた声がする。

「1人で何してるんだよ…」
「く、クズル…!!!」
「…ほら!」

 ぴとり、と冷たいものが頬に当たってまた悲鳴を上げる。

「…って、な、何だぁ…紅茶か…」
「…なんでそんなに驚いてるんだよ。あ、まさかまた熱ぶり返したとか言うなよ?っていってる傍から顔赤いぞ。やっぱり熱がまだあるんじゃ…」
「な、なんでもないわよ…!!!」

 ぷい、と奏は顔を逸らす。何があったのか全く検討も着かず、疑問符を浮かべるクズルを横目で睨んでいることにも彼は気付かない。
 クズルはどうすればいいのかと思案していると、クズルの目つきが途端鋭くなった。

「…どしたの、クズル?」
「…魔力が…集まってる」
「え…?」
「…何か起きる」

 そういうなり走り出すクズルに奏も負けじと走り出した。

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2005/10/06,07
(2010/03/21 加筆修正)
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