:: 06 つかの間の邂逅 後編 ::

「……いよいよ明日かー」
「そういいながら勝手に人の家に侵入を試みて侵入するな」
「ぶー」
「ま、飯を作りに来たなら別だが」
「じゃ作るー」
「…結局は1人で居るのが嫌なだけだろお前…」

 勝手に人の家に上がりこんでるなんてどうかしてる。そう思いながら、奏の姿を視線だけで追った。
 昼食は彼女が作り、それを一緒に食べながら文化祭の話をすることにした。

「…で、明日のスケジュールがね」
「あぁ、何、明日のスケジュール?」
「うん。まぁ、文化祭が3日間あるわけだけど、そのうちの2日間、どっちも午前が仕事なのよ」
「私もか?」
「ううん、初日だけ同じー。最終日は私が午前で浩司が午後」

 にこぱと笑う奏に、浩司は溜息をつく。数週間前の時はこんな風に笑うことも無かった。それを、浩司が変えてしまった、ということなのだろうか。

「―――浩司?」
「あぁ、いや…なんでもない。初日と最終日か…真ん中が空くな…」
「てーか基本的に登校するも拒否るも勝手なんだって言うけど…。だから2日目だけ休んでも良いみたいだけど…どうする?」
「私か…。そうだな…」

 ちょっと変装してクズルでうろついてみようか。そうすれば周りの人間には判らないだろうし、普通に人間界を楽しむのも悪くない気がしていた。

「…香野は」
「だから奏!」
「…香野はどうするつもりだ?」
「もー、だから奏でいいっていってるのに…! 私は見て回ろうかなーと」
「本当に遊ぶのが好きだなお前は…」
「え、遊んじゃ悪い?」
「…いや、今も戦場の真っ只中だと判っているのか、と思ってな」
「遊べるときに遊んでおかないといざって時遊べなくなるし」
「…そうか…それも一理在るな」

 休息できるうちに休んでおくのと同じ。遊ぶということでストレスを発散できる場合もある。

「…うん、行くかな」
「え」
「…浩司ではなく、クズルで」
「えぇえ!?」
「…そんなに驚くようなことか?」
「だ、だって新聞にも載ってるのに!?」
「そのままの格好で行くとでも思ったのか?」
「…あ。」
「図星、だな」

 くすっと笑う浩司に、奏では顔を赤くして言葉ではなく力で反撃した。それを受けながら、笑いながら、浩司は浩司としては行かない、と告げた。

「…むー」
「な、何だ…?」
「…そうなると困る」
「何で…」
「だって!」
「だって?」

 問われて言おうとして止まり、悶え始めた。一体どうしたと問いかけるのは自然に出てしまった。

「な、ど、どうしたんだよ…?」
「いえるかバカぁああああああああああ!!!!」
「な、なぁあ?!」
「とにかく!もしもクズルで来たならってかクズルでも浩司でも2日目来たら文化祭回るの付き合ってもらうからね!」
「何でそうなるんだよ…!」
「あと奏って呼べ―――――――――――――!!!!」
「命令すな―――――――――――――!!!!」

◆ ◇ ◆

「…結局は仕事すんのか」

 窓際黄昏モードの浩司を、奏は遠くから呆れ混じりに見ていた。あれは本当に神様なんだろうか。神様だなんて思いたくもないし、神の威厳もあったもんじゃない。

「いらっしゃいませー」

 次々と来る客にあわただしく動き回るウェイター&ウェイトレス。奏と浩司もばたばたと仕事中だった。

「ご注文はお決まりでしょうか」

 浩司はありえないほどに営業スマイルで、逆に怖いと浩司を知る皆が引き下がる。 そう、爽やか過ぎて満面の笑みすぎて怖いのだ。彼は普段人前で笑わないから。

 慌ただしく午前が過ぎ、午前の仕事が終わる。ぐったりとする2人に、麻奈はお疲れ様と食券を渡してくれた。

「お2人でいってらっしゃい!」

  ぐっじょぶ!と親指を立てている麻奈に、浩司は何故2人で行けと、といつもなら突っ込むのに疲れが出て突っ込むことも無かった。ちょいちょい、と麻奈が呼ぶので奏は行くと、こそりと言われる。

(この際、あんたが水未くんゲットしてらっしゃい!)
(はぁああ?!)
(だって好きなんでしょー?)
(う、うぅ…そうだけどさー…けどさ…)
(何、なんかあったの?)
(…いや、なんでもないよ…。心遣いありがと)
(気にすな!)

 爽やかに送り出す麻奈ににこやかに返す奏。唯一、浩司だけが屍のようだった。

◆ ◇ ◆

「……ほらー元気出して」
「無理…むぐっ?!」

 ぐったりする浩司の口にたこ焼き(出来立て)を放り込む。

「…殺す気か」
「や…元気ないからなーと思いつつ…喉に詰まらせるとは思いもしませんでした」
「…けほっ…私だって体内構造は基本的に人間と同じだ。で、何だ。私に元気がないだと?」
「うん、見てるとね。いつもと違うし」
「いつもと違う、か。そうかもしれん。先ほどから感じるあの殺気…只者ではあるまいからな」
「さっ…むむぐぅ!?」
「大声で言うな。ついでに仕返しだ」

 浩司は逆にたこ焼きを奏の口に押し込む。にやり、と笑った浩司に、奏は涙目で謝った。

「…ごめ…私も死にそうだったよ…」
「判ればいい。…こういった祭り事は相手にとって好機。紛れ込めばもし魔力をもつ人間であっても気付くことはほぼない。たまたま私がいるから判るようなものだ」
「…すごいね…神様って」
「…相手が、神だからだ。しかも私の良く知…いや、なんでもない―――だから直ぐにわかる」

 彼は良く隠し事をする。それは奏が人間だからかもしれない。
 それから、浩司はふと思い立ったように言う。

「神の力は属性だけじゃない…それ以外にもある」
「え…!?」
「私には水龍という力があるが…神になるだけの力を持っている以上、並みの魔法使いでは刃が立たん。ゆえに神となる。今回は私ですら危ういんだ。狙われたのがこの学校、ということはあちらにノーベが付いたか…。そうでなければ私が水未浩司であるという情報は渡らぬはずだからな」
「え、でも私と戦っ…―――そうか…!!!」
「そうだ…。『あの私』はヴィリトに演じさせたもの。私自身は浩司の姿をとっているとヴィリトを召喚するくらいしか魔法を使えない。だからこそどうすればよいか判らない。体術だけで勝てるようなヤツでもない…あいつは…」
「…そうか…解いたらクズルだってわかっちゃうから…」
「神は必要最低限人間に加担してはならない…。それを守らなければ神の能力はおろか、命を絶つことになる。…そして、もう、二度と生き返ることはないからな…」
「―――!!!!」
「…だから、私は人の姿をとらなくてはならない…何があっても…」
「…でも…」
「いざというときには仕方がない。私が、この世界を守護する者なのだから…」

 仕方がない。その言葉を彼自身が発すことは極めて少ない。彼が嫌いな言葉だ、と言っていたからだ。その言葉を発すということは、覚悟をしているということか。

「守護…。じゃあ、この星が水の惑星なのは…」
「私の力だ。いや…水神の力、ともいえる。現在の均衡を保っているのは私だが、この星の誕生は…私以外の先代の神々が作り上げた世界…。水の管理さえ出来れば、生きることは可能だからな。とはいえ…、これでも異端者。いつ殺されてもおかしくはないがな」

 苦く笑う浩司に、奏は不安そうな顔をする。それを見て、浩司がくっと笑った。

「…何しょぼくれた顔をしてる。私が今すぐに死ぬわけではないぞ? 何だそれとも心配なのか、私のことが」
「なっ、だっ、誰が…!!!」
「言葉で反論してもわかる。まぁ、心配してくれているということは素直に受け取っておくよ」
「………………バカ…」

 そうやって無理に笑って。いつも浩司は、クズルはそうやって無理をして生きてきたのだろうか? 相対する力を持っていながら神となりこの世界を守護しているなんて。

「本物のバカよ…」
「バカバカ言うな。こんなでも私は1万など裕に越えてる大人だぞ?」
「それは大人じゃなくて年寄りって言うの!…ったくあんたは…―――…っ…?!」
「…香野…?どうかしたか?」
「だーもうだから奏でいいっつの!!! なんでもないわよ!なんでもな」

 い、といい終わるより先に、奏の体が揺らぐ。彼女が椅子から倒れ落ちそうになるところを浩司は慌てて支え、腕の中の少女の額に手を伸ばす。
 何があったのかなんて知らないが、ここ最近彼女も無理をしていたような気がする。

「…っ熱い…。熱が…」
「…いじょうぶ…って…」
「何処が大丈夫だ!ったくこんなときに…!」
「え…あ、ちょ…っ…!?」
「寝ていろお前は!」

 浩司は奏を抱き上げるとそう叫んだ。

「ちょ…恥ずかし…から…!!!!」
「お前が熱を出すのが悪い!」
「…じは…」
「俺は恥ずかしくも何もない」
「っ…いっ…る傍か…!!!」

 まともに言葉も出ていない。じたばたもがく奏を押さえつけながら保健室に直行した。

◆ ◇ ◆


「…疲労困憊による熱ね」
「…そうですか」

 すっかり眠ってしまった奏を横目に、浩司は保健の春南先生と会話を始めた

「…でも、気付いてくれてよかったわ。彼女…誰もそばに居なかったらこのまま…」
「…大丈夫ですよ、俺が居ますから」
「…あら、頼れる発言ね」
「…ご存知なんでしょう、春南先生?」

 にこり、と浩司が笑って言う。その笑みに、春南は参った、というように顔に笑みを浮かべながら溜息を吐きだした。

「…いつから、こちらのことに気付いてました?」
「来た当初はそこまで疑っては居ませんでしたが。…って、敬語使う必要があるのか私は」

 むすっとして浩司が言うのに対し、春南は苦笑する。

「…必要はないですね水未浩司…いえ、クズル」
「…まさかここに居るとは思いもしなかったぞ、ウィレール」

 水神クズル・レイェン。風神ウィレール・レヴェー。学校と言うこの場所で、2人の神が再会した。姿こそ違えど、神であるというのは同族同士、直ぐに判ってしまうものだ。

「……どうするつもりだ?」
「何をでしょうか」
「…香野…いや…奏のこと」

 その言葉に、春南…いや、ウィレールはにこりと笑った。それと同時に、両者の姿が本来の姿になる。当たり前のようにそこにはクズルの姿があり、深い緑の長髪をなびかせて、ウィレールの姿もある。

「…となると…お前も気付いているのか…?」
「…あの力ですか…。確かに私が居ることには気付いていないご様子でしたのでクズルに向けられたものであると思いますが」
「やはりそうか…。浩司の姿である以上は闘うことも出来ぬし。ウィレールは…」
「わたしくしも出来れば参戦したい所なのですが…実は…」

 次の瞬間、クズルは目を丸くする。ウィレールの腕に浮かび上がったのは、神にとっては見慣れた文字の羅列。それは封印の際の羅列を意味する。

「これは…封印術…?!」
「…天上界から逃げる際に、追っ手にしてやられました。ですから、私はウィレールという姿を消すことが精一杯で…。戦うなど…今の私には…」
「…それなら…構わない…。私がどうにかする」
「…すみません…何もお力になれなくて」
「いや…、いいんだ…。1人で戦うのは、慣れているから」

 いつの時も、1人だった。だから、クズルは孤独は慣れている。まして、戦うことなど当たり前のようにしてきたこと。慣れすぎて恐ろしいくらいだ。

「…ところで、あの…触れてはいけないのかも知れませんが…」
「レヴェーラのことだったら答えんぞ。出来れば…思い出したくない」
「…すみませんでした…」
「…いや、謝るのはこちらだ。あの時巻き込んでしまったのに今も巻き込んで…。と、それよりも…奏は…?」

 彼は気付いているのか。自分でレヴェーラのことを吹っ切れていないと思っているようだが実際はもう自ら断っている。

「…大丈夫ですよ。薬は利いているようですし…」
「…そうか…」
「…なんか妙にほっとしてますね?」
「ん、なっ…!?」
「…いえ、貴方があまりにも昔のように落ち着かない様子でしたので」
「…―――失態だ…」

 そういって落ち込むと、浩司の姿になる。いくらウィレールがいるとて、ここは学校の保健室だ。人間もいる。

「…何か仕掛けてくる可能性もあるが…。この文化祭期間…私は浩司でなければならんし…」

 なにより奏。彼女を巻き込んでしまったのことに罪悪感を感じていた。

「……奏は…記憶を消してしまった方が…いいのかもしれんな」
「…私たちのことを…すべて…」
「…出来れば…そうしておいたほうがいいんだろう…。だが、この状態の私は戦うことも出来ん…」
「戦力的には惜しい、ということですか」
「あぁ…」

 彼女は、今後を左右することになる戦力かもしれない。
 記憶を消して、彼女が神の子孫であることを忘れさせてしまえば、この争いに巻き込むことなんてない。そうしたいと思う反面、彼女の力がとても惜しかった。

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2005/10/03
(2010/02/25 加筆修正)
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