:: 06 つかの間の邂逅 前編 ::

「…でさ、何で最近…。あのクズルとかいうのと、わけわかんねぇ魔法使いっぽいのが出てこないわけ」

 そう問う眞澄に、浩司は「知るか」と即答したのは言うまでも無かった。溜息を吐きだしながら答える浩司に、真澄は唇を尖らせ「なんだよー」と言いながら購買に行くと告げ、教室を出て行った。
 浩司はその姿を見送ると、拵えていた弁当を持って、次の授業をサボる体制に入ることにした。屋上への逃亡である。

 屋上に逃亡して、昼食を口にする。食べ終わってから、空を見上げながら呆けてそのまま後ろに倒れ込んだ。
 それからうっすらと意識が闇に飲み込まれていった。

◆ ◇ ◆

「……浩司ー?」

 意識が覚醒してきて、声が聞こえた気がした。ぼーっとした意識のままで、その声の主を見る。

「…あぁ…なんだ、香野か」
「もーだから、奏でいいって!今日から文化祭の準備期間だって知ってた?」
「知らん」
「即答ですか。それでね、朝からずーっとロングホームルーム。出し物決まったんだけど」
「何をする気だあのクラスは…」
「喫茶店だって」

 ぼそっと言われた言葉にあ、そう、と軽く返していたが、次の瞬間飛び起きて答える。

「はぁ!?安直すぎないか!?」
「…安直っていったって…。人間の考えることよ? あなたは神様だから考えがちょっと違うだろうけど…」
「そうか、そうだな…人間の考えることだったな…!!!!」
「何怒ってるのよ…あんたは…」

 ガッツポーズならぬものをしつつも怒りに満ちている。多分過去に何かあったのだろうと思い、奏は触れないことにした。

「で、それがねー…」
「あぁ?」
「怖いからそういう受け答えしないで…クズルのイメージがかなりの勢いで崩れてくから…!!!」
「あぁ…すまん…。つい、最高神との受け答えに…」
「…それほど嫌いなの…?」
「アレが異端過ぎるんだアレが」
「アレアレ言ったら可哀想よ…」

 はぁ、と溜息をついて奏は言う。

「で、ウェイターとウェイトレスが厳選なる審査の結果、選ばれちゃったりしてますです」
「…所詮人間のやることか」
「わぁあ、だからそこで怒らない!天上界で何があったんだか知らないけど!うわ、属性風渦巻いてる!」

 慌ててその属性風を打ち消すと、再度浩司が落ち着く。

「…で、そのウェイターとウェイトレスに」
「選ばれたとか言うな」
「…ごもっともです」

 突如やっぱりゴッと風が舞う。

「あんた水じゃないのー?!!!」
「無だと私は言った筈だ!!!!」
「というか落ち着け本気で!」

 それから殴って浩司を気絶させてクラスに連れて行くことになったのである。

◆ ◇ ◆

 自嘲気味な笑いを口からこぼしながら、 ひく、ひくと浩司の頬が引きつる。彼の周りには家庭科部の女子生徒達がいて、出来上がったウェイターの衣装を浩司が着ているのだ。

「きゃーっ浩司くん似合うー!!!!」
「やっぱ選んで正解よね!」
「うーん、羨ましいぜ水未ー」
「…そういえば、香野は?」

 罵声から何からをそっちのけにして浩司が問うと、途端周りがぴたりととまる。何あ起きたのか不思議に思っていると、一人の女子生徒がぽつりと言葉を紡いだ。

「そういえば、前から気になってたんだけど」
「…なんだ」

 先ほどの怒り任せな魔力消費で、水分が欲しくてたまらなかったので、浩司は水へと手を伸ばす。ペットボトルの蓋を捻り開け、口まで運ぶ。

「…奏と浩司くんて…付き合ってるの?」
「―――ぶっ?!」

 案の定、浩司は水を噴出した。

「んななな、なっ、な…」
「あ、動揺してる」
「するに決まってるだろ!第一俺には…!」
『俺には?』
「―――俺には…」

 ここまで言って詰め寄られてレヴェーラと答えるかどうするか迷いそして。

「もー!何で私がこんなロリータちっくなの着なくちゃいけないのよー!!!」

 ナイスタイミング。教室の扉を勢いよく開けたのは奏だった。

「で、どしたの、浩司は」
「…助けろ香野」
「内容言わないと助けない」
「あ、奏ぇー。今ね、浩司くんが誰が好きなのかを聞いてたりしちゃったり」
「…へぇ」

 にやり、と笑う奏にもう助からないと思った。こうなったら逃げるしかないだろう。奏をからかってから逃げるという手もある。

「…ちょーっと気になっちゃったりするんだー私も」

 にっこり、にやり。そう笑う奏に引きつり笑いで返す浩司。
 浩司が、というよりはクズルが好きであったのは故人だ。それを言うべきなのかどうなのか、と考え、それを言おうと答えが纏まり、さらりと答えた。

「俺が好きなのは…レヴェーラだ。詳しくは教えねぇ。いや、教えたくも無い」
「―――にしてはやけにあっさりねあんた」
「なんだ、それともお前だとでも言って欲しかったか?」
「だっ…誰がぁあ!!!!」

 その言葉に、奏はかっと赤くなって浩司を蹴り飛ばした。しかもそれには魔力が付いていて、女性が普通蹴り飛ばしたらそんなに飛ばないであろうというくらいの飛距離を飛び、浩司は窓の外へ身を投げ出された。

「こ、こういうときに力を使うなぁあああああああああ!!!!」

 あああああ〜、という叫びだけが教室内に木霊する。その浩司を皆が視線や体そのもので追いかけ、窓際に溢れんばかりの人が集まり、奏はその中心に押しつぶされそうになりながら居た。
 事故が起こる、と誰もが思った。だが、浩司は地上4階から落下したにも関わらず、あからさまに人間ではない動きをした。それにそれを目撃した全ての人間が驚く。

 浩司はその人だかりを一度見やると、なんで驚いたんだという顔をする。勿論、浩司には判っている。人ならぬ動きをしたのだから。彼が本来神様であるが故、普通が起こるなんてことはないのだ。

「…神が存在してる自体…普通じゃねぇんだよ…」

 誰にも聞こえないようにぼそっとそう吐き出すと、浩司は校舎内へと再度入っていく。それを見つめながら、女子生徒が奏に一言。

「今の、どゆこと」
「知らないわよ…私だって」

 今の奏には、そう答えるのが精一杯だった。

◆ ◇ ◆

「……んでもって、結局は買出しにまでひっぱりだされる、ってか」

 はぁ、と深く溜息をつく浩司の隣には奏。そしてその他諸々。

「…まぁ、実質人手不足なんだし…。仕方ないじゃないの」
「…仕方ないって言ったらすべてそれで片付くぞ」

 だから仕方ないという言葉は嫌いなんだ、と浩司は呟いた。
 それから暫くして、近所のスーパーマーケットに着くと、メモ用紙片手に生徒がスーパー内を駆け回った。

「これ以外に必要なものねぇのかー?」
「…書いてあるのはこれだけだな」

 紅茶のティーパックから何からやっぱり喫茶店をやるつもりのようだ。

「あと、衣装とかの方は麻奈たちが買出しに行ってるからコレ買って帰りましょーよ」
「あー疲れたー」
「疲れたってな…。『持って帰る』ってことを忘れてないか、お前ら」

 買い物だけで疲れている生徒達を横目に、またも、浩司は呆れた。

「ごめんねー、浩司…荷物一番多くて」
「別にどうってことじゃないだろ。最初から判っていたことだし」
「いや…それでもごめん」
「企画者でもないお前が謝る理由がわからん」

 道中に残りのクラスメイトそっちのけで話が進む2人に残りクラスメイツはじっとりと見ていた。が、その視線に気付くこともない。

(やっぱあいつら付き合ってるんじゃ…)
(前のとき奏が出てきて遮られちゃったけどね…)
(奏ちゃんが転校してきたときもなんか2人でどっかいっちゃったしねー…)
(やっぱり怪しいじゃねぇかよ)
(だね)
(でも噂だけ流すのも本人たちに悪いんじゃ…)
(だったら直接聞いてみりゃいいじゃん)
(だけどさー、あの2人こっちの声聞こえるかな?)
(何が何でも聞こえさせろ)

 こそこそと話をしつつ、彼らはそれを決行することにした。2人を呼びとめると、それに答えたのは奏だった。奏が返事をしたことに気付き、浩司も視線を上げる。

「この前はぐらされたから率直に聞くわ!」
「な、何を…?」
「ズバリ!浩司くんと奏って付き合ってるの?」

 ずべっ。勢い良く奏が前のめりになりながらスライディング。それから暫く無音になり、がばりと奏が起きて反論する。

「な、何でそうなるかなぁ!」
「…あれ、違うの?」
「誰が付き合ってるだなんて言ったよ…。だからお前らはしつこい…」

 呆れている浩司に奏が、 「前に聞かれたのってそれだったの?」と問うて来た。

「…あの時はお前に飛ばされたがな…。まぁ、あたりだ」
「…へぇー…。あ、そだ! 皆にいっとかないとね!浩司の好―――」
「っっだー!!!!!!!」

 ばしんっと思い切り叩いて奏が凹む。

「ひ、ひどいぃいー…」
「人の…秘密を…勝手にばらすなっ!!!」
「何よぉ!そうすれば他の子よってこないじゃないの!」
「故人だって言っただろが!」
「えぇええええ?!」
「俺は言ったはずだ!」

 ぎゃーすかと喧嘩に発展する2人に、恋人というよりこれは喧嘩友達と言える気がしてきてしまった。本当に付き合ってないの?と聞くのは、なんとなく気が引けたのでやめることにした。

「てーか、と、とりあえず行こうぜ…学校」
「…はぁ…判ったよ…」
「ってこらあんた逃げるの!?」
「誰が逃げたっつった!?」

 また、喧嘩が勃発したのでクラスメイツはそそくさと逃げ出したのである。

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2005/10/03
(2010/02/25 加筆修正)
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