* initialization *

 中世ヨーロッパを思わせる城の一室。書庫の一つで、特定の二人がよくこの書庫を使用している。
 この書庫に、その特定の二人が揃って執務をしていた。

 ぱたり、と書物を閉じて溜息を吐き出すのは水色の髪の青年。走らせていたペンを机に起き、窓から見える空を仰ぐ。窓の外は、延々と広がる森と、青い空しかない。
 一息ついた水色の髪の青年に、自身の執務中にやる気を無くして魔術書を読んでいた朱色の髪の青年は顔を上げる。

「……人の子の願いには、限界というものがあるものだ」

 朱色の髪の青年の視線に気づいた水色の髪の青年は、ただ一言ぽつりと呟く。
 その言葉の意味を理解した朱色の髪の青年は、一度瞼を下ろし、口元は笑みを形成する。その笑みは、苦笑にも近い。

「まあ、世界の理の絶対的存在である【神の世界】を改変できたら、どん引きだぞ」

 はは、と乾いた笑い。
 朱色の髪の青年が口にした、世界を構築する上で絶対的な存在である世界【神の世界】。この世界は、創造主と呼ばれる時の神、マラーナを最上位として、その下に最高神、元素神の火神、水神、地神、風神、黒神、白神、類まれなる能力を持つがゆえに例外の神として位を与えられた音神、変神、戦神という11人が存在する。
 そして、水色の髪の青年はその水神、朱色の髪の青年は火神である。
 それぞれ名前を、クズル・レイェン、フォーラ・スペンデラと言う。彼ら元素神は、人間の生きる世界では【ウィデラ神話】という神話で言い継がれ、物語に登場している神々の後継にあたる。

 人間界を構築するモノの元素を司る存在で、彼らがいるがゆえに【宇宙】という人の世界が存在する。彼らの誰かが消滅すれば、その者が担っていたものが消滅する。水神が居なくなれば水が、火神が居なくなれば火が、地神が居なくなれば大地が、風神が居なくなれば風が消える。
 彼らは、世界を構築するそのものでもある。そのため、その属性一つだけであれば、同じ属性で敵う者は存在しない。

 彼らが先程からしている執務は、この神々の中で例外の神として十位の位を持っていた戦神、セイジ=アルカワが死亡したことの報告書である。
 彼は、時の神マラーナと共に、チャイルドワールドと呼ばれるオーパーツを管理するために生み出した世界の管理者であり、創造主だった。

 かつては、堕天使として魔界に下ったティオスティーラ・ラディエイタスの転生と謳われ、ティオスそのものを打ち負かした人物。強靭な精神と特殊な家系ゆえに持っていた超人的な身体能力、遺伝子操作により可能になったオーパーツの一時管理が、神々の目的を満たした。
 彼の「生きたい」という願いと引換に、オーパーツ管理を任せていた。

 その世界の管理者が、死亡した。それは神々として由々しき事態だが、それ以上に頭を抱える事件が起きた。創造した世界の存在が、その世界の理を破壊し、そしてそれは、マザーワールドと呼ばれる本来の世界にまで影響を及ぼした。
 それに加担したのが、戦神・セイジ=アルカワの息子、リタンダ・トウヤ=アルカワ。父の作った世界の管理者を引き継いだにもかかわらず、彼は、その世界を破壊し、作り変えようとした少女に加担した。

「マラーナが関与していたら、改変をできない話ではないと思うが」
「やめてくれ、もう俺あいつの話聞きたくない。疲れる。正直このポジションほっぽり出したいんだ。予言とかいらねえもう。なあ、お前から言ってくれよ、もう予言はいらねえって」
「無理を言うな。彼女はその予言を行うことで、この世界を残しているんだぞ」
「まあ、そうなんだけど。彼女の予言がなければ、状況把握できないところもあるから仕方ないんだけどさ。まあ、いいや。報告書、終わりそうか?」
「正直何を報告すればいいやら、だがな」

 ふ、と笑うクズルに、フォーラも笑う。
 破壊したことが罪になるのかといえば、そうではないのだ。少女を責めることも、戦神の息子を責めることもしない。

「俺、思ったことがあるんだけど」
「なんだ、言ってみろ」
「初期化、されたなって」
「厳密に初期化されたわけではないがな」
「まあ、そうだけど。初代が生まれて、魔界と人間界が創造されたその当時に戻ったんだなって。たった二人の存在の力で」
「……マラーナ曰く、起こりうる事態だっただろう。それがいつなのかはっきりとはしていなかった。ただそれだけだ」
「ああ、そうだな。俺達は、マラーナの望むように、世界を維持してゆくだけ」
「そう。それが、俺達に与えられた最初にして最後の、永遠なる任務」
「………、そうだな。あ、トウヤの情報揃ったか? あとリサ…って言うべきなのかな、イーザかな」
「セイジ曰く、リサのほうが真名だそうだ。イーザという名前…デスマスターの名前だな。それは、縛るための器みたいなもんなんだと。真名で縛ると、いざという時に止められない可能性があるという理由からそうしたらしい」
「いざという時って…、そんなことあるのか?」
「……セイジがその時まで生きていれば、もし悪用された場合にデスマスターの名前を無効化できるんだそうだよ。彼が生きていなかったから、その事を知っているのは俺達くらいだろう」
「へえ……」
「フォーラ、報告書、こんなモノでいいだろう」
「そーだな、またなんかあれば追加訂正すればいい」
「ああ。さて、これをレーヴェルに届けて…」
「それは俺がやるよ。お前、仕事するってなると可愛い奥さんも娘もほっとくもんなー。仕事熱心なのはいいけど、そんなんじゃ実家に帰らせていただきます!とか言って逃げられちまうぜー」

 けたけたと笑いながら言うフォーラに、クズルは挑発的な笑みを見せて言う。

「おいおい、俺達がそんなで崩れるとでも思ってるのか?」
「思ってない」
「即答か」
「何万年の付き合いだ」
「ああ、そうだな。それじゃ、報告書頼んだ」
「おうよ。あ、あとでお前の娘と遊ばせろ」
「……アニーが逃げなければな」

 くす、と笑うと、水神は愛しい妻と娘に会いに、火神は本来の仕事である報告をしに、正反対の方向に廊下を歩き出した。

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2011/03/19
BGM : Paradise Lost
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