*18 Last Wish/中編*

「…ん、もしかしたらお前の願い判ったかもしれねえ」
「なんだと…」
「俐咋、こいつの願い聞いてやんな」
『え…!?』

 冬哉がそんなことを言い出すなんて、と俐咋とアーバインが同時に驚いた。敵であるはずのアーバインの願いを聞いてやれというのだ。
 だが、オーパーツにそんな能力はないはずだ。俐咋のオーパーツは未来予知の能力を持つだけのもので、願いを叶えるものではない。アーバインを見て、冬哉に向き直ると、冬哉が苦笑した。

「父さんも母さんも、俐咋のオーパーツの本当のことは言わなかったんだ。【フォーサイト・リング】は、過去を変える力を持つオーパーツだ。見える未来は、過去を造り変えたらどうなるかが見える世界なんだ。だから、本当は予知なんて力を持たないんだ。アーバインはその力が欲しかったんだろ? 過去を変えて、魔界で一番の権力を持とうとしたわけだ」
「……ッ!」
「過去を変えるなんて大がかりな能力を持つオーパーツをやたらと使われたら困るだろ。それに、この力は…適合者の」

 何かを言おうとした冬哉を、俐咋が遮る。言わんとしたことが理解出来たのか、俐咋の目つきが急に鋭く変わった。

「……言わないで。何となく想像がついた。大がかりな術を使うとなれば、代償となる物は判ってる。全部の魔力を注いでもその力が足りない場合は、生命力そのものが魔力にコンバートされるはずよね」
「その通り。そんな力をやたらめったら使うわけにいかないだろ。まあ、俐咋の代になるまでに、本来の意味での適合者が現れなかったオーパーツだからな…。使える奴がいない状態じゃ、その力も使えないだろうが…」

 はあ、と短い溜息を冬哉が吐き出したと同時、黒い風が冬哉の横を通り過ぎる。それが何かに気付くまで、気付き終わったときには既に遅い。
 直ぐ近くにいたはずの俐咋がいない。冬哉は慌てて後ろを振り向くと、アーバインと、アーバインに捕えられた俐咋の姿が見えた。

「お前…ッ!!」
「或河冬哉、俺の願いはそれだけじゃない。魔界一の権力者なんて踏み台でしかない。1つ、願いの正解だったけどな」
「どういうことだ…」
「俺にとって、賀瀬の名を持つ女性は特別なんだ。志座としても、俺としても、だ。特に俐咋は…何千年も前から待ち続けた大切な人なんだよ。お前なんかに渡すものか!」
「俐咋!」

 冬哉の声に、俐咋も声を上げようとする。だが、声は空気となって喉を突きぬけてゆくだけだった。―――つまり、声が出ないのだ。原因は1つしかない、と自身を捕えた相手であるアーバインを見やる。声が出ないことに気付いた俐咋に気付き、にやりと笑った。

「下手に他の術を使われても困るからね。君が約束してくれたら声も出るようにしてあげるし、封印もといてあげる」
「封印を解くだって…?! それってつまり」
「ああ、俺の願いを叶えてもらうためにね。俐咋、冬哉となんて会いたくなかったと望むんだ。そうするなら封印を解く」
「なん…、お前、ふざけんなよ。なんでお前に恋愛の自由を奪われなきゃならねえんだ!」

 自由という言葉を発した冬哉に、アーバインは嘲笑うように返答した。

「デスマスター同士は結ばれてはいけないというルールがあるのに? ふざけてるのはそっちだよ。元々志座の雄希が佐惠子と結ばれようと思わなければこんなことにはならなかったんだ! 志座と賀瀬の両家がデスマスターになっていればこんなことには…! 俐咋が願いを叶えないというのなら、俐咋を殺すよ。この世界丸ごと、ぶっ壊してやる。そうすれば、この世界は発展しない、この時代でチャイルドワールドを終わりにできる。2セクターは俺の物になる!」

 壊して手に入るわけがないだろ!と焦りを含んだ冬哉の声が耳を突き抜ける。その通りだと俐咋も思った。壊して手に入ることなんてない。破壊衝動が生み出すものなんて何もない。
 けれど、彼の願いを叶えなければこの世界は壊れてしまうし、殺されてしまう。従うしかないのだろうか。

 落としていた視線をふい、と上げ、冬哉を見る。俐咋が捕えられているために動けないように見えた。声をあげて攻撃を当ててもいいと言いたいところだが、生憎声は出ない。

 他に方法はないのか、と思考を泳がせる。

 願いを叶えるというよりは、過去を改ざんすることで世界そのものを変えてしまう力だ。この力は俐咋が願うことで実現する。素直に受け入れたと見せて、別の願いを唱えてしまえばいいのではないだろうか。

 悪魔や天使、人間やデスマスター、魔法使い、オーパーツの適合者、マザーワールドの他の惑星に存在する人間とは異なる種族。それらが平等に愛し合える世界があればいいのに。
 本当のことを言ってしまえば…と、俐咋の頭の中には1つだけ答えがあった。

(……デスマスター同士は、結ばれてはいけない)

 この不平等さに、涙を流していったデスマスターも多いのではないか。いや、必ずいるはずだ、と自身に言い聞かせる。それは、自身の理由が利己的だと肯定するのが嫌だったからだ。

(デスマスターじゃなければ、私は答えられる。ううん、答えたいんだ、本当は)

 互いに愛し合っているのに、結ばれないなんて悲しすぎる。その理由を、俐咋はたくさん付けたかった。自分の思いを、私欲を、この願いに使ってしまおうなんて考えているからだ。だから、それを正当化する時間がほしい。愛し合っているのに結ばれないたくさんの人々へ、この思いが届きますように。

Back | Next
> Top <
2010/07/15-18

Copyright © OzoneAsterisk All Rights Reserved.