*18 Last Wish/前編*

 冬哉は、俐咋が驚きの余り立ち尽くしているのを一度ちらりと見る。それから続きを話し始めると、俐咋の意識も慌てて戻ってきた。

「ガイアマスターの一族交代をしたころから、その二つの一族は密接に関わるようになった。子供たちが幼馴染になるようになったのも丁度その頃。そして、志座と賀瀬が婚姻関係を結ぶようになったのもこの頃」
「婚姻関係!? そんな話一度も…」
「マコトの曽祖父は男2人、女2人の4人兄弟。女性2人は嫁に、弟は志座を継ぎ、雄希は俐咋の曽祖母、賀瀬佐惠子と結婚し、賀瀬の婿養子になった。佐惠子には妹が2人いて、佐惠子がデスマスターの引き継ぎをしている間に、2人とも嫁に行ってしまった後だったんだ。だからこうするしかなかった。何より、デスマスターを経験している一族同士だから、秘密の共有も楽だったしな」

 確かに、デスマスターの持つ秘密を言う必要もない。相手が理解しているからだ。そういった共有が楽であるだけで結婚したのだろうか。それはにわかに信じがたい、と俐咋が脳内で出した答えに、解答するつもりはなかったのだろうが、タイミング良く冬哉が本当の理由を口にした。

「佐惠子は賀瀬を残さなきゃいけない。佐惠子の代で賀瀬を終わりにするわけにはいかない。そうするためには婿養子をもらうしかなかった。たまたま志座が近所だったんだ。町内の祭りだとか行事で顔を合わせるし、普通に会話もする。政略結婚じゃないから安心しろ。先に惚れたのは志座のほうだ。それと時を同じくして、2セクターでもう1人デスマスターを着任させようと言う動きがあった。当時アジア全域を担当していたのが志座だったんだ。それでは範囲が広すぎる。アジアレイヤーを担当するデスマスターを任命しようとなった。それの候補に挙がっていたのが賀瀬だったんだ」

 惚れた相手がデスマスターとして任命されようとしている一族だった。それを知った当主はどう思ったのだろうか。そう考えていると、俐咋は1つのルールを思い出した。
 デスマスター間に定められている、婚姻の不可だ。それを口にすると、冬哉から正解、と短く言葉が返ってきた。

「そう、賀瀬がデスマスターになってしまったら、婚姻は一切できなくなってしまう。それを抗議し、志座はデスマスターの職を辞任することになった。私情でそんなことをしてはいけない、と当時、父さんはきつくしていたそうだから」
「…その後、賀瀬が日本レイヤーのデスマスターを担当することになった。志座が辞任することでアジアを担当するデスマスターが居なくなったからだ。それは俺も知ってるよ」
「アーバインがどこまで知っているんだか、って感じだが…。パーシェが選ばれた経緯とかは知らないだろうな、関係ないし」
「ああ、それは知らないな」

 ヴン、と時空が揺れる。その音はアーバインから聞こえたもので、アーバインの手を見ると魔力の塊を手にしていた。だが、その塊はさほど大きくなく、手に納まってしまいそうなほど小さかった。
 どうやら力を使いすぎたようで、大きな力を出せないらしい。

「のんびり話なんて聞いていられない、か。けど、その程度の力じゃ今の俺には勝てないぜ? 悪いが脅しにもならねえ。俐咋に説明もしてやりたいから暫く大人しくしてろ。魔力でも溜めとけ」
「た、溜めとけって…冬哉!」

 信じられない、と俐咋が吠える。魔力を溜められたらこちらが不利になる可能性もあるのに、と口にする俐咋に、冬哉はうーん、と唸りながら、「多分魔力があっても意味がない」と言う。その意味が理解できずに俐咋は疑問符を浮かべることになった。
 アーバインは疑問符を浮かべる俐咋を見て、魔法を発動するでもなく普通に立っている冬哉を見て、口を開いた。

「ある日のことだ。魔界に戻された俺は、現れた占い師に『自分の願いと世界を手に入れることが出来る可能性がある』と言われた。既にその種は蒔かれている物で、志座に埋めた種のことだった。魔界や天上界の歴は人間界とは違って早いんだ。数千年後に願いを叶えることのできる少女が現れると言われた」
「それが俐咋。【フォーサイト・リング】というオーパーツを本来の意味で扱える存在だった、というわけだな」
「ああ、そうだ。だから俺は、志座マコトを器としてチャイルドワールドに潜りこんだんだ」

* * * * * * * *

『―――【フォーサイト・リング】さえ手に入れば、その本来の力を扱える存在を手中に収めさえすれば、貴殿は世界を思いのままにできるであろう。貴殿を蔑んだ奴らを苔にできる。欲しいものをすべて手に入れることが出来るのだ。適合者には、その能力を使えないようにしておくべきだ。封じておきなされ―――』

「俺はその占い師に言われたことを信じ続けた。幼い俐咋に、【フォーサイト・リング】を扱えないように、未来を見ることが出来ないように封印をかけた」
「だから、俐咋は本来の予見能力が開花しなかったのか…。術者が自ら解除するか、死亡しない限り術は解けないのが普通だからな…」

 面倒くさいことをしやがって、と呆れながらに口にする冬哉に、アーバインが逆に面倒な事をしてくれたのはどっちだ、と問いかけた。その理由が直ぐに判らず、冬哉が首を傾げるとアーバインの顔が歪んだ。

「マコトの記憶を封印したと見せかけて、完全に消去しただろう」
「その言葉、語弊があるぞ。『マコト』の記憶は確かに封印した。消去したのは『アーバイン』という名の乗り移った存在の記憶だ。マコトに夢遊病と同じ症状に見舞われるって相談されてたんだ。それに、原因を知っていたのはうちの両親だけで、俺はマコトの記憶を封印したに過ぎない。まあ、結果的にお前はマコトの中にいることが出来なくなって、マザーの体である泰樹に戻ったわけだ。マザーで俺と会う前から泰樹を器としていたんだろ? 泰樹本人はアーカディアンだし、オーパーツを扱うことが出来る存在だからな…。アーバイン、お前個人ではオーパーツを扱えないだろ」

 最後の言葉にアーバインは、ギリ、と歯ぎしりの音が聞こえたような気すらする表情をした。オーパーツを扱えない、というその一言が余程、気に障る言葉だったのだろうか。
 その反応を見て、冬哉がにやりと笑った。こちらもこちらで気味が悪い、と俐咋の顔が歪む。武器を出してもいないのに緊迫した状態がそこにある。まさに一触即発の状態だった。

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2010/07/10,11

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