*12 神の失墜/後編*

「俐咋、それは?」
「星治さんから、冬哉に」

 渡された日本刀を冬哉に渡すと同時、向かってきた敵を斬る。
 冬哉はその布を解くと、そこに見えた姿に言葉を失った。

「冬哉、どうしたの」
「…俐咋、ここお前一人でいけるか?」
「だいぶ減ったから問題ないけど。軍人さんも結構着たしね」
「じゃあ、宜しく。俺、父さん追いかける」

 言うなり、冬哉は自身の剣をしまって、その刀を手にした。

―――おいかけるの?

 刀を手にしたと同時、声がして、冬哉の動きが止まる。誰の声なのか判らない。何処から声が聞こえたのかも判らない。そう迷っていると、星治の姿が見えた。
 軍艦の中から戻ってきたようで、星治を追う敵の姿が複数見える。

「俐咋、学生ども助けに行ってやれ! 一人でも欠けるとオーパーツ管理が面倒だ!」
「は、はい…!」

 星治の声に、俐咋は慌てて学生たちのほうへ戻る。
 確かに、彼らはオーパーツを使っている。そのオーパーツを管理しているのは星治で、チャイルドワールドでもデスマスターの武器として使われている。それが一つでも欠けてしまうのは問題になる。

 俐咋を学生たちのほうへ向かわせて、背後から殺気を感じた冬哉は応戦しようと刀を構える。その冬哉に背を合わせるようにして、星治も剣を構えた。

「父さん、どうして俺にレヴェレスミスを」
「判ってるくせに聞くんだな」
「………再確認だよ」
「お前が新しいマスターになってくれ。今のところ、或河の血を引いてるのはお前しかいないんだ。それ、世襲の武器だから或河じゃないと扱えないんだよ っと、こいつらしっつけえなあ…!」
「さっき、声が聞こえたんだ。おいかけるのか、って… っ…!」

 ギィン、ガィン、と剣と刀が金属を弾きあう。そろそろ数が減ってきただろうか、と思うと軍艦からまだ出てくる。だが、これで最後だろうと星治の声が聞こえた。その人数で最後ということか。
 星治がレヴェレスミスを譲渡するということは、彼自身がそれを扱えなくなるということを示している。冬哉には、レヴェレスミスを渡された時点でうっすらと気付いていた。星治が持つ残りの魔力の量もあまり多くない。つまり―――星治は、近いうちに死ぬ。

「ああ…、言ってなかったっけ、レヴェレスミスは龍神が棲んでるってこと」
「龍神が…?」
「あと、そろそろアーバインが仕掛けてくる。何があっても俐咋だけは守ってやれよ。あーっとそうだ、もう気付いてるだろうから単刀直入に言う。俺が死んだらチャイルドワールドが不安定になる。一時的に唯に管理者権限を譲渡しておく。でも、あいつより、お前のほうが魔力が強い。いずれお前が統治することになる」
「けど、俺は今…そんなに力があるわけじゃ」
「ああ、安心しろ。解放してやるから」
「え、解放って… っ…?!」

 ブオン、と空を裂く音が聞こえる。それと同時に、冬哉の中で何かが弾けた気がした。でもそれがなんなのか理解できない。何が起きたのだろうかと不思議に思っていると、星治から強大な魔力を感じる。その魔力をどうするのか、と思って、まさか使うのではないかという考えに至る。
 そんなことをしてしまったら、存在が維持できなくなる。そう合点し、父を止めようと手を伸ばし、叫ぼうとした。だが、何処からかまた声が聞こえてきて、驚く。

『あなたが継がないでどうするの』
「だから、俺に話しかけてるのは誰… ッ!?」

 誰が話しかけているんだと問おうと口を開いたと同時、突如巻き起こった強風に冬哉は飛ばされ、意識を手放した。

* * * * * * * *

「―――起きて」

 はっきり聞こえた声に、ぱちり、と冬哉は目が覚めた。見えた世界はオーロラに輝く空間で、床が判らない。倒れていたようで、体を起こすが、どうにも床があると言う感覚が掴めない。

 声がしたのに誰もいない、とあたりを見回して視線を前方に戻すと、目の前に真紅の長い髪を持つ和装の女性がいた。姿的には子供と言えるのかもしれない。女性と少女の間、そう表現するのが正しいのだろう。

「お前は…」
「レヴェレスミス。星治の言う龍神よ」
「…龍神……」

 『ああ…、言ってなかったっけ、レヴェレスミスは龍神が棲んでるってこと』―――確かに、星治は言っていた。龍神が棲んでいる、と。彼女が龍神なのか、と冬哉は思わず疑ってしまった。人の姿をしているのだ。龍じゃないのだ。

「人の姿をしていて驚いた?」
「ああ…」
「レヴェレスミスに棲んでいたのは確かに龍神だったわよ、この刀が人に渡る前はね」
「人に渡る前…? それは…」
「龍神は恋をした。そして人になることを望んだ。そうして、人の形を手に入れた。それからというもの、龍神を継ぐ者は人であると決まったのよ。私もかつては生きていた人間だった。或河に関わりのある人間だったわ」
「な…っ、人間が武器に宿るなんて…」

 そんなこと、聞いたことがなかった。星治から龍神の存在を聞かせて貰ったこともなかったのだ。
 レヴェレスミスという刀は代々或河一族に伝わるオーパーツで、或河の血を引く者にしか扱えない。だから、いずれは冬哉が扱うことになるかもしれない、ということしか聞いたことがなかった。

「出来るものよ。ただ、私のマスターになるということは、あなたの力を少なからず貰うわ」
「は…? 貰うって…」
「"レヴェレスミスを使役する度、生命の糧となるものをもらう"。それによって、レヴェレスミスの中に宿る存在は生きることが出来る。生きることが出来れば、本来の力を発揮できる。つまり、あなたが私、レヴェレスミスを使役する度に、あなたの寿命は縮まると思えばいいわ。まあ、尤も、あなたとか星治とか唯は人間の比じゃないくらい生きれるから、寿命が縮まるっていったって、人間以上に生きることは出来るわよ」
「じゃあ、父さんはお前を…レヴェレスミスを使う度に寿命が…」
「…そうね、かつてミンディシアで彼が生きていたときはそうだったわ。彼も人間だったから。戦の神としてこの世に二度目の生を受けた時から、力を貰ってはいたけど無限に生きれる生命力を感じてた。だから、正直なところ、星治以外がマスターになるとは思ってなかった」

 彼女は今こうして、星治の息子である冬哉と話をするなんて思ってもいなかったのだ。星治が死ぬわけがないと思っていたから、他の誰かをマスターにするなんて全く考えていなかった。
 真紅の髪を揺らして、レヴェレスミスは冬哉に一言、問うた。

「あなた、私のマスターになる覚悟はある?」

 その質問に、冬哉は逆に「父の遺志を継がないでどうするんだと言ったのは誰だったっけ」と聞いた。その言葉にレヴェレスミスは目を丸くして、驚いた。

「お前の声だったんだな。聞こえるのに姿はないから、不思議に思ってた。今ここで聞いて、判ったよ」
「あのまま突っ込んで死なれたら困るんだもの」
「そりゃそうだ、遺志を継げないもんな」
「…遺志を継ぐのね?」
「ああ、それが俺の運命だ。或河の苗字を持って生まれた俺の運命。末代として、オーパーツ・レヴェレスミスを継ごう」
「……流石、あの人の息子ね。その思い切りの良さは変わらないわ」

 ふっとレヴェレスミスが微笑んだ。それにつられて、冬哉も笑みをこぼす。それからすぐに、ぐにゃり、とレヴェレスミスの姿が歪んで、それを不思議に思って、冬哉はどうしたと声を出そうとする。だが、声が出なかった。声が出ないと慌てていると、大丈夫、とレヴェレスミスの声が頭に響いてくる。
 レヴェレスミスの姿が見えなくなって、冬哉の意識が遠のき始める。意識が遠のく中で、レヴェレスミスの一声が、はっきりと聞こえた。

「俐咋を守りなさい。大きな戦が始まるわよ」

 その声がはっきり聞こえて、冬哉はまた意識を手放した。

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2010/03/06

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