*12 神の失墜/前編*

 翌日、冬哉が嫌な予感がすると軍に向かった。夜には帰ってくるから食事を用意しておいてほしいと言う彼に、少しでも遅かったら用意しないから、と冗談の様に笑うと勘弁してくれ、と笑った声で返事が帰って来た。
 そうして送り出して、俐咋はアカデミーに向かう。

 冬哉のことが心配だが、自分にはやることはない、と言い聞かせて俐咋は授業に出席する。授業の間もずっと冬哉のことばかり考えてしまって、恋する乙女か馬鹿と自分に嫌悪する。
 特別な存在になっているのは確かだし、気になるのは確か。これじゃあまるで彼に恋をしている、と気付く。好きにならないと決めたはずなのに、好きになっている。でも、その言葉を彼には言うつもりなどない。

 そうやって考え事をしていたら、あっという間に午前の授業が終わってしまった。教室を出ると歩きながら喧嘩をしている巳捺とイサトに遭遇して、一緒に昼食を取ることになる。
 巳捺とイサトの仲の良さに笑みを零しながら食堂に向かっていると、突然地面が揺れた。

「っ…地震?!」
「ちょ、それにしてはでかい…!」
「元々地震大国だけどさあ…!大きすぎ…っ」

 悲鳴や足音が聞こえてくる。建物の一部が倒壊したと言う言葉まで聞こえてきた。避難警報が鳴ると同時に、特殊クラスへの出動命令が下った。

「出動命令…ってことは」
「これ、ただの地震じゃないってことでしょ? 俐咋、先に行ってるね!」
「うん、すぐに追いつくよ」

 武器を具現させて走り出す2人の姿を一瞥して、逆方向に走る。地震で出動命令が下ったのが何故なのか理解が出来ないまま、急いで教室に戻って、ロッカーから以前星治から譲り受けた剣を手に取る。オーパーツが使えない今、俐咋にはこれしか武器がない。
 手入れを怠らなかった剣は、新品同様の輝きをしている。その剣を携えて、俐咋は外へ向かった。

* * * * * * * *

 外に出て、驚くしかできなかった。街中に軍艦が墜落しているのだ。向こうからイサトがかけてくるのが見える。何があったのか問うと、想像だにしない言葉が返って来た。

「墜落したのは軍艦アクトエイリアス。所属はミーデ星系。その周りで戦が起こってる」
「はあ!? なんで戦なのよ!」
「アクトエイリアスがジャックされたんだ。中にいた軍人は無所属なのからうちの所属で行方不明になってたやつとか沢山いる。どうやらこっちを敵視してるみたいで、戦争売ってきたんだよ」
「喧嘩売って来たと同じ言い方しないでよ! 一種の派閥が何らかの目的のためにアクトエイリアスをジャックして地球に突撃してきたってこと?」
「そう。で、今その中心に誰がいると思う?」
「中心って派閥の?」
「いや、こっち側の」
「そんなん知るかああああああ! もう、さっさと行くよ!」
「あーもう話聞けってー!」
「聞いてる余裕なんてない!っていうか見たほうが早いでしょ!」

 イサトを置いて走り出す。それにイサトも直ぐ追いついてきて、軍艦の近くまで走ると、巳捺や他の学生の姿が見える。そして、もっと奥で激しい戦いが起こっているのが判る。
 そこに目をやって、驚かざるを得なかった。行方不明だと言われた星治の姿があったのだ。だが、星治の周りには敵以外誰もいない。学生はそこまでたどり着けていないのだ。

「…星治さん」
「そ、中心にいるのは大佐。ああやってみてると流石としか言えないな…」
「見てないで動かないと大変なことになるよ」
「ってちょ、俐咋!」

 俐咋は、学生たちが戦う群れをあっという間に通り越し、星治の元へ向かう。それを見て、イサトは思わず開いた口が塞がらなくなった。あっという間に通り越していったのだ。普通、学生レベルの軍人にそんなことは出来ない。
 俐咋が転入してきたころ、冬哉の知り合いであるということを目の当たりにしたが、やはり信じられないくらいの力を持っているのだろう。
 真面目に考え事をしていると、横から殺気を感じた。その殺気に剣を構えて受け身を取ると、軍服が目に入る。その軍服から行方不明になっていた太陽系所属の軍人だと判る。
 敵として前に立ちはだかるのなら、倒すしかない。イサトは剣を構えて向かって行った。

* * * * * * * *

 学生の群れを飛び越えて走り抜けていく。視線の先にあるのは星治の姿。彼の姿を見ると、左目には包帯が巻かれていて、解けてきている包帯から、負傷しているのが見えた。そして右腕にも真新しい傷がある。この戦でついた傷だろう。
 到着して、星治の後ろから迫っていた敵に一撃を見舞うと、剣を構えて星治と背を合わせる格好になる。

「……俐咋か。誰が来るかと思ってたんだが、学生はこれなさそうだったから驚いたよ」
「せいぜい学生たちは下っ端とやり合ってればいいと思います。この戦い、学生たちに本当のことがばれたらまずいんじゃないかって思ったので」
「それ、正解。この組織の裏にアーバインがいる。アーカデオ星系はあいつの住処だった」
「無事で良かったです。冬哉が無理しそうだったので…」
「ああ、やっぱりか。行方不明になったって騒がれたんじゃない?」
「一般には知られないようにって、ヴァンガットリー中佐が配慮してくださいました」
「あー、じゃああとで礼言っとかないとな、じじいに」

 向かってきた敵に、星治は剣戟を浴びせる。それに驚いている暇などなく、俐咋にも向かってくる。剣を振るい、迎撃し始めるとこちらの軍が到着したようで、軍艦の中から更に現れる。どれだけ現れるんだと呆れてしまった。

「俐咋」
「はい、何か」
「冬哉に渡してほしいものがある。うちの軍来たみたいだから冬哉もいると思うし」
「…彼が軍属になったのご存じだったんですか」
「唯から聞いた。捕まってた間、意識だけ潜らせてたから。はい、これ」
「器用ですね… っと、これは…?」

 布に覆われた日本刀。柄が見えて、日本刀だと判った。これは何かと問いながら剣を振るっていると、それを冬哉に渡してくれとだけ言われる。そうして、星治が敵の中へ向かっていく。それを止めようと声をかけると同時に、目の前を人の姿が飛ばされてゆく。
 飛んできた方向を見やると、そこに冬哉の姿があった。

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2010/03/04

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