*11 こころのありか/前編*

『或河大佐の行方が判らなくなった』

 その言葉を聞いて、その場が凍結した後、目を見開いていた冬哉が、項垂れる様に床に座り込んだ。目頭を手で押さえていて、表情が掴めない。
 座りこんでしまった冬哉の代わりというわけではないが、イーデリヒが口を開いた。何故行方が判らなくなったのか、と。すると、ヴァンガットリーはゆっくりと口を開いて話し始めた。

「今、或河大佐がどこにいるか、冬哉やそこのお嬢さんは知っているな?」
「アーカデオ星系にいると聞いています」
「そうだ。だが、アーカデオ星系というのは、稀有とまで言われる大きな地域だ。本星であるアーカデオを始めとして、生物が生きている10の惑星が存在している。その他生物のいない惑星は3つ、衛星は40を超えると言われている。はっきりしていないところが多い星系だ。今回の任務で、或河大佐は、10個目の惑星アーカデオ・アルヴィアに滞在していた。このアルヴィアだが、アーカデオがベースだというのは判っているが、未開惑星なのだ」
「未開、惑星…」

 俐咋は、この世界に来て初めて聞いた言葉だ、と確認をするように呟いた。詳しい説明を受けたわけではないが、まだ開かれていないのだということは理解出来た。

「その調査をしている際、魔物に襲われたそうだ。そこまでなら、大佐の実力から十分倒せるであろう。魔物を、倒せなかったわけではないそうなのだ。とどめを刺そうとしたまさにその瞬間、漆黒のワープホールのようなものが急に現れたらしい」
「漆黒のワープホール…」

 冬哉がようやく顔をあげて、立ち上がりながら呟いた。俐咋は冬哉のその声音が、何か思い当たることがあるというように聞こえた。

「それに大佐が吸い込まれ、連絡が付かなくなったらしい」
「何処かに飛ばされた可能性がある、ってことか。それならEMNTの通信も繋がらないな…」

 電波の届かないところにいる可能性がある。ただそれが判っただけでもいい、と冬哉はヴァンガットリーに言って、会議室を出て行った。
 それを追うように俐咋はヴァンガットリーに一礼して会議室を後にした。

* * * * * * * *

 俐咋は、冬哉の後を小走りで追いかける。それに気付いたのか、冬哉は自身の歩く速度を遅くすると、俐咋が追いついた。

「なんだよ、追いかけてきたのか」
「急に会議室を出ていくから、何処に行くのかと思って」
「家に帰るところだったよ。今の時間なら、まだイサトや牧本が戻ってきてないだろうから」

 二人がいると出来ないことでもあるのか、と不思議に思っていると、星治と連絡を取ってみるためと冬哉が口にした。俐咋は口に出していないのに、と心を読まれた気分になった。
 確かに、或河一族は一般人として溶け込んでいるものの、誰もが本来人間ではない。通信機器を使わない連絡も出来るのだろう。それをイサトや巳捺といったこの世界に生きる存在に言うわけにもいかない。見られてしまっても困るのだ。

 また歩き出す冬哉の隣に、俐咋も並んだ。それから、自分たちの住まう家を目指して、何をしゃべるでもなく、ただ歩いた。
 長い長い沈黙。聞こえてくるのは街の喧騒。その二人の周りは、異常なほど静かだった。

 住宅街に入って、ふと、冬哉が口を開いた。

「なあ、聞かないのか」
「何が?」
「父親がいなくなっても、慌てないのか」
「だって、連絡が付くんでしょ?」
「つく、という絶対的な保証はないんだ。俺は今、連絡が付く、と自分に言い聞かせているだけなんだ。本当に連絡が付くのかなんて、判らない。連絡がつかなかったらと考えるのが怖くて…考えられないんだ」
「私だって、肉親と連絡が付かないのは怖いよ」

 そう俐咋が発した言葉に、冬哉が何かを思い出したように俐咋を振り返り見た。その顔は、至極驚いていて、どうしたのかと俐咋が問うと、冬哉は申し訳なさそうに下を向いた。それから少しして、ごめん、と小さく聞こえてきた。

「そうだよな…。この世界は本来俐咋が生きる世界じゃない。家族と、連絡つかないんだよな…」
「まあ、一応デスマスターの家系だし、お母さんは前代のガーリシアの長だから、なんとなく判ってくれてるかもしれないけど…」
「でも、この世界にいる以上、連絡はつかない。ごめん…」
「なんか、冬哉に謝られると変な気分になるよ。絶対謝りそうにないし」
「それは俺が自己中心的だと」
「否定する気はないんでしょ?」
「……まあ、自覚はしてる」
「自覚してたんだ」

 くすくす、と俐咋が笑うのを見て、冬哉の顔が緩んだ。俐咋が聞かないのは、自分が同じ状況にいるから。気持ちが判るからなのだ。

* * * * * * * *

 家について、冬哉はイサトや巳捺がいないことを確認すると、まっすぐに星治の部屋へ向かった。俐咋もその後を追う。扉を開けると、その先の空間は不思議なものだった。
 ただの暗闇。部屋とはいえない部屋。冬哉が俐咋を振り返って、手を差し出す。どうしてかと聞くと、俐咋は迷うから、と返された。どうやらこの暗闇の先に道があるらしい。俐咋は、冬哉の手に己の手を重ねる。手を引かれながら、暗闇をただ突き進んだ。

 暗闇に、光が見え始める。周りに光の玉がぽうぽうと光っていた。それは、人を避けるように、空中散歩を楽しんでいるようだった。

「冬哉、この光は…?」
「俺も詳しくは知らない。オーパーツだとか、人の魂だとか、色んな事を言われたから、何が本当なのか判らないんだ。父さんは、これだけは教えてくれなかった。道は教えてくれたんだけどさ」

 それからまた暫く歩く。ふいに、冬哉が足を止めて、俐咋も足を止めた。
 光の球体が心なしか増えた気がする。そう思っていると、冬哉は暗闇に手を向けた。冬哉が手を向けると、ざあっと暗闇が引いていく。一瞬にして、そこは草原になったのだった。

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2010/01/27,02/01

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