*07 星を治める存在/前編*

 『アカデミーの学生であれど、オーパーツの適合者は特例を除き軍属である。』 ―――地球法第206条、宇宙連邦軍法第48条より抜粋。

 この言葉は、現在、遥か前方にある、逆光によって出来た人影が、同時に走り出す直前に言った言葉だ。学生でも、軍人。適合者は、学事よりも軍事を優先するというのだ。

「…はぁ…っ、冬哉、速い…!!!」
「久しぶりなのも手伝ってるんだ…っ、あの速さ、人間じゃない…!!」

 前方の人影が遂に見えなくなった。逆光という条件も見えなくなる条件に含まれる。そして、逆光の光が強くなっていっているのは、外が近いという意味でもある。
 その光が、足を踏み出す度、強くなって、目が細められる。それに目が慣れてきて、その光景を見据えて俐咋は一歩足を引いてしまった。足を引いたと同時ぐらいだろうか、彼女の眼前に刃が迫ってきていて―――…。
 金属の重なり合う音、弾き返す音が耳に響いて、我に返った。

「俐咋ちゃん、こっからはよそ見は厳禁だよ」
「イサト、さん…」
「俐咋、ここは戦場だから、戦えないと生きてはいけない。今なら未だ戻れるよ」

 巳捺の言葉に、俐咋ははっとした。デスマスターであったときと、変わらない。平和は永遠に続くものではない。オーパーツが使えないから戦えないと言うわけではない。武器さえあれば、幾らでも戦うことは出来る。そう、武器さえ…あれば。
 学校だからと油断していたのだろうか。簡単な武器一つ所持していないとは…失態だ。

「俐咋!」

 聞き覚えのある声。その声がどこから聞こえてきたのか判らなかった。首を回してその声の主を探していると、上空から細身の剣が大地に刺さる形で現れた。その後数秒ずれて、黒い影が降ってきた。それに一瞬驚くが、直ぐに影の正体が判って、また驚く。

「星治、さん…」
「あ、或河大佐…!」

 イサトと巳捺が星治を見て、びし、と敬礼した。目の前で黒髪を靡かせる彼は、大佐という位を持っているような人。 外見は、父親なんて思えないくらい、若い。

「武器がないなら、こいつを使え。質はいいほうだ」

 大地に突き刺さった剣を引き抜いて、手中に納める。確かに、悪くない。これなら戦える。足手まといになんてならない。俐咋はチャキ、と剣を下段に構える。武器があるなら戦える。逃げなくてもいい、守られているだけにもならない。

「―――…お手並み拝見といこうか、俐咋」

 あの世界で創造主と呼ばれる人が、わざわざ連れて来ようとしたのだ。それなら、俐咋にはそれ相応の力があるはずなのだ。その挑発に、乗ることにした。無様な姿をさらけ出すわけには、いかない。

「自他共に認める体力バカなので、大丈夫ですよ」

 その言葉を合図に、俐咋はその刃を敵影へ向けたのだった。

* * * * * * * *

 己が手にする二本の刃が、牙を剥く。その牙を剥く度に響く音楽は、聞きなれたものだ。ざん、と勢い良く切り裂いて、崩れ落ちる音に、冬哉は短い溜息を吐き出した。

「これで根源は絶ったな…。あとは、向こうの残り…」

 振り返って、もう一度溜息を吐き出す。一人で突き進んで来ただけだ。他のことは、他の人に任せてしまった。今から戻って、殲滅しにいってもいいが、流石に身体は疲れを感じているようだ。刀の柄を持つ手が、僅かながら震えている。
 恐怖に震えている等ということはない。久し振りだからだろう。力み過ぎて、手が疲れてしまった。

「……、様子だけ見に行くか」

 彼女のこともあるし、向こうで何が起きているか、理解しえない。冬哉は、ゆっくりと大地を蹴った。

* * * * * * * *

「はぁあッ!!!!」

 手に伝わるその感触が嫌だ、なんて言っていられない。俐咋には判っていた。この世界に来てしまった以上、もう逃げることなど出来ない。剣を振るい、道を切り開く。デスマスターとして世界を守っていた感覚が、戻ってくる。そう、俐咋はこうして世界を守っていた。

「……さすが、あの人の娘というか」
「古参の一族だからというのもあるんじゃない?」
「唯…」

 ただの独り言だったのだが、妻に口を挟まれて、驚く。

「……そうかもしれないな。あそこは元々能力者の遺伝子を持っている一族だったし…」
「それなのに、ガーリシアを2セクターマスターズのトップにしなかった理由があるんでしょう?」

 唯が弓矢を構えて、放つ。纏めて放たれた矢は、一丸となって敵の腹部を貫いた。相変わらずの命中率に、星治は口元に笑みを湛えた。長い付き合いだが、特筆する変化がないからこそだ。

「……イーザだからトップにできない」
「……能力開花、か」
「なんで言わないのに判るんだよ。判ってるんだったら、俺に聞く必要ないだろうが」
「ごめんなさい、星治。確かめたかったのよ」

 そういう彼女の口元は笑みを形成している。判っているのに聞いてくるというのは昔からだったが、騙された様な感覚に陥る。

「あの子の母親、イリシア・ガーリシアの開花も遅かったんだったかしら?」
「……いや、イリシアは生まれたときから既に開花していた」
「じゃあ、何故イーザは…」

 母親と、こうも違うのだろうか。娘もその血を継いでいるはずなのだから、もう開花していてもおかしくないはずなのに。

「……イーザも生まれたときから開花していたんだが…」
「何らかの原因があって、その能力が封印されているってこと?」
「そんな感じ。その原因が何だかは知ってるんだけどさ…」
「星治…、知っているのに何もしていないの…?」

 それはわざとやっているのだろうか。知っていて、何もしないなんて彼らしくない、と思った。知っていたら、普段はすぐに行動に移す。

「……見つからないんだよ」
「え……?」

 見つからない。その原因自体が見つからないのか、原因は判っていても解決方法が見つからないのか。どちらかではあるんだろう。

「…解決方法も知ってる。知ってるけど、それに必要なものが見つからない」
「見つかっていたから連れて来たんだと思ってたんだけど…」

 見つかっていないのに、連れてきたなんて。他に理由があるということだろうか。

「本人には失礼なんだが、イーザは餌だ」
「え?」
「…だから、餌。俺の推測だと、この事件に関与している奴が、イーザの能力を封印した奴なんだよ」
「封印したなら、それ以上は関与しないんじゃないの?」

 要らないからと封印したのなら、封印されたままのイーザは要らないはずだ。その力が必要では無い限り、要らないはずだ。

「イーザの力ってのは、望まれて封印されたんじゃない。その時まで開花しないようにしたんだ。予知の能力で、気がつかれたら困るからな」

 予知の能力で気付かれる恐れがあるから、だから、封印した。来るべきその日まで。
 それを、彼女は知らない。

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2008/11/14,2008/12/17
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