*06 終わることを知らないアナタ/前編*

「…ちょっと待った」

 アカデミーの入学内定を貰って、入学予定者への資料を読んでいて、ふと疑問に思うことがあった。

「…魔法って、なんだ」
「その通り、魔法の授業ですが何か」

 足を組みながら『プログラミングなんとか』と書いてある本を読む冬哉をじっと睨む。ここはファンタジー世界なのかと俐咋の中で肯定せざるを得なかった。

「…他の所では魔法と言われてるけど、日本じゃ霊素なんて言われる。不可思議な力のことを魔法と総称しているだけの話だ。本当は悪魔が使う力って意味なんだけど」
「…あんたも使えるの?」
「そりゃ勿論。元々そういう血を引いてますし。なんてったって両親が神と大悪魔だぜ?」

 本を読むのを止めて、にやりと笑いながら俐咋に言う。なんともムカつく。

「…私はそんなの使えないと思うんだけど…」
「あっちの世界で使えたんだから少しは使えるはずだよ。殆ど意味を成さないって話しただろ? このことだよ」

 出力が違うだとかなんだとかで、デスマスターとしての力をそのまま使うことは出来ない。その話は確かに聞いた。それがまさかこんなことに関係してくるなんて。

「…むー…でも媒体が無いんじゃ意味無いのかなー…」
「媒体?鎌のこと?」
「…実際は鎌じゃなくて指輪なんだけど。そのことです」
「指輪なの!?」

 鎌としての形状しか見たことが無い。それを指輪といわれても、普通なら理解は出来ない。
 しかし、もともとの形状ではないという話を聞いている後だ。どんなものなのかというの想像はするが、まさか指輪だったとは驚きだ。

「オーパーツは色んな形状があるからねー。父さんは4種類のオーパーツを自分で使ってるけど、あれ本当人外の域…」
「確か、オーパーツって本来1人1つしか使えないって言う…」
「そうそう。だから人外。でも尊敬に値する人」

 コーヒーカップに手を伸ばして、コーヒーを啜る。…つまりあの読書は進んでやっていたのではなく、半ば強制されているということだ。冬哉は自分から進んでやることは眠くならない。その代わり嫌なことをやっていると眠くなってくるというもんだから、毎度毎度コーヒーを淹れさせられていた記憶がある。
 もうカフェインという麻薬が効果を成さなくなってもおかしくは無いと思うのだが、まだ飲むらしい。甘党なのに。

「因みに俺は宝石なので、ペンダントトップになってまーす」
「…宝石とか、似合わない」
「…何か言った?」
「似合わないなぁって思ったんですけど、何か?」

 負けず劣らず、黒い笑みで対抗する。この部屋の雰囲気が黒くなろうとお構いなしだ。

「…仕方ないだろ、適合してくれちゃったんだから」
「あ、折れた。永遠にネタにしてあげるよ、似合わない宝石のオーパーツ持ってるって」
「やめろ、凹む」

 はぁ、と短く溜息を吐き出すと本を机の上に乱暴に置く。余程気に食わないらしい。

「そういえば、アルトの…」
「冬哉。その名前をこの世界で呼ばれるとなんかヤだ」
「…はいはい、すいませんでした。冬哉のオーパーツの効果って何?」

 反省の色を全く見せずに聞くと、冬哉の眉間に皺が寄った。そんなにも、アルトと言う名を呼ばれることが嫌なのだろうか。

「武器への形状変化」
「…その宝石が、武器に?」
「そうだな…剣も刀も鎌も、杖だって出来る。ただ、その武器単体が俺に付加する力が一切ないんで、自分の身体能力が相当ないと辛いね」
「何ていうオールマイティオーパーツ。冬哉の身体能力が高いのは遺伝?」
「そう、だな…。或河一族の血ですかね」

 この世界にもそういう一族があるのか。記憶力がずば抜けて良いという一族遺伝は凄いと思うが、この遺伝もまた凄いと思った。

* * * * * * * *

 広い部屋に響き渡る、キーボードの入力音。それを発している本人の顔は、とても冷ややかだった。

「星治」

 名を呼ばれて、手が止まる。つんと鼻を割くコーヒーの香りに顔を緩めた。それを持ってきてくれた人物も、予想がつく。振り返るとそこには唯が二つのマグカップをトレイに置いて、運んできていた。

「データ見つからない?」
「…まぁ、そんなところ」

 差し出されたコーヒーを啜りながら、星治は眉をへの字に曲げた。

「同世代のデータが難しいって感じか…。17だろ、俐咋は」
「18にはデータ余ってないの? それくらいしても問題はないんじゃない? 冬哉はもっと上だし」
「そうだな…現18世代で探してみるか。クラックするの好きじゃないんだけど」
「クラックが好きだったのは……あの子だったかしら」
「そうそう、開発局長のあいつ」

 どれくらい前の話になるかなんて判らない。過去のことを数えようと思えば数えることが出来るが、進んで数えたくはない年月だ。

* * * * * * * *

「……」
「どうしたのよ、険しい顔して」

 じっと睨んでくる冬哉に、俐咋は厭味ったらしく返す。険しい顔で睨まれたら、気分が悪い。

「父さんからさっき連絡があって、身分証明みたいなデータが現17世代に余分データがないから無理なんだそうだ。
それで現18世代で探すって」
「うん、単語が良く判らない。砕いて説明してください」

 先に単語を説明してほしいと毎回言うのだか、彼はどうも単語の説明をするよりも先、内容を言う癖があるようだ。

「ああ、現何世代っていうのは、現在その年齢の世代のこと。俐咋は17だから、現17世代」
「そうなんだ…。で、18世代で探すってことは、年齢詐称をせざる得ないと」
「…まぁ、そんなところ」

 溜息を吐き出しながら、その目はやはり何処か虚ろ。こんな虚ろな顔は今までに見たことがなかった。

「なんか、迷ってる?」
「…そう見える?」
「や、良く判らないから。その身分証明についての話?」
「いや、違う。別の話で、お前に関わる事だ、って言ったら?」

 その言葉に、ばっ、と冬哉を見てしまう。自分のことだと言われて過敏反応するのは、当たり前だろう。

「…マスターではあるが、その能力は上手く発現しない。なのに、どうして父さんたちが俐咋を呼んだのか判らないんだ。自分で思うところあるか?」
「古参一族だって言うのは判るけど……それ以外は、特に」
「だろうな」

 呆れ声でそう言って、どかり、と椅子に座る。その面持ちはまだ迷っている、といったところだ。

「…俺の憶測でしかないんだよな、今は」
「憶測って…」
「父さんも母さんも何も教えてくれない。あの二人は何か知ってる。でも俺には、教えない」

 息子であり、長期に渡ってあの世界を支えていた彼にすら、負えないものなのかもしれない。逆を言えば、息子にはさせたくないという思いもあるのかもしれない。

「俺の憶測は、別に急かす必要もないから、言うのはやめる」
「言わないんだ…」

 はぁ、と短く溜息を吐きだす俐咋に、冬哉も苦く笑った。言ってもらえないのは正直不満ではある。だが、最近、俐咋は冬哉に対して、こういったことで焦らされているというより、彼は配慮してくれているのではないかと思うようになった。無駄な情報を取り込んで、判断が鈍るより、無駄な情報を取り込まないほうが大事なことだと思う。

「急用だったら直ぐ言うさ。そこまで俺も鬼畜じゃない」
「も、って何なの。複数系だけど」
「父さんも、なんだよ」

 そうか、彼は父親に似たのか。異性の親に似るとはよく言うものが、彼は珍しいかもしれない。母には似ず、父に似たのだから。
 そういえば、似ている似ていないと言うことで俐咋は思いだすことがあった。冬哉の軟派な性格は、父母のどちら譲りなのだろう。どうしても気になっていたのだ。見ている限りでは全く判らなくて、聞けるなら聞いてしまいたいと思っていた。丁度いい機会だし、と聞いてみることにした。

「冬哉のその軟派な性格はどっち譲りなの?」
「これは俺特有。父さんはモテるけど母さんにベタ惚れだし、母さんは母さんで父さんにベタ惚れなんだよね…。あーもう甘ったるいったら」
「そんなに居づらいってわけでもないけど…」
「俐咋は知らないから言えるんだって。あの二人、凄いよ。何千年生きてるか知らないけどあれが続くから凄いもんだと思うね」

 何千年、と冬哉が言って、また疑問が生まれる。冬哉自身は、普通の人間と…冬哉の言葉を借りるなら、現何世代と同じなんだろうか。

「ま、俺もそんな親と百年は暮らしてるんだけどね」
「ひゃ、百年!?」
「ああ、そうか、うちは全員が常識外れなんだった。百年なんて、普通の人間は生きていられないもんな」

 自嘲の様な笑いを絞り出して、目を細める彼を見て、何世代なのかを聞ける雰囲気ではなくなってしまった。
 人間と違うということは時間の感覚すら狂わせるのだろうか。俐咋の中に、ある種、別の世界からやってきた自分は、どれくらいの命なんだろう、と頭の隅で考えが生まれる。それを彼に聞いても、多分、判らない。でも、小さかった考えは次第に大きさを増していった。

 わたしはあと、どれくらいいきることができるのだろうか?

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2008/04/27,2008/09/16
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