*05 INTRODUCTION/後編*

「一応転入扱いになるみたいだね、俐咋は」
「そうなんだ…。転入のテスト受けなきゃいけないんだよね」
「まぁ転入学のテストはそんな難しくないはずだし。基本が出来てればどうにかなるでしょ」
「基本がやばい人はどうすれば良いんですか」
「…じゃあ実技クラスに転入しなさい。俺と同じクラスになる確率高いけど」
「年齢違うのに!?」

 そう、アルト…或河冬哉はこの時代で22歳なんだそうだ。それなのに17歳の俐咋と同じクラスとは、どういうことだろう。大学や専門のように、年齢問わずの学校なのだろうか。

「俺実技はいつも点良いんだけど、少しある筆記が面倒でテスト出ないんだよね。授業も殆ど出ないから単位落としてて上行ってないだけ」
「うわー…問題児だ。問題児がいる」
「既に問題児扱いですが何か」
「本当にされてるの!?」
「本当」

 きっぱりと言い切って笑う。どうして留年して笑っていられるんだろうか。

「アカデミーってさ、最低年齢が16なんだけど、俺元々18で入学したんだよね」
「…で、2年休学?」
「そうそう。聞いてたんだ?」
「ばっちり聞こえてました」
「だから実質2年しか授業受けてなかったんだよねー。ま、復学なのでまたつまらない日常ですが」

 そう言いながら、アルトは一つの扉に手を掛ける。この扉は何処へ繋がっているんだろう?
 冬哉が扉を開けると、わっ、と活気付いた声が聞こえてきた。―――体育館だ。体育館だが、見物席のようなところに出ている。視界の端に階段が見えるからそこから降りるのだろう。

「見ての通り、ここが体育館。基本的に実技クラスはここで授業するね」

 流石は実技クラス。言い換えるなら体育会系クラスだろうか。

「あ、或河!!!」

 声がした。2年休学でも判るもんなんだろうか。

「お前何処行ってたんだよ!2年もいないとか!」
「2年居なかったのに俺が判ったお前が凄い。留年したか?進級したか?」
「2年生で留年。で、今3年生だよ」
「ほー。俺は相変わらず1年生です」
「そりゃ留年したと思ったら休学だからな!」

 丁度良いテンポで会話が進む。どうやら冬哉の知り合いのようだ。彼も留年しているというが、逆に取ると進級が難しい学校なのではないかとも思う。

「で、急にどうしたんだよ。あ、バスケでもやるか?」
「バスケって…何、今からやるところだったのか?」
「そうそう、人数足りないんだけどやろうってことになってさ。あ、丁度良いからお前は入れよ」
「強制ですか」
「強制だ」

 そう言われて冬哉が仕方なさそうにやってやるよ、と言う。体を動かすのは好きであるはずだが、嫌なこともあるようだ。
 私の案内はどうなるんだろう、と俐咋は頭の隅に思うが、もうどうでも良くなってきた。冬哉と居るといつもそうなる。不思議だ。

「で、これ誰?」

 漸く、冬哉の友人は俐咋という存在に気付いたらしい。

「賀瀬俐咋。 転入予定の子ですよ」
「ほー…実技クラスに?」
「多分…その予定ですけど」

 筆記は嫌いだから、筆記の少ない実技に入るだろう。そんなに実技が悪いという気もしないのが事実だ。

「で、何、お前の彼女?」
「さぁねぇ」
「ファンが泣くぞー彼女かー…」
「なんで肯定してんだよお前」
「違うのか?」
「違います」

 頑固否定しておいた。

「まぁとりあえずバスケだ。或河、入れ」
「はいはい…仕方ないなー。俐咋、ちょっと待っててよ」
「待たされるのは慣れましたー」
「うわ、痛い言葉」
「だって事実じゃん。あんた作業遅いから終わらん終わらんで一体どれ位困ったことか…」
「あーはいはいその話はもう後で!!!」

 無理やり俐咋の話を切ると、手すりに手を掛けて下へ飛び降りた。相変わらずやることが派手だ。と思ったら、冬哉に話しかけたその人も飛び降りたのだった。

* * * * * * * *

 確かに冬哉は、運動神経はずば抜けているようだ。バスケを観戦していて思ったことがそれだ。いつの間にか観客が出来ているし、何やら冬哉のファンだとか言う子までいる。外見は人気が出るのも判らなくない。性格というか、あの変態さはどうにも納得ならないのだが。

「……格好良い、ねぇ…」

 自嘲気味に、手すりに持たれかかりながら言う。確かに外面は格好良いのだ、あれは。変態じゃなければ、いいのになんて、女の子らしいこと言ってみた。変態じゃなかったら、彼を好きになっていたかもしれない。たまにどきっとさせられる行動をすることは、よくあった。だから、変態ではなかったら好きになっていたかもしれないと自認はしている。

「あ、俐咋!!!」

 俐咋を呼ぶ声が聞こえた。この場で俐咋という名を知っている人物といったら、一人しかいない。即座に何が起きたか気付く。バスケットボールがぶっ飛んできてるじゃないか。それに気付いて、まるでスローモーションのような、けれど素早い動きでそのボールを蹴って返す。するとそのボールは冬哉に命中してしまった。

「あ、ごめんー!!」
「お前なー!!!何も俺を狙わなくても良いだろ!!恨みでも買ってたか俺!?」
「…それはいつでもだな…」

 冬哉には聞こえないであろう音量で言う。確かにいつも恨みを買うようなことをしてるバカはそこに居た。

「まぁ条件反射はいいから転学のテスト受かるだろ…」

 ぽつり、と少女の心配を小さく呟いて、転がったボールを手に取り、再開するぞー!と言って、また走り出した。

* * * * * * * *

「…元気ですねー」
「それ、嫌味?」
「かもね」

 日は暮れ、オレンジ色のグラデーションが綺麗な空。バスケが終わって、ゆっくりと帰路についた。

「やっぱ外面良いからファンとか出来るのかなー」
「何、外面良いって。酷いな」
「だって事実じゃない、仕事はサボるわ変態だわと」
「貶されまくりだな俺」

 俐咋が言っていることは事実なのだから、仕方が無い。それを判っているのだろう、彼は溜息を吐きだした。

「でも」
「わ…っ!?」

 とっ、と壁に手を着き、この先へ俐咋を行かせないように閉じ込める。突拍子もなくこういうことをするから、俐咋曰く、彼は変態なのである。

「…変態ってのは、凹むな」
「自分で言ってるんでしょうが」
「実際言われると凹むの」
「バカじゃないの?」
「バカですから」

 はぁ、と短く溜息を吐き出して、その檻をしゃがんで抜ける。そうして早歩きで進みだすと冬哉が苦笑しながら隣に並んだ。

「素っ気無いよ」
「いつもと同じです」

 普段見慣れたアルトと少し違うから、かも知れない。不覚にも心拍数が上昇しているのが自分で判っていたから。

「何、俺に惚れた?」
「やっぱり死んでおくべきだあんた」
「酷いな」

 苦笑が聞こえる。こんなやつに惚れて溜まるか。今は、私の世界を直すためにこの世界に来ているのだから、そんなことなどしていられないのだ。
 俐咋は、そう心に誓った。

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2008/01/20
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