*05 INTRODUCTION/中編*

「…え、リロード失敗したの?」

 普段の賀瀬家とまるで変わりのないその食卓。眠たそうに姿を現したアルトがそう唐突に話に割って入る。するとアルトの父(確か、星治)は嫌そうな顔をして酢の物に箸を進ませた。

「失敗したも何も、お前が環境設定しないからだろ」
「うわー、痛いです。久々すぎて忘れた」

 食卓の椅子を引いて俐咋の隣に腰をかけるアルト。その『環境設定』とやらが今一わからない俐咋は首をかしげた。

「固定は問題ないんでしょ?」

 たたん、と机を叩いてアルトの目の前に電子キーボードが現れる。この世界でもそんなことできるのか。

「固定は出来た、が…安定してない」
「何処間違えたんだろ…」

 うーん、と考えるアルトの前に箸が揃えて置かれ、食事が揃ってゆく。

「俐咋の出力は?」
「あ、やってないかも」
「…自分より俐咋ちゃんを優先しなさいって」
「はーい…」

 電子キーボードを左手で叩きながら右手には箸。普通に見たらかなり行儀悪い。

「…行儀悪いって思わないんですか?」

 ふと口にしてみると、メイラ…唯が笑いながら言った。

「今更、っていう感じかしら。私たちの生きていた時代が電子の時代で、そこの人なんてキーボード打ちながら、もう片方で判子押しやってたこともあったわ」
「いや、でも食事中…」
「団子食ってる時もあったな、懐かしい」

 コーヒーを啜りながら言う星治に、この親だからこの息子が生まれるのだろうか、と少し考えてみる。ならば、アルトの変態部分はどちらから継がれたものなのだろうか。

「…っし、終わり」
「入力速度速くなったわねー、冬哉」
「父さんには及ばないよ。あれ人外だって」
「悪かったな人外で」

 食事中にする会話としてかなり間違っているような気もするが、気にしないでおこう。

「で、冬哉」
「ん?」
「今日、俺らこれから出勤予定なんだが、お前どうするんだ?」

 昼下がりにこれから出勤予定って。思わず突っ込みそうになった。普段の仕事は一体何をやってるんだろう、この人たち。

「どうするかなー…アカデミー休学中だし…」

 休学中って。しかしこいつ学生だったのか。
 さっきから突っ込みを入れるところが多すぎて、だんだん疲れてくる。言葉にしていないだけ疲れないのだろうが、それでもやっぱり疲れる。

「俐咋ちゃんに町の案内でもしてあげたら? 当分ここで暮らさなきゃいけないんだし」
「あー…それがいいか。ってわけで俐咋、俺に付き合え」
「うわ、命令形かい」
「出かけるならお洋服必要よね…。私の服でもいいかしら?」
「あ、別に構わないです」

 そうして、この世界に来て早々、アルトに連れ回されることになったのだった。

* * * * * * * *

「…なんだろう、このデジャヴ」
「だって第2セクターは現代そのものをイメージして作られたから」
「的確に突っ込まないでよ…本当狂うな…」

目の前にしているものが全て、自分の住んでいた世界と変わらない。それが怖い。自分の家があって、マコト達が居そうな気がしてくるから。

「で、何処行くの?」
「予定は特に無いなー。そのあたりぶらつくか」
「適当だなー…」

 そうして適当に歩いて、坂を上って、上って、疲れた頃に丘に出た。丘からは町が眼下に広がる。その町並みを見ても、変わらなくて、怖い。

「こうやって見渡しても、やっぱり変わらない…」
「違うのは、俺が生きている世界であるということ。…俺が生きてきた、現代であるということ」

 そう、これはアルトの本当の世界。本当に生きるべき世界。

「…普通に見えるけど、意外と特殊能力使えるみたいな人が多かったりして?」
「大正解。…そうだな、後ろ見てみろよ」

 言われて振り向く。アルトの向こうに見慣れないものがあった。
 機械が、空を飛んでいるのだ。飛行機なんてものじゃない。宇宙船とでもいうようなものが―――…。

「あそこが俺の両親が勤めてる宇宙連邦軍地球支部。父さんも母さんも、何千年も前の人間だけど、ずっと同じ軍に勤めてるんだと」
「何千…!?」
「…既にその記録が薄れているから、今も仕事が出来るんだとか。俺が生まれたのは、父さんたちからしてみればつい最近だから、詳しいことは判らないんだけどな」
「…そんな長寿なの、この世界? 外見だって若いまま…」
「父さんたちが異常なんだよ。というか、或河一家が異常というべきかもな」

 訳が判らない。どうしてこんなにも長生きで外見は若いままなのだろう。

「…神様、なんだよ」

 唐突にアルトの口からその言葉が出て、俐咋は聞きなおそうとまでしてしまった。 神?世界を創るとか言う、神?

「…父さんは神様。母さんは大悪魔。そんな家庭に生まれた俺はリタンダという種族」
「…何、それ…」
「それが、ゼフィアという一族の正体だ」

 その言葉がとても耳に残った。 鮮明すぎるくらい、鮮明に。

* * * * * * * *

 信じがたい。神様なんてものが存在するなんて思ったことが無かったから、余計。
 そんな考え事をしていたら、気付いたらアルトの通うアカデミーとやらに到着した。

「俐咋」

 アルトがこう呼んだときはどうすればいいのか判ってる。冬哉、と呼ばなければいけない。彼の本当の名前はアルトではなくて、冬哉だからだ。アルトとこの世界で呼んでも、彼は振り返ってなどくれない。

「多分そのうちにこのアカデミーにぶち込まれると思うから」
「はぁ!?」
「そうすると都合が良いんだ。…逆に暗躍しやすいの」

 ぼそり、と言われた言葉も聞き取れた。成る程、そういうことか。立場的に動きやすいというだけか。

「ここに首謀者がいるとか、そういうわけじゃないよね…?」

 そうだったらそうで凄い気がする。あの世界全体を動かそうとするなんて学生には出来ないだろう。

「そういうわけじゃないけどさ…。世間体が良いって言うか」
「だろうと思った」
「そんなわけだからアカデミーの中も案内するよ」

 休学中じゃないのか、と突っ込みたくなったが敢えて突っ込まないで置くことにした。何故なら、今目の前でアルトは校長らしき人物と話をし始めたからである。

「或河君、一体何年休学するつもりだ」
「今んところ2年休学でしたね」

 2年。それはアルトが私にとって本物のあの世界で過ごした日の長い日々なのだろうか。それがこちらではその程度なのだろうか。

「大丈夫ですよ、復学しますから」
「復学するなら後日再テストが必要になる。期日はこちらで決めさせてもらうが、良いかね?」
「構いませんよ。両親仕事詰めですし」
「両親は素晴らしいのにお前はどうしてこう単位を落としてばっかり…」

 単位を落としてばっかり? 聞いて笑いそうになる。というか、意外だ。頭が良いと自分で豪語していたはずなのに。

「だって面倒じゃないですか、筆記テストなんて。実技テストだけなら受けます」

 …なんてやつだ。

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2008/01/20
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