*04 創造主/後編*

「……あれが、アルトのお父さん…」

 館の長くて多い廊下を歩きながら、イーザは考える。あれはどう見てもおかしい。アルトと年齢が殆ど変わらなく見える。あれで、親子だというのだ。

「…そのままだと、柱にぶつかるよ」

 予期していない声に驚き、眼前を見て柱があることに気付く。
 呼び止めたその声は、後ろからした。イーザは自分のツインテールを揺らして後ろを振り向く。そこには、先程まで考えていた人物がいた。

「あ、創造主様…」
「堅苦しいからそれやめてくれないかな。って、俺が名前名乗れないとか言ってるからか」

 黒髪の、男性。そう、アルトの父親でありこの世界の創造主。

「名前、名乗れないのって…名前言うと、何か不都合があるんですか?」
「いや、この世界では不都合は無いね」

 即答。不都合が無いのに何故、名乗ろうとしないのか。それが、不思議で仕方が無い。

「そう、君にも話がある。あっちの書庫で、話をしても良い?」
「あ、はい…」

 アルトの話だろうか。それとも、創造主自身の話だろうか。どちらにせよ、気になる。

「アルトから既に、聞いているかもしれないけれど」
「何か…?」
「この世界のこと。ここは、本当に作られた世界であること」

 躊躇いも無く、口にした。『作られた世界』である、という事実を。

「……はい、聞きました」

 そう答えると、呆れたようなため息を吐き出して、創造主は言う。

「本当の世界、そこはこの世界の管理者は『マザーワールド』と呼ぶ。そのマザーワールドはこの世界なんかより技術の進歩が目覚しい。だけど、ね」

 とん、とん、とテンポ良く机を爪で叩く。彼の癖、なのだろうか。

「…マザーワールドの地球は、既に4度滅びた」

 そもそもマザーワールドが元になっているとは言え、同じ場所がある、ということが信じられなかった。それまで、彼は似せたのだ。

「で、今マザーワールドの地球は5回目の滅亡を迎えようとしている。他の星に殆どの人間が逃げているから何が起きてもいいのかもしれないけれど…。まだ結構な数の人間が、そこにいるんだ」
「何でそんな話を私にするんですか」

 当然の疑問。突然の質問。それに、創造主は口元を緩ませた。

「…イーザ、イーザ・ガーリシア。君が使っているその鎌、本来の姿では予知能力を持つ」
「え…?」
「そうだね、何て説明しようか」

 そう言って手を振る。その動作は何か呪文を簡略化したような、動作。
 その動作でヴン、と時空が揺れて、彼の手には鎌が握られていた。それはどこか、懐かしい気がする。いや、その気配を、知っているような気がしたのだ。

「天神の鎌、ジエスノース。ゼフィアに仕える、『ルサ』の武器」
「な…」

 他人の武器を、召喚した。しかもその武器の所持者はルサ。聞き覚えが無いわけじゃない。寧ろ、ありすぎると言ったほうが良い。

「倉庫に篭ってる人、ですか」
「そうだね、ルサは…今は篭ってるね。でも彼も、君らデスマスターと同じ能力、いや、彼はそれ以上の力を持つよ」
「アルトよりも、強いんですか…?」
「さぁ、どうだろうねぇ。アルトは俺の息子だし、ルサは俺の兄弟と言える。若しかしたら互角かもしれない。若しかしたら、ルサが強いかも」

 そしてその鎌は、光を帯びて一瞬で消えた。恐らく、元の持ち主に戻ったのだろう。

「デスマスターの鎌、1セクターでは形状が違うのを疑問に思ったことは無いか?」
「…有ります、それは勿論のこと」
「デスマスターの武器である鎌となる媒介、それはオーパーツと呼ばれる今の技術を持ってして作り得ない物。特殊な力を宿す物。俺は、それを加工してデスマスターに与えた。強い魔力を持ち、魔法に似寄るものを扱える者は、本来の形状を保つことが出来る」

 それこそが、1セクターデスマスターの武器。魔法を扱える者たちだから、本来の形状を保つことができる。

「2セクター以降のデスマスターも、使おうとすれば本来の形状にできる。けれど、それは相当な力が要る。何か起きてしまった後では遅い、だから俺が形状を固定させた」
「じゃあ、創造主である貴方が、それを解除すれば」
「あぁ、元の形状に出来る。しかし、それは…多分、マザーワールドでは意味が無いんだ」

 マザーワールドでは意味が無い。その言葉の意図が、全く掴めない。それはどういうことだ、と質問するのは、自然な成り行き。気になって仕方がない。

「言っただろう、この世界は俺によって作られた世界だと」

 作られた、と言うその言葉。その言葉が、関係しているのは判る。けれど、何が、意味がないのだろう。彼は、ここまで言っておいて教えるつもりはないのだろうか。ずっと睨んでいると、彼は口元に笑みを湛えて、言葉を紡いだ。

「本来、マザーワールドだとデスマスターの力は無いに等しいのさ。力の出力を弄っているから」
「マザーワールドへ行ったら、与えられた武器は扱えないって事ですか?」
「そう。俺やルサは元々マザーワールドの人間だから使えるけどね」

 その分、こっちの世界で抑えないと大変なことになるんだけど。そう創造主は笑いながら言った。これは、笑い事じゃない。デスマスターは、本来そんな力など持っていないと言われているようなものではないのだろうか。

「じゃあ、アルトは…」
「『アルト』も一応はマザーワールドの人間だよ」
「一応、って…」

 何故、一応がつくのだろうか。また疑問が浮かんで来てしまった。

「あいつは、混血だから」
「混血?」
「その話は、聞きたかったら本人から聞くと良いよ。幾ら息子であるとはいえ、俺が勝手に話して、喜ぶことではないから」

 触れてはいけないことなのかもしれない。いや、そうなのだろう。だからこうして逸らすのだ。

「とりあえず、君がここに居ることが必然であるのは確か。予知のオーパーツ使いなんて、滅多にいないもんだから」
「その、オーパーツってのがいまいち判らないんですが…」
「それは、追々説明していくつもりさ。君はもう0セクター以外には居られないから」
「え…?」

 0セクター以外には居られない―――。つまり、2セクターにも帰れないということか。

「どうして…ッ!?」

 帰ることが出来ない…? そう思うと何かが込み上げて来る気がした。目の前の者が例え、この世を創造した者でも、その怒りをぶつけられずには居られなかったのだ。

「これはアルトも知らない事。この世界だけじゃどうにも出来ない問題が起こってるんだ」
「…っ…な………」
「で、ついでで悪いんだけど君にも来てもらおうかと思ってね。一応古参一族だから相応の力はあるだろうし」
「……あの…話が…」
「よく判らなくて当たり前だ。この話は俺やルサ、メイラぐらいしか知らない事だから」

 そんなに重要そうな話を、何故この世界の長であるアルトには話さないのだろう。私よりも、アルトのほうが数倍も強い力を持っているのに。

「明日、アルトと君を連れてマザーワールドへ行く。随分と発展しているから、見たら驚くかもしれないね」

* * * * * * * *

 明日、そう明日。私は生まれ育った『世界』を離れる。
 この世界しか存在しないのだと思っていた。セクターで区切られていても、この世界しかないのだと思っていた。なのに別に世界があった。そしてこの世界はその世界を元に創造主が作り上げた世界だった。

 私は本来なら存在し得ない存在なのか。そう思うと涙が溢れそうになった。
 私はマザーワールドでは殆ど力を使うことが出来ないのだろう。創造主の話からしてみれば、だが。

 私なんかが行く必要があるのか。力が殆ど使えないと、創造主自身が言っていたではないか。それなのに、

「―――どうして、行かなきゃいけないんだろう…」

 その言葉ばかり、口に出た。

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2007/07/19,2009/09/17
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