*04 創造主/中編*

「帰って来て早々これはないでしょうこれは」

 これ、と彼が言ったのは自分の状態。戻ってきたと同時、何本ものナイフにより壁に磔になった。

「『創造主』だって、ばれたんでしょ。ばらしたんでしょ」
「…よくもまぁご存知で」
「1セクターだけでしょうけど。全体にばれるようなことがあったらどうするの?!」
「そんなに憤るようなこと? 俺には出来ないことは無いんだけど」

 にこり、と彼が笑うと同時、カランカラン、と音を立てて、ナイフが床に転がった。

「だってほら、神だし、ねぇ?」
「……ばか…」
「ごめんごめん、こっちで言うと10年ぐらい留守にしてたからな」
「…良かった、生きてて」
「んな簡単に死ぬかよ」

 今にも泣きそうに破顔した女性を抱きしめて、落ち着かせる。長い間留守にしていたのだから、心配させて当たり前だと自分の仕事の遅さを悔いた。
 それから、女性とともにその部屋を出た。

「…あーやっぱり久々すぎて慣れない…」
「そのうち慣れるんじゃないかしら?」
「そう、だな…」

 明るい場所に来てようやっと判る。男性は黒髪、女性は緑髪。まるで、その二つはアルトの髪の色を分解したような色。

「…冬哉のヤツ、元気にしてるかなー…」
「今頃、仕事中よ」
「仕事、ねぇ…。報告書の整理ぐらいしかないだろうに」
「それでも、仕事には仕事だわ。『創造主』の貴方の代わり」

 『創造主』の貴方の代わり―――そう女性が言うと、男性の顔は曇った。
 男性は、女性を「唯」と呼んで呼び止めた。

「―――本当に、そうだと?」
「そうだとしたら、嫌だわ。あの子を成長させるにはコレが一番早い、判ってるわよそんなこと」

 ぷすん、と怒る素振りをする唯に男性は笑う。それを聞いて、それならよかった、と口にした。

「…時間の猶予は、余り無いんだ―――」

 その男性の横顔は、酷く儚く見えた。

* * * * * * * *

「…あの人が、帰ってきた」

 仕事をしていた手を止め、アルトがふ、と口にした言葉。その言葉にイーザは話を止めた。それから数秒して、アルトはペンを放り投げる。

「っだー!面倒だー!」
「文句言わないでよ! この間仕事すっぽかして居眠りしてたの誰よ!」
「俺だよ!それが何か!?」
「開き直んな!」

 ばしん、と書類の束で一殴りする。それに懲りたのかアルトは、唸りながら先程もしていた仕事に手をつけた。

「…で、あの人って誰?」

 先程アルトが口にした言葉、『あの人が、帰ってきた』。この言葉がやけに引っ掛かる。

「…、そんなに知りたいの?」
「知りたくなきゃ聞いてないと思うんだけど」
「…俺の父さんだよ」
「…まじで?」

 驚く、というより言葉を失った。ずっと帰って来て居ないとアルトから聞いているアルトの父親。その人が帰ってきたらしい。

「そのうち来ると思うんだけど…。あの人、神出鬼没だから気をつけてね」
「気をつけて、といわれても…知らないからなぁ…」

 会ったことが無いのだから知らなくて当然のこと。気をつけろといわれてもどういう風に気をつければいいのやら。

「えーっとね、黒髪で…」
「おーい、アルト居るかー」
「……噂をしてたら来ちゃいました」

 アルトの声は何処か諦めが漂っていた。そんな気がする。
 首だけ、声がした方向へ向ける。そして、イーザは動きを止めた。

「あ、そっちの子だっけ、ガーリシアの」
「………」
「…無言?」
「驚いてるんでしょ、イーザ。俺が父さん、って言ってるのに外見年齢あからさまおかしいから」

 アルトと並べて考える。どう考えても兄弟程度にしか見えない。それほど、外見が若い。それなのに、彼の父親だといわれても、納得できない。

「…あー、色々事情はあるから名前は伏せる」
「伏せて良いのか、伏せて!」

 アルトに突っ込まれて苦笑する。それしか今は方法が無いらしい。

「…おーい、聞いてるかー、イーザ」

 彼女の目の前で手を振ってみる。反応が無い。目を丸くしたまま。どうしたものか、とアルトの父親が唸る。

「突然すぎたかな、ごめん、『アルト』」
「それを強調して呼ばないでよ」
「…まぁ、いいや。話があるから後で『いつものところ』においで」

 にこり、と笑みを形成して踵を返す。扉を開けるかと思えば、その動作をして扉を開けずに姿を消した。それからイーザを見て、未だ固まる彼女をどうしようかと思いながら、アルトは仕事に向かった。

* * * * * * * *

 創造主は、黒地のスーツに白いYシャツ、赤いネクタイに着替え、館の中を歩き回っていた。中庭に着いて、そこを見回すと、見知った顔の青年がいて、歩み寄った。

「やー、久し振りだな。身体は異常ないか」

 その声に、声をかけられた白銀の長髪を持つ青年は、一瞬目を丸くした。戻ってきたのか、と安堵したような顔つきで、創造主の問いに答える。

「あぁ、お陰様で。あっちへ戻るとこれは維持できないと思うが」
「その時はその時、昔と同じにすれば良い」
「…有難う、感謝し切れん」
「俺が留守の間、色々仕事をさせて済まなかったな。こちらでは精神体を具現出来ても、あまり仕事をさせるのには向かないだろうに…本当にすまなかった、ラヴィス」

 その名前も、懐かしい。そう青年が呟いて、創造主は慌てて彼をルサ、と呼びなおした。

「……そうだったな、お前の名前は、ルサだった。悪い」
「いや、いい。昔のことを知っているヤツしか、この名は判らないだろうしな」
「俺と、リノスと、ルヴォラと、ティオスと―――そして、エリアス、か」
「待て待て、ルヴォラもエリアスもいないだろ。ティオスもいないか」

 全て懐かしい名前だと思いながら、その名を紡ぎなおす。ああそうだったなと創造主が悲しそうな顔をするのを見て、青年も過去のことを思い出し始めていた。

「あんな世界にならないことを、望むばかりだよ」
「少なくともこの世界は、お前が掌握してるだろ」

 その言葉に、創造主はそうだなと短く呟いて苦笑した。

「だけど、この世界にも限度はあるんだよ」
「……判ってる、それくらい。俺だって元は、あっちの世界に産み落とされた人間だ」
「そうだな…、そうだった。だから、彼女にも知ってもらわなきゃ」

 一瞬にして真剣な顔つきになった創造主に、ルサは彼がやろうとしていることに確信を持った。

「話すのか、イーザに。あの真実を」
「いや、全てを話すにはまだ早い。うちの息子にだって言ってないことが山ほどあるんだ」
「……だが、ある程度のことは話すんだろう?」

 そう、彼に問うたら、創造主は苦笑気味に笑みを形成して、頷いたのだった。

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2007/05/16,2009/07/19
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