*03 待ちぼうけ/中編*

「……ふあぁあ…っ!」

 良く寝た―――そう思って、体を起こす。窓から射す朝日が美しかった。こんなにも美しい朝日を見たことは、なかった。
 もう、丸1日経ってしまったのだろう。彼らを送り出したのは朝であった。そう、日が昇った直後だったはずだ。その後、別れたのだ。
…彼らと永遠の別れをしたのだから。

 会うことは出来る。でも、俐咋と言う人物の記憶は彼らから消されている。それを戻すことが出来るのはアルトだけだ。でも、戻して、とは頼まない。記憶を消しておくことが最善だと知っているから。

 そういえば…何故自分はベッドに居るんだろう。はたと気付いて辺りを見回す。そこは余り見慣れない部屋。だけれど、見たことがあるような部屋。―――さぁ、ここは何処だろう?

 ふ、と目を伏せて視線を横にやる。するとそこに穏やかな寝息を立てて寝ている…青年の姿。
 普通この状態だと怪しく思われるだろう。でも、アルトは気を遣ってくれたのかもしれない。肉親や親友と別れた私を…落ち着かせるために。

「…アルト」

 名前を呼んでみる。けれど、反応はなかった。
 こうして彼を見てみてるととても幼く、あどけなく見える。けれどアルトはイーザより年上で。

「…有難う…」

 そう静かに告げて、イーザはその部屋を出た。メイドなんかが来た時あのままだと勘違いを引き起こされかねない。
 それから滞在時に与えられた部屋―――ゲストルーム・ガイア。イーザはそこに戻った。

「…別れたことは、最善なんだよ…」

 そう自分に言い聞かせて。それは仕方が無かったのだと。そうするべきであったのだと。

「…しょげすぎ」
「…ノックなしに入ってくるの止めてって言ったじゃない」
「まぁ、扉が開いてるのがいけないってことで」
「…もう、そこまで文句も言わないけどね…」
「そんな事言ってるといつ俺に襲われるか判らないぞ?」
「そん時はそん時でどうにかするわ」
「んでもってバッドニュース。早朝から悪いな」
「何かあったの?」
「セクター間の魔力出力が低下中」
「…っ、それって…!」

 セクター間の魔力出力が低下している、ということはそのセクターがこの世界から切り離される、ということ。セクター間で魔力を放出し、その魔力を受けとるということでセクター間を繋いでいたのだ。

「だから少しばかり急がせて貰ったんだ。お前は2セクターに帰れなくても何とかなるだろうが、あいつらはずっとここに滞在させるわけには行かないからな」
「…気を使ってくれて、有難う」
「いや、俺のためのようなもんでもあるしな。気にするな」
「じゃあ、気にしないようにしておく」
「ん、それが最善。で、2セクター以下が切り離されようとしてる。2セクター以下に何があるのかは良く判らないが、そんなに強大な力は無いはずだ」
「確かに…1セクターとゼウスは異常なまでの魔力があるけど…」
「逆を言えば、2セクター以下は支配しやすい地域とも言える。しかしながらそれをするには管理者権限が必要になる」
「…管理者権限?」

 聞いたことの無い言葉に首をかしげるイーザ。どう説明したら良いものか、とアルトは後ろ頭を掻いた。

「まぁ、そのことを話すとなると、この世界…それからこの世界の母体を話さなきゃならない」
「…母体って…?」
「それは…ゼフィア一族及びその親族、血縁を有する者でなければいけない」
「…最重要機密…」

 管理者―――その名称は恐らくこの世界の本来の意味で使われている言葉だろう。アルトなどのこの世界の出生を知る者は全てを知っているであろう。だからこその言葉も存在するはずだ。

「…お前、パソコンみたいな部類のものって使えるか?」
「一応…2セクターにあるような2Dディスプレイのものだったら」
「まぁ、2Dでも使えるなら話は早いな。退屈かもしれないが一応聞いておいてくれ」

 そう言って、アルトは手近の椅子に腰掛け、話を始めた。

* * * * * * * *

「管理者、というのはいわばマスター。パソコンでも管理者権限と呼ばれることがあるかもしれない」
「あ…もしかして、その中枢っていうか…なんていうんだろう。えーっと、別にユーザーを作っていない場合とか、初期の状態でパソコン起動したときに出るやつか!」
「まぁ、そんな感じ。そんなにパソコンに関して知識が無さそうだからあんまり追求はしないけど…」

 確かに普段パソコンはそんなに使わない。デスマスターと学生の両立が忙しくて趣味の余裕が余りなかったから。

「この世界をパソコンの中身と考えてくれて良い。ここ、ゼウスはディレクトリ直下、と言い表せば良いかな」
「…ってことは、デスクトップとかマイコンピュータみたいなのが存在する…ってこと?」
「判りやすいんだか判りにくいんだか…まぁいいけど。それがさっき言った母体。けど、詳しい話をすることは俺の権限では許されてないからうちの両親戻ってきたらね」

 まさかこの世界をパソコンに見立てるなんて。そんなこと思っても見なかった。

「現在の状況は、いわばウィルスが入った状態。ウィルス駆除の機能は確かに働いているけど、それでも対応できないほど強力なウィルスなんだ。イーザ、つまりはどういうことか判るか?」

 パソコンにウィルスが入った。ウィルス駆除ソフトでも駆除できないとてつもないウィルスだった。さぁ、そうしたらどうなるか。

「……パソコンが、壊れ…ってまさか!?」
「そう、そのまさか。世界の崩壊が始まる」
「じゃあ…っマコトたちを助けた意味は!?」
「あるさ。マコト達は深い領域に居る。ならウィルスが回るまで時間が掛かる…ほんの数秒かもしれないがそれでも…」
「上で駆除をすれば間に合うかもしれない…?」
「そういうこと。そんなもんだから今メイドやら執事やらが地下で奮闘してくれてる」

 この屋敷は広い。少し考えれば地下があるという疑いも掛けられるだろう。

「そう。この屋敷の地下は立ち入った者全てが驚く空間になってる。何せ、3Dディスプレイの山だからね。青白い画面だらけで目が痛いというヤツも居たな」
「…信じられない…この世界がまるで…」
「まるで、作り物のよう」
「…!」

 イーザが言おうとした言葉をアルトが紡ぐ。それに驚いてアルトを見ると、アルトは笑っていた。

「…それは事実さ。この世界は本当に作られたんだから」
「…作られたって…」
「人々は本当に発展をしていった。これはゼフィアが関与したからではない」
「…ゼフィアは…この世界を本当に丸ごと、作ったの…?」
「ゼフィア、と言っても俺の父さんだけどね。俺の父さんは…それだけの力を持っている人だから」

 想像もつかない。世界を、本当に一から作った人が居るなんてこと。しかも作ったその人は、目の前で会話をしているアルトの―――父親だ、なんて。

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2007/01/09 - 2007/01/13
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