*01 知らない世界/後編*

「…あの、イーザって誰なんですか?」

 声の主はマコトだった。イーザの話では隣の家に住む俐咋としての幼馴染。ラインの頭の中に、彼の声が響き渡った。
 2セクターのデスマスター達は、生きていく上で使用している別の名前を持っている。また、人間にデスマスターであることを話さないし、知らせない。
  それらからして、その質問は、彼らにとっては至極当たり前の質問だ。この3人は、そのことを知らないのだと今更に思い出した。

「…こうなった以上は言うしかないんでしょうね。いずれ判ってしまうことですし」

 リファーレの言葉に、ラインが顔を歪めてから頷く。こんな状況になってまで隠し続けるということは、彼らの不安を煽る要素になってしまうだろう。話をすることは、やむを得ないことだ。

「イーザという名前の持ち主…、それはお前らの言う『俐咋』だ」
「貴方方が呼んでいたその名前は彼女の偽りの名です。貴方方の世界で必要な名前なだけ。彼女の本当の名前は―――」
「イーザ・ガーリシア。2セクター、ガイアのデスマスター。地球、日本で使用している名前は賀瀬 俐咋。偽りの名よ」

 説明をしようとして、背後から声がした。それに驚いたのはライン達だけでなく、3人も、だった。彼らが驚いているまま、イーザ本人が壁を支えにしながら、己の名を説明していた。
 その説明を聞いていて、はっとリファーレが我に返る。彼女は強力な保護をかけているために、力の消耗が激しいのではなかったのだろうか。体に問題はないのだろうか。心配になって彼女に問うた。

「イーザ、動いても大丈夫なのですか?」
「今のところは、何とか。ようやく落ち着いてきたところ」

 ライン、そしてリファーレと呼ばれたこの世界の存在と会話をする『俐咋』は3人にとって、とても遠い存在に感じた。同時に、自分達の知らない彼女が、少し、怖かった。

「ライン、2セクターと通信は…?」
「取れない。ゼウスは―――」

 ゼウスは、とまで言って黙るラインに『俐咋』はどうしたのかと聞いた。するとラインが口を噤み、視線を上げて扉を見る。それにつられて全員が扉を見た。そして、それを見計らったかのように、その扉が開き、緑色の長い髪が風に揺れた。

「こちらですね、3セクターデスマスター・ライン、及びリファーレ。そして2セクターデスマスター・イーザと…そのご友人」
「こんな辺鄙なところまでご足労戴いて、申し訳ありません」

 ぶっきらぼうな言葉遣いをしていたラインが畏まって喋るのを見て、全員がぴんと背筋を伸ばした。畏まるということは偉い人だ、ということだけは、3人にも直ぐに判ったからだ。リファーレとイーザは、あのラインが畏まっているのだから相当の位を持つ人であると理解をした。

「申し遅れました。ゼウスより参りました、使者のメイラと申します。イーザ、ご体調はいかがですか?」
「あ、はい、なんとか…」
「では、お話をさせていただきますので、皆さん席に付いていただけますか?」

 その存在に圧倒されたまま、彼女の話が始まった。

* * * * * * * *

「現在、2セクターは封鎖されています」

 その言葉に一番驚いたのはイーザだ。自分が元々住んでいる世界、守護する世界に立ち入ることができないと判って、喜ぶマスターなどいない。

「私どもが封鎖したわけではありません。何者かによって2セクター世界自体がアクセス不可能になってしまったのです」
「他の2セクターマスターは今…」
「2セクターマスターで2セクターに残っているのはオーヴァニア、イオティエー、ケーヴェン・ラーの3名。シーランはアナザーセクターに居ます」

 アナザーセクターという言葉を聞いて、イーザは目を丸くしたまま言葉を失ってしまった。
 そう呼ばれるのは0〜5のどれにも属さないセクターであり、存在自体が確立していない最も危険な場所。立ち入った者は殆ど帰ってくることができないとまで言われている。

「…引っ張り出そうとしているのですが、中々引っ掛からないんです」
「シーランが一番力がないからか…、それとも、転移が間に合わなかっただけか…」
「後者です。時空の歪みに飲み込まれアナザーへ飛ばされました」

 我に返ったイーザの表情が曇った。2セクターのマスター同士は仲が良く、友達のような家族のような間柄だったから、誰か一人でも抜けてはいけない、抜けるのが怖いと思っていた。それが現実に起きてしまった。
  そんな俐咋の表情を見てマコトの顔が歪んだ。それを一瞥しながら、メイラは詳しい話を続けた。

「辛うじて通り道が開けているのが3セクター以下。1セクターは時空の歪みの進入を防ぐため封鎖しています。イーザが飛ぼうとした時間にはまだ開いていたのですが、運悪く何者かにルート変更をされたようです」
「…てーことは、今は1、2セクターに飛べねぇのか?」
「はい、そうです」
「では、0セクターへは?通信が通らないんですがいけるんですか?」

 0セクター使者の貴方が来れたのだから、0セクターにも行けるのではないだろうか。リファーレの言葉に、メイラが一度渋い顔をしてから話を続けた。

「…ゼウスマスターの保護さえあれば1、2以外は行けます。貴方方はゼウスマスターの保護は受けていませんので、今は…」
「…無理、か」

 それは仕方のない話だ。
 世界が不調であるとはいえ、世界の管理者であるゼウス本人が来るわけにもいかない。当分はメイラが情報伝達を行うという旨を聞き、それを了承する。

「…何か、ゼウスに伝えることは有りますか?」

 そのメイラの問いに、にっ、とイーザが笑った。

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2006/12/06
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