強がり、時々、気の迷い

その小さな過ちを聴くたびに、俺は拗ねたフリをする。
その小さな過ちを聴くたびに、本当のココロを隠して。

いつになったら、覚えてくれるの。
いつになったら、俺の存在を刻みつけてくれるの。
あの、偽りの幼馴染のように、満面の笑顔を、向けてくれるの。

「アルト?」

ほら、また。
そうやって、俺のココロを抉るんだ。

「じゃなかった、と」
「あのさ、何度間違える気?」

半眼になって、じっと見つめる。
それは冗談半分の会話だと、感じるのだろうか。
俺は本当に、痛くてたまらないのに。

「ごめん、そんな拗ねないでよ」
「俐咋」

俺はにやりと笑った。
ああきっと、とても凶悪な顔をしているんだろう。
大好きな彼女が、一歩退いた。

「な、何」
「何だと思う?」

伸ばした手が触れた先は、柔らかな髪と、頬。
さらに後ろに下がるそこは、偶然にも壁。
神様、なんて祈ったりはしないけれど、感謝はしてもいいかもしれない。
壁に手をついて、小さく牽制。
もしその瞳が、俺を捉えてくれないのなら、

「と……」

俺しか見えなくなるようにすればいい。
たとえそれが、恐怖でも。
偽りの幼馴染が、彼女の記憶から思い出されなければ、いい。

彼女の唇に、キスをした。
深く、もっと奥に、蕩けるくらいに。
そんな長いキスの後で、涙目になって睨む彼女を、愛しいと思う。
俺だけを見てくれる彼女が、愛しい。

「変態」
「キスが?」
「全部よ、全部!……って、なんで笑うのよ!」

破顔した俺を、彼女が怒る。
だって、嬉しくて。
一番大好きな人が、俺の近くにいるから。
一番大好きな人が、俺を見てくれているから。
今は、彼女の意識全てが、俺だから。

「そんな怒るなって。ゲームだから」
「どこがよ!」
「悪いのは、俐咋」

俺は壁から手を離して、彼女の目を覆った。

「ちょ、何」
「簡単なゲームだって。俐咋はただ、間違えずに俺の名前を、『冬哉』と呼ぶこと」
「……」

そこで黙るのは、後ろめたさがあるからで。
一応、悪いとは思ってくれていると思っていいかもしれない。
けれど。

「もし、間違えたら」

俺は、彼女の目を覆ったまま小さく笑って、耳朶に小さく噛み付いた。

「……っ」
「俐咋」

苦手なのを知っているけれど、あえて耳元に唇を寄せて、告げる。

「ひゃ、アル……」
「また間違えた」

今はさきほどまでのように、真っ黒な感情は無かった。
ただ、ものすごく楽しくてたまらない。

「お仕置き」

耳元から唇を遠ざける。
次の標的は、柔らかな肌に、首筋に。
彼女には、吸い付くような痛みを与えて。

彼女の肌に咲いたのは、小さな1つの印。
誰のものでも無い、俺のものという印。

「ちょ、こんな目立つ……」
「じゃ、間違えるな」

彼女の言葉を遮って、笑う。
また黒いだろう、そんな気がする。

「次また間違えたら、1つずつ増やしていくからな」
「な、ちょ、それ」
「間違える俐咋が悪い」
「う」

俺は彼女から離れて、最後に1つ、爆弾を投下する。
多分それは、時限付き。
爆発するのは、今日か明日か、それとも。

「でも俺、優しいから」

嫌な予感がしたのか、彼女が身を固くする。

「あと3回までは、印で許してやる」
「3回、越えたら……?」
「聞きたい?」
「いい、いいから、聞きたくな」
「有無を言わさず、俺の部屋に御招待」

いやもう変態、とか。
そんな言葉を投げられたけれど。
ココロを満たす、温かなそれは、1つの確信。

「何日もつかな」

その小さな過ちを聴くたびに、俺は拗ねたフリをする。
その小さな過ちを聴くたびに、本当のココロを隠して。

いつになったら、覚えてくれるの。
いつになったら、俺の存在を刻みつけてくれるの。
あの、偽りの幼馴染のように、満面の笑顔を、向けてくれるの。

その小さな夢が叶う日は、近いかもしれない。


鳴葉ゆらゆさんからまたも戴きました!いいよね強気なアル…冬哉!(どっちで書けばいいか迷った)
俐咋は冬哉に圧されるといいよ!←
優しいといいつつ実は優しくないってのが冬哉っぽくて、流石です、鳴葉さん。

そうそう、ロゴを作っておいたらしいのですが(HTML化してて気づいた)、なんぞこれと思ってしまったので作り直しました。原本消去したのでないんですけど(笑